奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百五十二話 もらいたくないラブコール

 新層の情報は入手次第、冒険者協会に報告される。これは冒険者協会が発足した時から全冒険者に課せられた――ヤマギシチームかケイティ等一部の超一級冒険者しか果たしたことのない――義務だ。

 

 この義務に関しては何度も話し合いがもたれた。何故ならば新層の情報はそれ自体が膨大な富につながる可能性があるからだ。ダンジョンの生み出す資源は最早利権と言っても良い価値があるため、その利権が大きければ大きいほどトラブルが起きる可能性も増えてくる。

 

 場合によっては戦争すら誘発する可能性……いや。リアル三国志状態な中華を鑑みればダンジョンに端を発する問題ですでに戦争が起きているな。そして、世界冒険者協会が影響力を持っているのはG8に参加している国家だけで、それ以外の国々でのダンジョン運営は各国独自に行っている状況だ。

 

 年々価値が上がっているダンジョンという存在が、世界冒険者協会というある種のルールもなく手元にある。それを持った国家がどうダンジョンと向き合っているのか。想像しかできないが、恐らく大抵の場所ではろくなことにはなっていないだろう。

 

 ダンジョンの価値は、俺たちが引き上げていったものだ。ある意味ではそれらの結果は俺たちにも原因があると言っていいだろう。だがダンジョンに潜ることは俺と恭二にとってはある種の生存戦略だったし、現状はダンジョンから生まれる富をもとに成長したヤマギシという存在が背に乗ってもいる。

 

 そもそも中に何があるかわからない謎の空間が人類の生存圏に点在してるんだから調査しないといけないだろうし、その結果がどういうものであったとしてもそれは俺たちが責任を取るべきようなものでもないだろう。

 

「というわけでこのメッセージを見なかったことに」

「出来ません」

 

 せいいっぱいのりろんぶそうを行った俺の言葉を、シャーリーさんは一刀両断に切り捨てる。

 

 彼女の手元にあるタブレット端末には俺宛のラブコールが表示されていた。動画としては約2~3分くらいの長さだろうか。こういう映画を作りたいというプレゼンのようなものだ。監督を務める予定だという米国人の男性が動画の時間全てを使って一息に語った内容によると、彼は次回作の構想として『突如世界中に現れたダンジョンから人間を貪り食らうために現れる二足歩行する巨大鮫と戦うため、魔法の力に目覚めた成人男性が魔力を行使するために少女の姿に変身し世界中の鮫をマジカルチェンソーでバッタバッタとなぎ倒す』3時間超大作を考えているらしい。

 

 主演の俳優はすでに決まっているが肝心の少女パートを演ずるに適する人間が俺しかおらず、そのためにオファーをしたい、というのが彼の言い分だ。

 

 もちろん俺の個人としての考えは絶対にNOである。

 

「というかこれ明らかに木之本桜に変身して戦闘シーンくれって要望ですよね。なんで先方が41層の動画見てるんですか?」

「その主演俳優(予定)さんが米国でもかなり上位の冒険者ですから、そちらから話せる範囲で伝わったんでしょうね。41層の情報はそれほど秘匿すべき事柄もありませんでしたし」

「海水もめちゃめちゃ水質が良いだけで、浜辺の砂も海中にあった貝類も割と普通でしたからね」

「魔樹や40層のような場所が簡単に出てきても困りますがね。会社としては、利益がどれだけ莫大でもそれを維持するリソースが」

 

 41層の調査結果は割とすぐに出てきた。36層で足踏みした経験をもとにダンジョンと併設する形で作られた検疫所は日本随一の設備と技術を持っているし、また41層は森林と違ってチェックする場所が少ないのも大きかったりする。海中の海藻や貝類、それにモンスター以外の生物がいないかの確認が少し大変だったかな、という程度だ。

 

 一応追加で2、3日追加調査もしたが、結果はほとんど変化なし。41層は初探索から1週間を待たずにほぼ完全に調査が完了することになった。もちろんフカヒレの調査も終わっており、そちらは食材としても問題ないと確認済みである。

 

 あとは大穴の中にあるだろう42層への入り口を見つけなければいけないのだが、そちらに関しては現在米国の冒険者協会の伝手を使って潜水艇を用意している最中だ。俺一人ならXさんにでも変身すればいいんだが、他のメンバーが自由に海中を移動する手段が必要だからな。

 

「実際にXさんへの変身で海中移動は試したことがあるんですか?」

「あ、はい。沖縄に旅行行ったとき試したら問題なかったんで」

「なるほど……その事を恭二さんには伝えてますか?」

 

 シャーリーさんの言葉に首を横に振ると、彼女は何かを考えるようなそぶりをした後にピンと指を立てて俺を見る。このしぐさをするときはシャーリーさんがサイドキックモードに入った時だ。

 

 芝居がかったしぐさでゆっくりと立てた指を振り、シャーリーさんは意味ありげな微笑みを浮かべて口を開く。

 

「であれば、すべての問題が解決する可能性がありますね。急ぎ連絡を取りましょう、恭二()さんの助けが必要です」

「えっ!? すべての問題(サメ映画)が解決するんですか!!?」

「そちらは諦めてお返事をお願いします」

 

 一縷の望みをかけた俺の言葉を、スン、と真顔に戻ったシャーリーさんが一刀両断でぶった切る。

 

 それ断って諦めてくれますかね。あ、難しそう。

 

 はい。

 

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