奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、ナナフシ様、244様、ドッペルドッペル様、ハクオロ様ありがとうございます!


第三百四十七話 男でもいいんだ……!

『奥多摩でイッチがCCさくらの変身に成功して夜な夜なリアル木之本さくらちゃんがフライで空中遊泳をしてるらしいぞ!』

『……奥多摩行ってくる』

『やめろ! 行っても会えるか分からんしなによりイッチは男だぞ!?』

『男でもいい!』

 

『男でもいいんだ……!』

 

 

 

「なんて地獄絵図がSNSで散見されるようになりましたね!」

「ええ……」

「ツーン」

 

 ついに夏休みが終わり、毎日目黒までヒィコラと通っている妹が出合い頭に爆弾を投げつけてきた。なんかここ最近駅が混雑してると噂に聞いてはいたが、そんな理由だったのか。

 

 別に夜な夜な空中遊泳をしてるわけではないんだが、どこからこういう情報は広まるんだろうな?

 

「そりゃ作家先生がお兄ちゃんの写真をツブヤイターでアップしてマウント取ってるからじゃん?」

「なんでマウント取ってるんですかねぇ」

「めちゃめちゃ嬉しかったらしいよ?」

「ツーン! ツーン!」

 

 ほら、と一花が見せてくれたスマホの画面には「娘が会いに来てくれました」と満面の笑顔を浮かべた作家先生方とピースサインを浮かべる俺の姿が写っていた。いや、俺は男なんだが、という突っ込みは言うべきだろうか。

 

「言ったら流石に空気読めてないどころの話じゃないかもね!」

「流石にそれくらいは分かるって」

「所で姫どしたん? お兄ちゃんに引っ付いてずっとツンツン言ってるけど」

「いや、泊りがけって事伝えるの忘れてたら拗ねちゃって」

「ツーン!」

 

 拗ねたように無言で背後に引っ付く姉を名乗るエルフ少女に、一花が苦笑を浮かべて目でなんとかしろと合図をしてくる。俺だってなんとかしたいんだが、子泣き爺のように俺の背中に引っ付いたまま何も言わない相手に出来る事なんてせいぜい彼女がアイスを食べる際に背中が汚れるのを我慢するくらいだろう

 

「そういえば最近見ないが姫子ちゃんは元気か? 確か一年の内は同じキャンパスだろ」

「うん、元気だよ。ショタ属性に目覚めようと頑張ってるみたい」

「いきなりどうした???」

「いきなりじゃないんだよなぁ」

 

 この姿になった時お見舞いに一度来てくれてからは顔を見てなかったが、そんな事になっていたのか。いったいあの娘になにがあったんだろう。

 

 

 

「イチローさん、写真集を撮りましょう」

「絶対に嫌です」

 

 アガーテさんに呼ばれてヤマギシ社内を移動していると、見覚えのあるナマモノがドコドコドコと足音を立てて走り寄って来た。名前は忘れたが広報部のナマモノだ。

 

「そんなこと言わずに! 大丈夫、先っちょだけ! 先っちょだけだから!」

「みんなそう言うんですよ」

「その反応が返ってくるのは予想外と言うか言われた事あるの? え、相手はウィル? もしくは昭夫ライダー? ちょっと同人出していい?」

「ダメです」

 

 関わると疲れる。その確信をもってそそくさと退散しようとするも、ドコドコドコと機敏に足を動かして俺の行く先へと先回りし続ける。というかこいつ足速いな。ちゃんとレベル上げてる冒険者の動きだ。

 

「そう言わずに! 間違いなく名作になる! そんな予感が私の脳髄を走ったんだキュピーンッて!」

「そんな予感ゴミ箱に捨てて下さい」

「これをすてるなんてとんでもない! あ、もう到着か。こちらの書類オガワ部長からのものです。確認と受け取りのサインお願いします」

「はい…………はいどうぞ」

「確認しました、ありがとうございます」

 

 サインを受け取り広報部のナマモノは足早に去っていく。趣味人の集まりである広報部の人は、応対するだけで一苦労だ。これで趣味一辺倒ならこちらも強く言えるんだが、あの人たち大体仕事出来る趣味人だからな。許される範囲のギリギリで来るから質が悪い。

 

 気分を切り替えるために一息吐き、そして息を吸う。よし、落ち着いた。

 

「アガーテさん、何か用事があるって聞きましたけど」

 

 ドアを開けて室内に声をかける。この部屋は主にダンジョン産物の研究をするために作られた実験室だ。設備も資材も整っているので現在はアガーテさんがメインで使用している。

 

「……一路ー! 3日ぶりじゃないか! 元気だったか! 泊りに行っても良いか!」

「あ、はい。イチローです。そちらもお元気そうですね。泊りには来ちゃダメです。それと飛びつかないでください」

 

