奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、ドッペルドッペル様、見習い様ありがとうございます!


第三百五十三話 もしかして→ハブられてる

「イッチくん、おつかれー! この後どう?」

「幽霊くんお疲れ様です。この格好でですか?」

 

 最近新築された体育館で汗をかいていると、ライダー組と呼ばれる俳優集団の一人、幽霊くんが声をかけてきた。

 

 ライダー組はほぼ全員、特に主役を張った俳優はすべて冒険者となっており普通のジムなどでは満足に動くことができなかったりするそうだ。そのため冒険者が動くことを前提に作られているダンジョン付属の訓練施設、特に初代様が設計段階から意見を出していた奥多摩周辺の運動施設は彼らにとって貴重な練習場所にもなるためよく顔を合わせたりする。

 

 空手着を身に着けてるってことは、初代様の格闘技講座だろうか。ああ、奥のほうに見覚えのある集団がいる。ライダー組で時間の合う面々が集まっているようだ。あ、昭夫くんも居るじゃん。

 

 目の前で話す幽霊くんは陽気な口調でクイクイっとコップを傾ける仕草をしている。飲みに誘ってくれているのだろうが、今の俺は大体ショタエルフ少年ボーイスタイルのため結構酒を飲むのが辛かったりする。周りの目とかそういったものがね。いや、実年齢が20を超えてるのは周知されてるけど絵面の問題が……あ、空手着姿の初代様が凄い顔でこっち見てる。全然大丈夫じゃないっぽいな。

 

「えー、あ、えっと。いやいやいや、そもそも元の姿になれるでしょ? 最近も可愛い子に変身とかしてたし。なにかその姿に拘りとか制限とかあるならこっちもお店考えるけど」

「お、どうした幽霊。まさかイッチをナンパしてんのか?」

「幽霊先輩ゴチになりゃーす!」

 

 物理的な圧力すら感じる視線に気づいた幽霊くんが大慌てでそう言うと、騒ぎに気付いたのかタオルで汗をぬぐっていたライダー組の面々が近づいてくる。往年の名優に最近人気絶頂の若手と年代がバラバラな空手着の集団。この風景写真に収めたらそれだけでバズとやらになりそうだな……あれ、これライダー組ほとんどいるんなら俺呼ばれてな――

 

「ここで顔を合わすのは久しぶりだな、一郎」

「そうですね。最近は40層に出ずっぱりで」

 

 もしかして→ハブられてるという事実に気付きそうになってしまった俺に、初代様が声をかけてくる。そういえばここ最近40層に籠ってたせいでお誘いにも全然答えられなかったし、気を使ってくれてたんだろうな。多分、きっとメイビー。

 

 いや、そうだよ。よくよく考えたらここ2,3か月40層と姉を名乗るエルフ少女の相手でろくに外に出てなかったからな。新婚になったら付き合いが悪くなる奴みたいなノリで誘いづらくなったんだろう。今日も姉を名乗るエルフ少女は向こうで楽しそうに自転車こいでるし。

 

「40層か。噂には聞いてるが、彼女が?」

「ええ。俺の今の姿の元になったというか、なんというか。まぁ微妙な関係の相手なんですがほっとけなくて」

「なるほど。だからお前、極力その姿で街を歩いているのか」

 

 ふむふむ、と楽し気な笑顔を浮かべて確信をぶっこんでくる。これが初代様クオリティだ。

 

 笑顔のまま固まった俺の肩をたたき、ケラケラと笑いながら初代様は「ラーメン、食いに行くか」といつものように誘ってくる。

 

 これははいかイエス以外に答えられねぇよなぁ……

 

 

 

 ヤマギシビルの一階にあるラーメン屋は大繁盛店である。

 

 そもそも美味しいというのもあるがヤマギシビルの真下にあるという立地もあり、更に折を見て初代様などがここの話をするせいで聖地的な意味合いまでもってしまったため最近は常に行列が並んでいるような状態だ。流石にこの行列に有名人であるライダー組を並ばせるわけにはいかないし、そもそも店内に全員入らないかもしれない。

 

 というわけでヤマギシビルの社員食堂にライダー組の皆さんを通し、ラーメンは出前という形にした。ここならお冷もあるしビールくらいなら売ってるからな。

 

