「うん、問題なく行動できる。40層なら魔力切れで動けなくなることはなさそうだ」
「1層だとカラータイマーなりっぱなしだったのにね! やっぱり階層によって魔力の濃さが違うのかな?」
「カラータイマーをつけるのも考えた方が良いかもね。戦闘中に魔力切れなんて目も当てられない」
「おっとボケを真面目に返されると心が痛いね」
結城さんを入れた人形、仮称魔装人形とでも呼ぶべき代物の性能テストは奥多摩ではなく忍野ダンジョンで行われることになった。元々向かう予定だったというのが主な理由だが、奥多摩ではほぼ同じコンセプトで作られた案山子が実績を出してるってのもある。
あの案山子で問題ないならそれよりも手間暇かけた魔装人形が動かないわけがないだろう、というのが創り手であるアガーテさんの論だが、まぁそらそうだよな。勿論、後々でテストは行う予定だが、後回しにしても問題ないくらいの優先度だろう。
忍野ダンジョンの40層も奥多摩や他のダンジョンと同じくエルフの王国を模した階層で、奥多摩と違ってやはり影しかいないが機能は同じらしく、一通り問題ないか試したあとに魔装人形に入った結城さんに素材の換金が出来るかを確認してもらったらこれも問題なし。俺からのれん分けした魔装人形があれば、他のダンジョンでも素材の一括換金が出来るという事が分かった。
「そうなってくると魔装人形の価値が爆上げされちゃうんだけどアガーテさん、これって量産は」
「ヤマギシの職人と設備があれば作れるでしょうね、真新しい技術は何も使っていませんから。ただ、この場合むしろ問題は人形ではなく中身でしょう。鈴木一郎以外にこれの中身を入れ込む手段があるとは思えません。どうやってるのか想像もできませんから」
「ですよねー」
一花の言葉にアガーテさんが珍しくまじめ1000%の回答を返す。これがずっと続くと嬉しいんだが難しいかな。難しいよな。
「なんとかならんか?」
「なんともならんです」
我らがビッグボス山岸社長の折角のお言葉だが、俺としてはそう答えるしかない。
西伊豆のダンジョンでも同じ結果になることを確認した俺たちは、当然その結果を上長である真一さんに報告した。つい1時間前の話だ。
「あぁ……そっかぁ……」と少し遠い目をして答えた真一さんはどこかしかに電話をかけ、そして血相変えた山岸社長が飛び込んできて今に至る。
お話の内容はあれだ。魔装人形を大量配備できないか、せめて国内だけでも――と言う話だ。
「国内のダンジョン関係の方々からなぁ。問い合わせが凄くてなぁ」
「冒険者協会って守秘義務あるんじゃなかったですっけ」
「冒険者協会がダンジョン経営者に逆らえるわけないだろ?」
数多いるダンジョン経営者でもトップと言われる人が言うと説得力が違う。
まぁ、いくらボスのお言葉でもそんな気軽にうんと言えるものでもないんだがね。俺の能力くらいの認識で皆は思ってるかもしれないが、俺の認識では内部世界にいる数多の彼ら彼女らはれっきとした一個人で、かつ俺の一部だ。説明が難しいが、個人としての自我を確立した自分の体の一部だと俺は感じている。
必要だからとポンポン自分の体の一部を、しかも自我を持った存在を人形に押し込めて長期間労働を強いるのは流石にどうかと思うわけだ。
その点を山岸社長に伝えると、社長は意外なことを聞いたと目を瞬かせた後、うーん、と唸り声をあげて考え始めた。ヤマギシ社内の『ブラック労働ダメ絶対運動』は社長自身が発起人で、社長なりに理想の労働環境を整えるために色々頑張ってくれている。昔、コンビニを始める前に何事かあったのが原因らしいが、その辺の事情は良く分からない。
『俺らは別に構わないけど、待遇はどうなんだ?』
「おっとエドワードさん???」
なんとかゴネてこの話を有耶無耶にしようとしたら右手からにゅっと出てきたミニ豆粒ニーサンに背中を撃たれる。あの、さっきまで一生懸命交渉しようとしてたのにそういう事されるとちょっと、その。
「週休二日、給与は日当10万でどうだ? もちろん各人格ごとに口座は作るし、ヤマギシ社員として扱わせてもらう」
『送り迎えで消えたくないから一郎の送迎はつけてくれよ?』
「それは構わんが」
「構ってください」
「構わんな?」
「はい」
社長の一声に抗う事も出来ず俺は首を縦に振った。仕方ないんだ、長い物には巻かれろと古事記にも書いてある。一社会人、いやさ日本人として上長に逆らうなんて事が出来るはずもない……なんだか逆らう意味もなさそうだし。
「一郎もなんだかんだで多忙だからな。基本は40層での缶詰になるし、休日の度に外部に出すという事も現状だと難しい」
『20分しか外に出れないんじゃなぁ。そこは
というか思った以上に内部の彼ら彼女らが乗り気なのがビックリと言うかショックだ。そんなに外に出たいものだろうか。あの内部世界、たまに潜るたびに住み心地良さそうで羨ましく思ってるんだが。
社長と真一さん、それにニーサンと途中で入れ替わって交渉を始めた結城さんとの話し合いはそれから2時間ほど続き、結果として日本国内11か所の各ダンジョンは40層が解放され次第、常に2体の魔装人形を置くことになる。
配属される魔装人形には希望者が殺到。流石によく使うスパイディや結城さんといった面々、出したらトラブルにしかならないのが目に見えているカズマのような連中には自重してもらったが、残った面々は厳正なくじ引きを行ってもらい赴任者を決めることになった。
というか人気がありすぎて長期赴任の筈が1月交代という形になってしまった。あの、交代のたびに俺が迎えに行くことになるんですがそれは。あ。いえちゃんと迎えに行きます、はい。