奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百四十二話 奥多摩帰還

 みちのくダンジョン・直江津ダンジョンと二つのダンジョンの40層を確認した後、俺たちは奥多摩に一度戻った。その二つで何か起きなかったって? 勿論起きたが思い出したくないので割愛する。

 

 明らかに見た目中学生くらいのエルフ少女ガチ恋勢になっていたニンジャや小さくなって顔かたちまで変わった俺を見て「斬鉄剣で華は斬れん……」とか漢女(おとめ)泣きするサムライガールが居た気がするが割愛する。

 

 貴女別に斬鉄剣を持ってるわけじゃないだろうと言うとこれから40層で開発にチャレンジするので刀匠の藤島さんを貸してほしいと言われた。猫の子じゃないんだからと断った。ところで元の状態だったら俺を斬るつもりだったという事だろうか。流石にそれは上杉さんでもないだろ……と信じたい。

 

 勿論全国40層巡りツアーが終わったわけではない。奥多摩の近くには忍野ダンジョンがあるが、そちらに行くという訳でもない。いや、この後すぐに行くことになるのは確定してるんだけど、今回は奥多摩に用が出来た。

 

 というのも、奥多摩でアガーテさんが造っていた人形の記念すべき第一号が出来上がったと報告が入って来たのだ。

 

「説明しよう! このオートマトは人類が手掛けた初の魔法式――」

「あ、アガーテさんそういうのは良いんで」

「……錬金術師に自作の説明をさせないというのは、だね。畜生にも劣る所業なんだよ……!?」

 

 アガーテさんに対する塩っぷりが板についてきた一花の言葉に、アガーテさんは怒りの表情も露に食って掛かる。しかしこうしないといつまでも話し続けるのはもう分かっているので、多分この扱いが変わる事は今後ないだろう。凄い人なのは重々承知してるんだが。

 

 そう。アガーテさんの技術力は本当にすごい。彼女が、たった1週間かそこらで作り上げたこの目の前にある人形は、その事を如実に表していると言っても良い。

 

 魔鉄とエレクトラム(金銀合金)を使って模した人間型の骨格、張り巡らされた弾力のあるツタのようなものは、筋繊維の代わりだろうか。確か40層の商人の店で売っていたものだ。それらの内部部品を覆うように魔樹を使用して作られた外殻と、ご愛敬のやたらと精巧に作られた結城一路の顔。

 

 これだけの代物をこの短期間に出してきたのだから、脱帽としか言葉が出てこないのも仕方ないだろう。牢獄代わりに使っている案山子のようなものが出てくると思っていたのだが、その考えは彼女を侮辱するものだったかもしれない。

 

「これだったら結城さんに入ってもらってもいいかもしれない」

えっっっ!!!!? まってくれこれはいち」

「はいアガーテさん、そろそろ真面目にやろうか」

「マスター! 私は、私はこの上なくまじめだぞマスター! あと少しで純粋一路100%が! 私の夢と希望とロマンが詰まった一路尽くしが!!!」

「始まらないから」

 

 本当に技術力は凄い人なんだよ。多分この骨格、アガーテさんが一人で成形したものだろ。こんなもの作る設備ヤマギシには存在しないからな。

 

『水銀の錬金術師というより、金属の錬金術師と呼んだ方が適切かもしれないね』

 

 右手から顔をのぞかせた結城丈二が、アガーテさんの力作を眺めながらそう呟いた。アガーテさんの二つ名はその持ち前のオタク気質から開発してしまった『月霊髄液もどき』が原因だが、彼女の目標である未知の金属の生成を考えればそちらはあくまでも余禄のようなものだろう。

 

 そういえばあの金属についてはその後の進捗を聞いてなかったな。姉を名乗るエルフ少女ならあの金属の正体に心当たりがあるかもしれない。

 

 

 

 

 俺の変身は恭二が開発した魔法の“変身”とは色々違う部分がある。何かを模するというところは同じだが、その後に起こる現象に違いがあるのだ。

 

