第六十二話 教育準備
今日も今日とてゴーレムをばったばったとなぎ倒す。
最近、あんまりにもゴーレムとばかり闘っているのでちょっと奇をてらってジャバウォックで殴りかかったり、要望の多いハルクで近接戦を行ったりと暇つぶしをしていたのだが。
『ィヤアアァァ!』
刀匠達が現場を知りたいという事で急遽ダンジョン体験ツアーを敢行。本当についで位の感覚で付いてきたウィルがゴブリン相手にはっちゃけている。
最近覚えた変身魔法は大分安定しているが、まだまだサイズの大きな人物への変身は出来ないそうなので、今はマイティ・ソーに変身して剣を振り回している。
ストレングスを使用しても流石に彼のパワーは再現しきれないが、ウィルは満足そうなのでまぁ良いだろ。
「西洋剣もなかなか」
「やはり頑丈だな。鉈に近いかな?」
藤島さんと宮部さんがウィルが振り回している剣を見ながらそう言った。
何度かダンジョン経験のある二人は冷静だが、他の若い刀匠はウィルの活躍に目を輝かせている。
それを意識してかウィルの動きもドンドンよくなっていく。
後の方では単純に殴る蹴るでぶっ飛ばしたりしてたし、ゴブリンやオーガ、恐らくオークまでなら近接戦でも上手く処理出来そうだ。
この日は5層で切り上げたが、あの調子なら遠からず11層に挑戦できるかもしれない。次の教官教育にはウィルも来るって言ってたし、彼にはケイティと一緒にアメリカチームのリーダー格として頑張ってもらいたい。
ケイティといえば、何でもリザレクションに成功したそうだ。あのヤベー魔法の成功者がまた1人・・・
真一さんとしては、冒険者教育とあわせて医者にも魔法を伝えて行きたいらしい。ただ、うちと医療関係は仲が微妙だからな・・・・・・リザレクションの効果については政府側も認識しているためヤマギシの構想にも理解を示してもらっている。気長に人員を育てるしかないだろう。
人員を育てるといったらもう一つ。俺達ヤマギシチームの剣の師匠でもある安藤さんが、正式にヤマギシと契約を結んで人員育成に協力してくれることになった。
というのも、これから来る人員について一つの不安があったためだ。次回奥多摩で学ぶ人たちは日米選抜チームと違って民間人だ。
そこそこ鍛えている人も勿論居るだろうが、大多数は初めてダンジョンに潜った時の俺達のように日常的に闘うような事のない一般人。
ウィルのように自分で潜りに行くアグレッシブさがあっても完全な素人では教える側も難しいため、せめて体の動かし方、武器の振り回し方位は専門家が教えられる体制を整える必要があったのだ。
体力測定も可能なトレーニング施設をダンジョン近くに作り、安藤さんは基本的に週何度かそこで指導を行ってもらうつもりだ。
「体力のない人間、ある人間、それぞれの鍛え方は心得ているので」
「頼もしいです。育成について何か他には?」
「流石に40人を一人で見るのは無理なので、同門の人間に声をかけてもいいですか?」
勿論二つ返事でOKを出した。安藤さんは二種免許持ちなので、近隣に住む同門の剣道家に声をかけて何度かもうダンジョンに潜っているらしい。
魔法については流石に指導できなかったそうだが、素の実力で5層まで突破した安藤さんの同門の人だ。期待度は高い。
何なら基本的な魔法くらいは俺達が教えると伝えると喜んでくれた。魔法が使えなければ10層までの到達は難しいからな。
教える側がレベル5バッジしかつけていないのはちょっと見栄えも悪いしね。
さて、微妙にダンジョンと関係のある話の一つとして、最近奥多摩では建設ラッシュが起きている。
ダンジョン関連でにわかに住居が足りないという状況が起きてしまったためだ。
奥多摩は河川の流れで切り開かれた場所で、居住できる区域が非常に少ない。これまでは問題なかったのだが、ダンジョンが出来てからはこの居住区域の少なさが問題になってしまった。
まぁ、これまでマンションなんか建ててもどうしようも無かったせいなんだが、今は需要が生まれているからな。
今一番奥多摩で資金力があるのがヤマギシなんだから、これは自力で何とかしないといけない。
というわけでダンジョン近くに大型のオフィスビルとマンションが建つ予定だ。国の後押しがあるからヤマギシが買収したこの一帯は建坪率や容積率が大幅に緩和されており、結構高い建物になるらしい。
また、オフィスビルには日本冒険者協会と世界冒険者協会日本支部の奥多摩支部が作られるらしく、これは先に述べたトレーニング施設やダンジョン上部の寮とも接続される予定になっており、この一角は完全にダンジョン関連の建物だけになる。
まぁ、ここまで聞くと奥多摩も開発されていって良い事のように感じるんだが、勿論それだけではない。
「だめだな。川向こうの小学校は諦めよう」
「申し訳ない山岸さん。何度も説明したんですが・・・」
町立の小学校手前まで土地を買占める事が出来、次は小学校を買い取って青梅線沿いに新しい校舎を建てよう、という計画が空気の読めない町議によって白紙になってしまったのだ。
観光業を営んでいた折に何度か話したことのある父さんが粘り強く説明をしたが、欲が出てしまったのか。
順調に進んでいた話にいきなりとんでもない額をふっかけてくるという事をしでかし、結局そのまま物別れになってしまった。
山岸家もウチも代々奥多摩に居を構えていた地元の人間だ。無理に進めて同じ地元の人に恨まれてまで何かをするつもりはない。
折角の広くて便利な場所に小学校を建て直すって話が立ち消えになって、その話を台無しにした人たちがどうなるかまではしらんけど。
マイティ・ソー:アメコミのスーパーヒーローでハルクの喧嘩友達。アスガルドの神々の王オーディンの息子でアスガード最強の戦士。ハルク並のパワーとタフネスに格闘能力、更に非常に高い戦略的知識と直感力まで持ってるチート。しかもムジョルニア(魔法のハンマー)を持つと天候操作やらの超能力まで使えるチート。つまりチートオブチート。