奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、decoy様、見習い様、244様ありがとうございます!


第三百五十一話 巨大ザメ

 チャンスだ、と感じた。

 

 迫りくる巨大な顎の脅威をチリチリと肌で感じながら、確かに今が好機だと感じたのだ。

 

 現状こそ、自身は木之本桜というキャラクターのガワだけをトレースしているが、内面までとなるとまだまだ複製しきれていない。外観に関しては自信を持てるからこそ、今の状況は片手落ちというべきだろう。

 

 何百ものキャラクターをトレースしてきた自負もある。所詮は物まね程度のものかもしれないが、それぞれのキャラクターを再現する際にかけた情熱と手間暇は確かな自信となって自分の中に宿っている。

 

 だから、これは好機なのだ。

 

 恥も外聞もなく、自身の中の木之本桜をあと一歩先へと進めるためのチャンスが今、巡ってきたのだ。

 

 そう――――

 

「ほぇ~~~!?」

 

 このセリフを、なんの臆面もなく言えるチャンスなのだ!

 

 大きな声である意味木之本桜の代名詞とも呼べるセリフを叫んで、杖を翻し巨大ザメの顎から逃れる。内心の達成感がすごい。どうしても練習では言えなかったんだ、これ。今のは木之本桜ポイント高かったろうな、あとでカメラの音声を聞いて一花と一緒に修正しなければいけない。

 

 女の子の再現は大変なんだ。しかも小学生。小学生女子なんてどうやって理解すればいいのだ、生態からして20代男とは違いすぎるぞ。一歩ずつ、確実に進んでいくしか道はないのだが、その道が険しすぎて泣けてくる。

 

 徒然と愚痴のような内心を心の中で零しながら、背後を振り返る。

 

 獲物を捕らえ損ねた巨大ザメはガチガチと歯を鳴らすように口を上下させながら、もがく様に穴から飛び出してきた。鮫だ。全長数十メートルはあろうかという鮫の姿が、そこにあった。コイツの姿を確認した瞬間、なんとなくこいつがこの階層のボスだな、というのは分かった。40層で姉を名乗るエルフ少女に感じる感覚が、コイツからは発されているからだ。

 

 いつからダンジョンはB級サメアクション映画の舞台になったというのか。次の映画の話絶対これで出してくるぞ、と嫌な予感を覚えながら杖に魔力を込めて浜へと飛ぶ。もちろん鮫から目はそらさない。新階層のボスにはどんな初見殺しがあるかわかったものじゃないからな。口から放射能火炎出してきても驚きはないだろう。ダンジョンだからな。

 

 まずは仲間との合流。そこからどう戦うかの作戦会議といこう。キャラクター再現という細かな雑念はあっても、別に目の前の敵を過小評価しているわけじゃない。おそらくまともに戦えばかなりの強敵だとみているし、それを踏まえたうえで現状余裕があるなと感じているのだ。おそらく海中か、もしくは海上で出会っていればあの奇襲をモロに受けていただろう。そうなればこれほど余裕は持てなかったはずだ。

 

 まぁ見た目として鮫である以上、十分な水量がなければ移動は難しいはずだが、なにせここはダンジョンで相手はボスモンスターだ。これまでの経験上、何かしらが起きるのは予想するべきだろう。

 

 それこそいきなり竜巻が起きて巨大ザメが飛び回ってもおかしくはない。

 

 逃した獲物である俺を恨めしそうな顔で眺めている様子を見るに、口から歯が飛び出したりといったような類か飛び道具はなさそうだ。いや、自身が飛び道具だ、という可能性はまだ否定できないが。鮫というだけで選択肢が多すぎる。いきなり幽体離脱して襲い掛かってきたりしないよな?

 

「お兄ちゃん、こっちこっち!」

 

 背後を警戒しながら飛行しているうちに、いつの間にか浜に到着していたらしい。杖を操作して浜辺に降り立つと、沙織ちゃんがすごいすごいとテンション高く騒いでいるのを恭二が引きながら宥めるというダンジョン内ならかなり珍しい光景が広がっていた。

 

 沙織ちゃん、結構ミーハーな所あるからな。映画のワンシーンみたいな光景につい興奮してしまったのだろう。まぁ気持ちはわからないでもない。結構離れた距離からでも明らかにデカいとわかる鮫が二枚のヒレを使ってバシャバシャと音を立てながらこちらに向かって走り寄ってくるのだ。騒ぎたくなるのもよくわかる。

 

 …………二枚のヒレを使ってバシャバシャとこちらに走り寄る鮫の姿を見て騒がない人類なんて居ないわな。

 

「迎撃」

「アラホラサッサー」

 

 恭二の言葉に合わせて各人がもっとも射程のある魔法を使って鮫に一斉攻撃を加え、鮫は瞬く間にヒレだけを残して消滅した。鮫殺しの英雄でもやらないと倒せないかと内心ヒヤヒヤしてたから、レールガンが通用したのは正直助かった。

 

「多分ここまで陸に近づくなんて想定してなかったんだろうが、予想以上に弱かったな。フカヒレって高級食材だよな。食えるのかな……雑魚モンスター?が集ってきてるから食べられそうだな。一回食べてみようぜ」

「まずは検疫からだ少し落ち着け。海の中でいきなりあれと遭遇するなんて考えたくないから、あとでどういう風に出現したか見ながら予想立てるから録画データ提出は忘れるなよ。回収はとりあえず、空飛べるお前が取りに行ってくれ」

「おかのした」

 

 木之本桜に変身しなおして、杖にまたがり空へ飛ぶ。あと妹よ、飛ぶたびに見せパンチェックするのは止めなさい。外観はもう完全に固定できたから。なんなら別衣装でもその辺は完ぺきに教え込まれてるからいちいちチェックしないでよろしい。女の子がはしたないでしょ。

 

 上空から海に浮かぶフカヒレへ近づくと、だいたい1mくらいのサイズの魚がフカヒレに噛り付いているのが見えてくる。デカいピラニアとでも言うべきか、顎がやたらとデカい姿が特徴的だ。こいつと腰まで水につかった状態で遭遇したくはないな。空が飛べればそれほど苦にも感じないが、真っ当に水の中を進む場合かなり苦戦しそうなエリアだ。

 

「水よ、戒めの鎖となれ。ウォーティー!」

 

 フカヒレの上に降り立ち、魔法を発動させて海水でモンスターたちを捕縛する。この魔法、水を自在に操るという超チート魔法だと思うんだがその分イメージが難しい。ひとまず作中に似通った使い方をして練習していこう。

 

 そのままフカヒレにかぶりついたままのモンスターと共に、水を操ってフカヒレを浜辺へと移動させる。多少かじられてるがこれだけのサイズのフカヒレなら可食部分も多いだろう。まずは検疫に出さなければいけないだろうが、問題なければ少し分けてもらえないかな。

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