 まずサイズだ。恭二が開発した魔法の変身は薄っぺらい魔法の膜のようなもので全身を覆ってイメージ通りの外見に変えるものなので自分より小さなものだったり大きすぎるものにはなれない。20センチくらいなら大きくなっても問題ないらしいがその場合視線が明らかにおかしくなるそうだ。

 

 それに対して俺の変身魔法は骨格がどうなってるのかってレベルで変わることが出来るガワだけではなく中身も一緒に変わっているのだ。また明らかに3m近い人物に変身した際も、その直後に豆粒ドちびニーサンに変身しても問題なく行動できる。

 

 俺の場合は変身というよりも、変身を使う度にその都度別の誰かを被っているという認識だからこれが出来ているのだろう。体を動かすのは変身先の誰かであり、当然自身の肉体に対して熟知している。彼らは俺の内部世界から変身の度に外部に出て体を動かしているのでサイズの違いなんて感じることもなく即座に行動が出来る。

 

 つまり何が言いたいかと言うとだ。

 

 俺の内部世界から出てきて俺の体に被せる誰かを、他の物に被せるとどうなるか。

 

 その結果が目の前にある。ほぼ完全に俺から独立した形で二本の脚で立つ、結城丈二の姿として。

 

「完全に自分の体として外を歩くのは初めてかな」

「ひも付きなら出たことあるじゃないですか。飲み会で」

「あれは内部から外に出張しているような感覚だったからね。最低限のつながりは感じれど、完全に独立して立っている。これは、それこそ意識を持って以降初めての経験だよ」

 

 感慨深げに自分の顔を手で触ったり、周辺を見渡す結城丈二と会話を交わす。ダンジョン外で誰かを外部に出すと急激に腹が減るのだが、人形を介する今回の呼び出しではその感覚が来ない。

 

 あの飢餓感は急速な魔力の欠乏によるものだから、外部に誰かを存在させる――それこそ体を一から魔力だけで作り上げると言うのは、とんでもない魔力を必要とするのだろうな。

 

 人形という依り代があるだけでここまで安定して外に出せるならそれこそ2,3人でも外に出せそうだ。

 

「いや、それは少し気が早いかな。君から独立して外に出てるからだろうが魔力の補充が出来てない。今の状況ではもって20分くらいで体を維持できなくなりそうだ」

「む、それは懸念していたのですが。開発の際、魔樹を多めに使用する事で対策したつもりだったのですが。人形に使われている魔樹からの魔力では補充できませんか?」

「難しいだろう。英霊を召喚し使役するというだけで破格の魔法だ。依り代があるとはいえその魔力消費を考えるとエルフィンウッドとはいえ賄いきれまい。それこそ長老樹本体が傍に居ればともかくとして……まぁ弟の領域であれば魔窟の補助もあるゆえ問題ないだろうが」

「つまり40層がコミケのコスプレブースになるんだね!」

「なりません。夏コミ楽しかった?」

「うん!!!!!!!」

 

 大学の友人や姫子ちゃん、あと母国にも帰らず大型連休を取ったAKIBAの面白外人して有名になって来たベンさんと一緒に夏コミに参加した妹の笑顔が眩しい。

 

 あんな大規模イベントで姫子ちゃんみたいな顔だし有名配信者が歩いてて大丈夫なんだろうかとも思ったが、参加後も特に大きなニュースにはなってなかったから大丈夫だったんだろう。

 

「姫子のリスナーはちゃんと訓練されてるって界隈でも有名だから大丈夫だよ!」

「何が大丈夫かは分からないが分かった」

 

 これだけ強調するという事は大丈夫だったんだろう。俺もそうあれかしが無ければ参加したかったんだが仕方ない。流石にこの需要過多の状況で投げ出すわけにもいかなかったし姉を名乗るエルフ少女が大人しく留守番してくれるわけがないだろうし彼女が付いてきたらそれこそ大騒ぎになるのは目に見えている。

 

 冬は冬で忙しそうだしリアル野球BAN出演という人生の目標レベルのイベントもあるし暫くコミケに参加するってのは無理そうだな。

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