 真剣な表情を浮かべて骨のようなドロップ品を眺めていた彼女は、俺の来訪に気づいた瞬間に目を蕩けさせ、顔を上気させたまままっすぐ飛びついてきた。元の体格なら俺の腰当たりにダイブしていたので気にならなかったが、現在はすぐ目の前に顔があるせいでかなり困る。特に胸元にぶち当たる身長の割に大きなお山が困る。内部に横島が居なくてよかった。

 

「……やっぱり匂いが違う」

「あ、そっすか」

 

 まぁ、すぐに離れてくれるので大きな問題にはならないんだが。なんでも彼女が好む一路の匂いと現在の俺の匂いは若干異なるらしく、抱き着いてくんかくんかするとすぐに現実に引き戻されてしまうらしい。一路の匂いはなんか怪しい薬と同じ効果があるんだろうか。彼女がおハーブキメてるだけじゃないのか?

 

 疑問は尽きないが、とまれ今は早めにアガーテさんが正気に返ってくれたのを喜ぼう。一度トリップすると小一時間戻ってこなかったりするからな。

 

「……アガーテさん、もしかしておハーブキメてらっしゃる?」

「ん? この部屋の芳香剤にはハーブ系は使っていないぞ」

「あ、なら大丈夫です」

 

 とりあえず聞いてみたが違ったらしい。良かった、これではいとか言われてたらリザレクション連射してたぞ。

 

「? まぁいい。随分と待たせてしまったが、ようやく完成したこれを君に送ることが出来るよ」

「待たせた……あれ、俺なにか頼んでましたっけ?」

 

 首を傾げる俺の言葉に、アガーテさんはフルフルと首を横に振る。

 

「君にはたくさんの物を貰った。希望や、夢。もしも君と出会うのがあと3年遅ければ、きっと私は色々なものを諦めていただろう」

 

 首から下げたペンダント……以前見せてもらったリングを吊り下げたそれに手を当てながら、いつも浮かべている人を食った笑顔でも頬を上気させた顔でもなく。ただ表情に感謝と敬意を込めて、彼女はそう言って俺を部屋の奥へと促した。

 

 実験室の奥には所狭しと魔導人形が並べられている。一体目が完成した後も2体目、3体目と魔導人形は造られているが、ここに並んでいるのはその時に見たものとは少し違うような気がする。胸元に魔石を入れているのだろうか?

 

 もしかしたらこれが見せたいものだったのか、とアガーテさんに視線を向けると、アガーテさんは作業用に使っているのだろう机の上に置かれていた、人形用だろう腕らしきものを抱えていた。見知った魔樹のものとは違い、所々に穴が開いているし革張りのようにも見えるのだが。これはなんだろうか。

 

「着けてみてくれ」

「着ける? これをですか」

「ああ。サイズは合うはずだ」

 

 手渡された腕のような物は中に空洞があり、手を入れることが出来るようだ。小手とかそういった類の物か。もしかして新しい装備品のテストだろうかと考えて右手を入れる。サイズはぴったりだ。

 

 いや。ぴったりというよりも、これはなんというか。馴染む、という方が正しい感覚だろうか。何かを身に着けているという違和感がまるで起きない。なんだこれ、凄いぞ。

 

「魔樹をベースに40層で飼育した牛の皮革で作った小手だ。本来なら義手にする予定だったが、体の再構成の影響を鑑みて小手として作った。着け心地はどうだい」

「いや、凄いです、しっくりくるというか。着けてる感覚が全然ありません」

「ふむ。予想以上に親和性が高い。獣モンスターの毛皮も候補に入っていたが、やはり40層に所縁のある物品で作成するのが君には一番合うんだろうね。右手を見せてくれ」

 

 俺の言葉に頷いて、アガーテさんはそう促してくる。その指示に従って右手をアガーテさんの前に差し出すと、彼女は何時も着ている白衣のポケットから小ぶりな魔石を一つ取り出し、俺の右手の小手に空いている穴にそれを差し込んだ。

 

 軽い異物感のあと、溶けるように消えた魔石に首を傾げているとアガーテさんはうんうんと嬉しそうに頷いて、成功だと呟いた。

 

「あの。これは一体?」

「うん。いや、前々から考えていた事なんだが魔導人形や君のお姉さんを名乗るあの娘のお陰で確信できたことがあってね!」

 

 いつもよりもテンション高く、技術者としてのアガーテさんの顔で彼女はしゃべり続ける。

 

「パワーアップキットという奴だ」

 

 ヒーローには付き物だろう? そう言ってアガーテさんはケラケラと笑った。

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