奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百四十五話 資源に弱いお国柄

「もちろんこのままの条件なら断る」

「ヤマギシさん! お願いします考えなおしてヤマギシさん!」

 

 秘書課の女性に小脇に抱きかかえながら外務省職員さんはそう叫ぶも、社長はとっても疲れた、という様子で首を横に振る。体格的には秘書さんの方が小さいから事情を知らない人からすると驚きの場面だが、秘書さんの胸に燦然と輝くレベル20バッジの意味を知っていればまぁ納得できるだろう。ヤマギシ社員は週1でダンジョンに潜ってる冒険者で構成されているから、内勤にも高レベルの冒険者が居たりする。

 

 多分やろうと思えば片手で釣り上げるとかも出来るんだろうが、それをやると今度は持ち上げられる方の負担がヤバいからな。持つ場所が圧迫されて骨折なんて事が起きかねない。

 

「そもそも一郎に全部おっ被せるってのは論外だ」

「はい。もしも社長が前向きに考える、と言われたらどうしようかと思っていました」

「原油価格がどうこうって言われてもなぁ。その為に一郎に無理させるのは違うだろう」

 

 社長の言葉に即答するようにシャーリーさんが頷きを返したタイミングで、外務省職員さんは美人な秘書さんに小脇に抱えられたまま、叫び声を上げながら室外へと去っていった。

 

 それを皆で眺めた後、誰かが吐いたため息を合図に会話が再開される。

 

「日本の外務省は資源に弱いと聞いていましたが、予想以上ですね。もう日本も資源輸出国の側に立っているというのに」

「まぁ、10年くらい前にサブプライムだかなんだかで酷い目にあったからな。今のお役人さんはその辺りが記憶に残ってるんだろ」

「俺はガキだったから全然記憶が無いんだが、そんなに酷かったのか」

「リッター180だか90だかまで値段が上がってなぁ。あん時はガス屋に行くのも嫌だった」

 

 シャーリーさんの言葉に社長が嫌そうな表情を浮かべて返す。10年前というと俺たちはまだ10歳くらいの頃か。ガソリンスタンドなんてアイスを買いに行くくらいしか行ったことなかったな。

 

 

 

 断ると決めたらさっさと伝える。我らがワンマン(ワンマンとは言ってない)社長の鶴の一声で決まった方針を元にヤマギシは動き始めた。といっても面と向かって全否定なんて事はしない。そんな真似国家相手にしたらどんな騒ぎになるか分かったもんじゃないからな。

 

 まず最初に相手側の出してきた条件を読み込み、ヤマギシが条件を飲める部分と飲めない部分に分け、飲めない部分に関して対案としてこちらが容認できるレベルまで引き下げた条件を外務省に提出。今回は一企業を飛び越えて国家間での約定にまで話が飛んでしまうから、面倒ではあるが外務省を通して話し合わないといけないのだ。

 

 問題になる部分、ダンジョンの40層についてであるが、日本国内のダンジョンは確かにほぼすべてが奥多摩と同じような作りではあったが、国外のダンジョンでは全く違う造りやモンスターが出るダンジョンも確認されていたりする。この事を考えると日本国内と同じように管理できるかは正直予想できないため、かの国の該当ダンジョンの条件が合わなければ今回の契約は無効になるという条件を追加した。

 

 俺が40層で色々出来るのは、姉を名乗るエルフ少女と半ば同化に近い現象を引き起こしてしまったからだ。この影響力が国外のダンジョンでも同じように使えるかが分からない以上、実際にやったらできませんでした、なんて事が起きるかもしれない。安請け合いなんて出来るわけがないのだ。

 

 次に40層までの攻略に関してだが、これに関しては受けても良い。受けてもいいのだが、40層まで攻略したとしても現地の冒険者が育っていなければ宝の持ち腐れになってしまう。

 

 というのもそもそもいきなりダンジョンに施設や拠点をを作ったとしても、期待通りの利益が出せるかが怪しいのだ。

 