「めちゃめちゃ綺麗だな社食。イッチー、イ〇スタ撮ろうぜ」

「お姫ちゃん、もっとこう、ポーズとってポーズ!」

「こ、こうか?」

 

 幸いにも昼飯時は過ぎていたので社食内にもそれほど社員の姿はなく、一角を占領したライダー組の面々はわいわいがやがやと騒ぐ中。紙コップに入れたお茶を軽く合わせて乾杯した後、初代様はエルフ少女を眺めながら口を開いた。

 

「あの娘。それほど立場が不味いのか?」

「分かりません。ただ、俺と恭二の事を思い返しても警戒は必要だと思ってます」

 

 世間話をするような口調で訪ねてくる初代様に、俺も世間話を返すような口調で返事をする。初代様にとってはこの会話は自身の予測が当たっているかの確認作業のようなものだ。ただ、外で話すのもはばかられるのでこの場所に移っただけである。

 

「日本国籍を持っているお前や山岸くんでも解剖しようとした。その話は、俺も聞いている。そうだな、それを考えれば国籍もなく、ダンジョンから生み出された彼女が人間扱いされる保証はないか」

「ああ。事実、彼女の事を記載する冒険者協会の一部資料には人間としての記載ではなくモンスターと記すものもあった。日本国内での今現在の扱いも、一郎の所有『物』というものだ。基本的人権の範疇に彼女は含まれていない」

「それを見て声高にとち狂う馬鹿も出てくるかもしれんか…………ただ人と少し違うだけの、あの娘に」

 

 初代様の言葉に、隣に座った結城さんがそう返事を返す。わいわいがやがやとライダー組の若手――どころか昭和組のおじさん方に囲まれて可愛がられているエルフ少女を眺めながら、初代様はポツリとつぶやくように言葉を続けた。

 

 俺がここ最近エルフ少年の姿をしているのは、世間の認知度を上げるため、というのが大きい。なにせこれまでの人類史にいなかった明らかな異人種だ。ちょっと魔法を使っただけの俺や恭二を解剖しようとした一部のとち狂った連中がまたぞろ悪さをしだすのは目に見えていたからな。

 

 一般的な学術研究のための協力とかなら全く構わないんだが、そういうとち狂った連中に善意や自重という言葉を求めることはできない。そして俺はともかくこの世界に不慣れなエルフ少女は、なにかの拍子にそういった連中の毒牙にかかってしまうかもしれない。彼女はもう、俺にとっても他人ではないのだ。そんな糞みたいな連中に好きなようにさせる気はない以上、俺は彼女も含めての自己防衛を行わなければいけないのだ。

 

「それでお前がエルフになったよ、という例の会見か。あれは衝撃的だった」

 

 俺の言葉を聞いて、初代様が思い出したように笑い始める。総理大臣と一緒に現れた二人のエルフ少年少女。これ以上ないインパクトだったろう。世界中にダンジョンと40層、更にエルフという言葉が駆け巡ったのだから。

 

 あの件で彼女は、あるいは世界でも有数――それこそアメリカの大統領よりも顔が知られた一個人になったかもしれない。

 

 そう。一個人として、あの放送で、彼女は世界中に認識されたのだ。骨格が少し違う、異世界出身の幼い少女として。

 

 それを補強するためにここ数か月、俺は彼女と二人、仲のいい姉弟として同じエルフの姿で世間様に姿を見せ続けている。今現在、少なくとも俺が認識する範囲での世論は彼女を『ダンジョンから生まれたモンスター』ではなく『異世界から来たエルフの少女』として扱っており現状はうまくいっていると言っていいだろう。

 

 疑問に思っていたことが解決した。そう、すっきりした表情で語る初代様が、紙コップに入れたお茶をグビりと飲み干した。

 

「一郎、お前がやりたいことは理解した。俺は、お前たちを応援するよ」

「ありがとうございます」

 

 初代様はそう口にして、遊びまわる近所の子供を眺めるように騒ぐライダー組若手とエルフ少女に視線を向ける。

 

 すべての人が、初代様のように言ってくれれば楽なんだが、なかなかそうもいかないだろう。もう暫くはこの格好で世間様にアピールしなければいけないだろうな。

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