奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百四十九話 悪魔がほほ笑む時代

 恭二たちが40層打通作戦から戻って来た。

 

「昭夫くんとか元気だった?」

「今日も元気にこっちに顔出してたろ」

 

 一番最後は日本にあるダンジョンとしては最南端の太宰府だ。とりあえず礼儀として旅先の友人が元気だったか尋ねると、何言ってんだこいつ、という表情で恭二がそう言葉を返す。

 

 昭夫くんは最近、撮影の仕事があるとかで毎週魔導ヘリに乗って東京にやってきているからな。なんなら2,3日前に撮影に行く前にこちらに寄ってきてめちゃめちゃ美味い博多の『通るもん!』とかいうお菓子をお土産にくれたし。

 

 押しも押されぬ最上位層の冒険者である彼は、魔導ヘリでの各ダンジョン移動に優先的に搭乗する事が出来るのだ。これは日本の冒険者でも30層以上に到達した者の特権みたいなもんである。

 

「へぇ、テレビ番組とかに出てるのかな?」

「そういうのもあるみたいだけど、大体はドラマの撮影みたいだぞ。ネットの」

「ネットの?」

「ネットの」

 

 首を傾げる恭二に再度同じ言葉を繰り返して答える。

 

 東京の方の映画会社さんは初代様の映画がヒットしたのを皮切りに、非常に好調な業績を上げているらしい。ここ数年の収益が昭和ライダー全シリーズでの稼ぎにそろそろ追いつきそうなくらいだとか初代様が嬉しそうに言っていたので、相当儲かっているのだろう。

 

 まぁあの初代様の映画、今でも国外でリバイバル放映されてるらしいしそれくらい儲かっても可笑しくはないのかな。お陰で現在進行してる各ライダー関連は国内だけじゃなく国外からの関心も強く東京の方の映画会社さんは国外展開をかなり熱心に推し進めているらしい。

 

 昭夫くんが今参加しているプロジェクトも、そういった国外展開の流れを受けたものらしく最初から公式ホームページのみでの配信を行っていくそうだ。

 

 内容はネット配信だからこそというべきか、昭和ライダーの世界観が繋がっているという設定の元に昭夫くん扮する昭夫ライダーこと滝一也を主人公にし、1話ごとに各ライダーにスポットを当てて彼らのその後の闘いを描いていくのだという。

 

 1話1時間の全12話予定で作られているのだが、面白い所は初代様の映画が第一話に該当するらしく、ネット放映される際は第一話として例の映画があり、ドラマは第2話からという形になっていることだ。実質的には11話作られるって事だな。

 

 昭和ライダーと数えられる人は全員で11人。滝一也を含めて12人という事なんだろう。

 

「ほーん……あれ。4号ライダーって確か」

「公式設定でも亡くなってる場合どう扱うんだろうな」

「いや、その後継者が最近映画で出てきたような」

「映画中で自爆したでしょ!」

「本人自爆した後生存してたじゃん」

 

 不穏な言葉を言い始めた恭二を勢いで黙らせようとするも、恭二は意にも介さず俺が聞きたくない言葉をずけずけと言い放つ。正しければなんでも良いなんて思うんじゃないぞ。事実陳列罪で訴えてやろうか。

 

 まぁ正直今は大分時間が空いているので、正式に依頼されたら多分参加するしかないんだよな。というかもしかしたらすでに話もまとまってるかもしれない。

 

 というのもここ数か月、それこそ魔導人形が開発される前は最優先でそうあれかししてくれと言われていたんだ。今までのダンジョンの常識を覆す40層を最優先、それ以外は一旦置いといて、という具合にヤマギシや冒険者協会は40層を重視していた。他の予定をガン無視してでも、そっちに対してはもう国と冒険者協会が責任を持つからやってくれと頼まれたのだ。

 

 実際に数か月運用していって、データを蓄積しそれが間違っていなかったというのが分かって来たのも大きい。40層の施設はどれもこれまでの価値観を根底から覆しかねないものばかりだった。

 

 まず冒険者という立場にたって大きなものは、訓練場だろう。各種スキルアップを試してみたヤマギシチームや各ダンジョンの管理者級冒険者たちはこの数か月で急激に成長している。

 

 この成長と言うのは肉体的な成長と言う意味ではない。ダンジョンでの戦い、冒険者としての成長という意味だ。

 

 これまでの冒険者たちは、言ってみればヤマギシチームが手探りで辿った我流の道を学ぶしかなかった。ダンジョンでの効率的な戦い方、装備、魔法。それらを学ぶ方法をヤマギシチームは自分たちの体験から落とし込んで他の冒険者たちに教えていったが、それでも手探りで進めていった弊害はあった。

 

 各個人の才能に合わせた訓練。これを行うことが難しかった。40層の訓練場は、それらの弊害をクリアすることが出来るのだ。

 

「あとそれ以上に道具屋の道具が売れまくってるけどな」

「冒険者協会、転売事業で凄い収益だって聞いてるんだがあれ良いのか」

「良いんじゃないか? ダンジョンの物品販売は元々冒険者協会の役割だろ」

 

 また、40層の施設は訓練場だけではない。むしろ国や冒険者協会にとって重要なのはこちらの方だろうか。牧場、農場、鍛冶屋、図書館。そしてそれらを抑えて一番冒険者協会外の人々が関心を持っているのは道具屋。

 

 これらに対しての注目度は、訓練場の比ではない。文字通り世界中が関心を寄せている状態だ。

 

 なにせそこで売っているアイテムは全てが魔力を帯びた物品だ。食品に至るまで、全てがマジックアイテムである。道具屋で販売されているアイテムは目録が各言語で作成され、冒険者協会の出資者は特別にこれらを発注する権利を得ることが出来るのだが瞬く間に予約で埋め尽くされたという。

 

 一番人気はクッキーのような焼き菓子で、これを食べるとリザレクションのような効果を発揮し更に肌年齢が5年は若返るそうだ。

 

 この焼き菓子。なにやら世間様では『レンバス』と呼ばれる物品は一かけらで家が建つと言われるほどの金額で取引されているらしい。焼き菓子がその値段。自分の中の価値基準がバグりそうだ。

 

 こういった事情でここ最近は日本から離れることが出来なかったのだが、魔導人形の開発によってそのお役目から解き放たれた今は俺の身柄もフリー。今まで止めていた仕事も再開することとなり、昭夫くんが参加しているドラマ撮影は俺もスポット参戦するかもしれない。出来れば俳優のような仕事は増やしたくないが、結城一路に関してはもうしょうがないだろう。

 

「よし、じゃあ十分休憩したし第3ラウンド行ってみようか」

「お、良いのか? 40層ブーストがあるからこっちはいつでも大丈夫だが」

「クソチート野郎、次は顔面にレールガンぶち込んでやる」

「死ぬから(震え声)」

 

 体中についた埃を払って恭二が立ち上がる。新しい装備の試しがてら何度か模擬戦を行っているのだが、恭二はこの装備を「チートだ」と口汚く罵って来るのだ。ただ単にあと一人外に出せるようになってダンジョン内なら3人がかりで戦えるだけなんだがな。

 

 負け越した方がラーメンを奢る約束だからな。何を言われようが絶対に勝つ。今は悪魔がほほ笑む時代なんだよ、恭二。

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