奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百四十六話 試行錯誤

 試行錯誤、という言葉がこれほど当てはまる仕事は割と記憶にないな。

 

 目の前で熱く語り続ける漫画家さんと石油王という不思議な組み合わせを眺めて、ふとそう思う。

 

 ここにやってきた当初は、少し浮ついた気持ちだった。学生の頃、職場見学のニュースなんかで有名人に話を聞いている同学年の姿を見て、少し羨ましいなと思った事もある。それがまさかこの年になってから、しかも子供のころから知ってる作家さんの仕事場に行く機会が来るとは、と。

 

 初代様やスタンさんと初めて会った時もこんな気持ちだったな、と奇妙な懐かしさを感じながら彼らのスタジオを訪れた俺を待っていたのは、血走った目でスケッチブックを抱える漫画家さんたちだった。

 

 浮ついた気持ちなんか急転直下で地面にめり込んでいった。

 

「あの、これは一体」

「貴方の!! 耳を!! 描かせてください!!!」

「はぃ」

 

 勢いに負けた。ナイアガラの滝みたいな激情がぶつかってきて正直怖かった。

 

 30分ほど延々と色々な角度からのスケッチや写真を撮られた後、ふと我に返ったシナリオ担当の鶴の一声により当初の予定であるキャラクターの造形や造りこみについての話に戻るまで、一切逆らわず流れに身を任せて護身しきることが出来たのは褒められてしかるべきではないだろうか。アラブの石油王? 目を輝かせてスタジオを見て回っていたよ。

 

 作家先生たちが正気に戻ってから、まず最初にしたことは外見の固定だった。

 

 これは今回の変身では、かなり手間暇かけないと高クオリティな変身にすることが出来ないからだ。

 

 俺の変身の完成度は、俺自身がその変身先にどれだけ寄せられるかという部分にかかっている。俺自身と変身先の共通事項が多ければ多いだけ感覚を寄せることができ、それがクオリティのアップにもつながる。

 

 共通事項としては、まず右手に何か特徴があるかから始まりその後に人間と言うカテゴリかそうでないか、性別は、身長は、と細かい条件になっていく。つまり成人男性である俺とJSである木之本さくらたんの間には多数の相違点があり、当然最初から高クオリティな変身を行うことは出来ないという訳だ。

 

 ということで資料として用意してもらった等身大木之本桜たんフィギュア(石油王私物)をじっくりと観察し、いつもの調子で変身をして即ダメ出しを喰らう。

 

 左右の間隔をもう少し弄って、髪の毛のボリューム、色気を出してどうぞ。様々な突っ込みとそれ本気で言ってるのかという要望に応えたり応えなかったりして幾度も変身を続け、これは、という出来栄えになったと個人的に思った時、デザイン担当の方に最終判断を伺う。

 

「なんかズレてる気がするから最初からやり直さない?」

「すんませんイメージでやってるんでリセ効かないんスわ……」

「あー、ああそうか。いつもの調子でつい。申し訳ないです」

 

 割と自由に変身してるように世間様には思われてるようだが、一度変身を固めるとそれを調整するのはかなり難しかったりする。こういうやり取りを繰り返し、再び等身大フィギュアとにらめっこをした後に微調整を繰り返す。地味で面倒な作業だが、これを潜り抜けなければ満足のいくクオリティには出来ない。

 

 大体日付が変わる辺りで一般人である漫画家先生たちがダウンしたので一旦作業は終了し、内面を固めるためのアニメーション視聴へと移行。先生方が復活したら再び外見の修正を行い始め、流石にこれ以上は無理だと無理やりスケジュールを開けてついてきていた石油王がSPに引きずられて消えていき。

 

 3日目に入る頃には外観に関しての大まかな作業は終了。デザインを担当したという先生がただ一言、目の前でクルリと回って全身を見せた木之本桜に対して「完璧」と呟いたことで、今回の作業は終了となった。

 

 恐らく過去1で作り上げるのに手間がかかった変身だが、少なくともガワに関しては完璧と言える仕上がりになっている、と思う。後は時間をかけて変身を重ね、完成度を引き上げていけば内部的な意味での『人格』も芽生えてくれるだろう。

 

 いや、もしかしたら全く類似点の無い変身を完成させた、という意味では過去最速かもしれないな。苦手な女性への変身をたった数日で完成させたと考えるとかなり早い気がする。御坂美琴の時は忙しくて集中できなかったとはいえ、ガワを固定するのにも一月くらいかかったからな。その分、手間暇はもちろんかけているが。

 

 

 

「それでサイン貰って帰ってきて、終わり?」

「いや、その後は写真会だった」

「写真会」

「なんでも資料にするんだと。それを条件にスケジュール開けて貰ったみたいだからしっかり働いてきたよ」

 

 自分の中での新記録が出来た、と内心ではしゃいでいたらそのままの格好で連れ出され、大体半日くらい色々なロケーションで撮影を行った。わざわざプロまで連れてきての写真撮影はなんだかモデルにでもなった気分だったな。

 

「いや、完全にモデルじゃん。さくらちゃんコスの」

「作者公認でもコスっていうんかね」

「う、うーん。さくらちゃんのコスプレ……いや、作者が造形したんならそれはコスチュームプレイとは言わない、のかな? 他に例がないからどういえばいいのかわかんないなぁ」

 

 作者に許可を貰っててもコスプレとなるはず、いや作者が作り上げたならそれは。答えが纏まらないのかうんうんと悩む妹を横目に何枚かのカードを手に取る。カードキャプターさくらは魔法少女ものの一作品で、様々な魔法が存在し主人公である木之本桜もカードを用いて魔法を行使する。

 

「我に撫子の花を与えよ」

 

 効果を頭に思い浮かべながら呪文を口にすると、カードが光り輝き手元に魔力で出来た花が現れる。これも可能、か。杖を掲げなくても発動できるのは助かるが、少し余分に魔力を消費している感触はある。

 

 完成度も着々と高まっているし、もう少し色々な魔法を使ってみよう。フライとか一度使ってみたかったし。滑空とかなら何度もあるんだが、自在に空を飛ぶってのは経験ないし練習がてら40層でちょっと飛んでみるかな。

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