 仮に40層に両替所があってもそこへ持ち込むドロップがゴブリンやオーガのドロップばかりだと意味がない。それこそ万単位であれば話は別だが、そんな量をこまめに交換できるのは臨時冒険者の奥様方が毎日のように1から5層までを埋め尽くしている日本と米国くらいだろう。農業や牧畜にしたって維持するのにはダンジョン硬貨が必要なのだから、そこそこの階層のドロップ品を算出する冒険者が育っていなければ効果的に利用することは出来ない。

 

 また、冒険者としての面で言うとあそこの施設はある程度以上に育った冒険者が更に前へ進むために存在しているのであり、レベル10くらいのようやく一人前レベルの冒険者じゃスキルが手に入ったとしてもそれを活用する魔力も経験も足りない。

 

 日本や米国レベルとは言わなくても、せめて先行しているG8各国の冒険者並みに冒険者が育ってからでなければ40層の施設を役立てることは難しいし、そうなってくると40層の維持なんてただの重しにしかならない可能性がある。

 

 そのため、40層までの攻略は請け負うがその後40層に拠点を作成するのは十分に国内の冒険者が育ってから。それこそ平均的な実力の冒険者が毎日のように10~20層で狩りを行い、上澄みが30層を突破し40層手前までいけるようになってからだ、というのが目標になるだろう。

 

 もちろん、この時点で40層の拠点を作るのはどれだけ早く進行したとしても2,3年はかかる事になるし、このまま相手側に提出したらまたぞろ終わらない条件闘争が勃発する可能性がある。元から相手側がかなり不利な条件なのに更に条件を付けると言うのは、外面的に非常によろしくないので余り無理も出来ない。

 

 とはいえそこは我がヤマギシが誇る社長の外付け知能ことシャーリーさん。相手側にもう一文。例の絶対にこれだけは譲らないという条件を飲む代わりに、相手にとっても。少なくとも相手の主張を丸呑みするならばかなり嬉しい条件を付け足してバランスを取る事も忘れてはいなかった。

 

 その事に気づいたのは、その翌日。

 

 全身にCCさくらの痛車ラッピングを施されたこれ本当に公道で走っていいのか分からないハイパーカーに乗って現れたアーキルさんが、俺をハグして『任せてくれ。理想のさくらたんを一緒に育てよう!』と叫んだあたりだった。

 

「シャーリーさん???」

『まずはおさらいとしてアニメ全話視聴と単行本を読破だ! 大丈夫、今日一日はすべてのスケジュールをキャンセルしてある! 寝なければ余裕をもって2週目に移行できる余裕がある! 私が隣で各キャラクターの状況や解説を交えるからこれだけで理解度もバッチリさ!』

「イチローさんが国外に赴くのはやはりリスクが大きいので。40層の管理者に木之本桜たんさんを迎えるにはダンジョン外での制限時間等の技術的な束縛が大きく、またイチローさんが普段行う変身とは条件が違いすぎるため現状では難しい、と付け加えたんですよ」

『つまりさくらたんが一人でお出かけをすることが出来るようになって、かつイチローがより深くさくらたんを知ってくれれば解決するという事だね!』

「ちょっとした探りのつもりだったんですが、このご様子なら違うようですね。意図した反応とは違いましたが、一安心という所でしょうか」

「シャーリーさん??????」

 

 肩の荷が下りたとばかりに溜息を吐くシャーリーさんに呼びかけるも、反応は返ってこない。

 

 結局その日はアラブの石油王と肩を組んでCCさくらを観ました。最高でした。流石に徹夜はせずに日付が変わる辺りで眠って(気絶)もらったけど、傍に控えてたSPさんからは控えめなグッジョブサインを貰ったので大丈夫だろう。

 

 とりあえず明日は……これ、こういう場合って版権元に挨拶とかするべきなんだろうがどう対応すればいいんだろうか。肖像権的なものになるのかな?

 

 ええと、いつも楽しく読ませてもらってます。突然ですが貴方方のキャラクターを人形に落とし込んで喋ったり歩いたりできるようにします……これいきなり言われたら相手がどういうリアクションになるか怖いな。正気を疑われるのは流石に嫌だぞ。

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