奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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今年最後の投稿です。
みなさん、よいお年を!


第三百五十五話 その名は

「誤解なんです! ただ、新しく扉を開こうと頑張っていただけで!」

「よーし姫子、お前は余計な事喋るな!」

 

 久しぶりに顔を見せに来た姫子ちゃんの妄言に一花が気怠そうにフォローを入れる。まぁ、元気そうで良かった。こないだは後輩の成長を間近でみてしまって動揺してしまったが、よく考えたら姫子ちゃんももう19歳。立派な大人と言ってもいい年齢だしああいう事もあるよね。

 

「弟よ。なんだ、この騒がしい娘は」

「一花の親友で俺の後輩だよ」

「「親友じゃない(です)」」

 

 自称姉の問いかけにそう答えると、一花と姫子ちゃんから息の合った否定が返ってくる。だがこの二人、互いに相手が居ないところで同じ問いをされたら否定しないんだよな。相手が居るところで親友云々言われるのが気恥ずかしいだけなんだろう。

 

 ほほえましいねぇとうんうんうなずいていると、形勢の不利を悟ったのか一花がごほん、と一つ咳払いをする。

 

「ところでお兄ちゃん、実はいつか言おう言おうと思っててここまで引っ張ってきたけど、正直めんどくさい事になるからそろそろ解決してほしい事が一つあってさ」

「お、おう……どうしたそんなに改まって」

「姫と姫子が並ぶと非常にめんどくさいんだよね。そろそろ姫の名前なんとかならない?」

「あ、はい」

 

 苛立たし気な一花の言葉に頭を下げる。

 

 いや、わかってるんだ。分かってはいるんだが、色々と覚悟が定まらんというかな?

 

「私はどんな名前でも気にせんぞ、弟よ」

「なるほど、じゃあげろしゃぶとゲレゲ」

「お兄ちゃん?」

「さすがにそれはないですよ、先輩……」

「すみません」

 

 場の空気を和ませようとするもギロリと睨まれて断念する。ゲレゲレまで言い切らなくてよかった。恐らくそこまで口にしていたら妹と妹分から烈火のごとき口撃が降りかかっていただろう。

 

 しかし名前、名前か……

 

「あかん。なにも思いつかん」

「本当に一ミリも考えてなかったの?」

「考えてたけどなんの成果も得られませんでした!」

「おお……もう……」

 

 潔く認めると一花が額に手を当てて座り込んだ。

 

「いや待て、俺の言い分も聞いてくれ。自分にネーミングセンスがないのは分かってるから色々調べてはいたんだ。ただエルフらしい名前で調べたら大体すでに使われていたりセンシティブな作品のキャラ名だったりで流石にそれはどうかと思ったんだよ」

「ああ……エルフ娘の名前なんて日本だといくらでもありすぎてどれ当てても角が立ちそうですもんね」

「そう! そうなんだよ姫子くん!」

「でもげろしゃぶとゲレゲレはないですわ」

「はい」

 

 助け舟を寄越したと見せて叩き切る。見事なまでの上げて落とすにただただ頭を垂れる事しかできない。

 

「実際、こないだの動画の反響凄いからさ。そろそろ名前ないと不味いと思うんだよね!」

「あ、そんなにあれ人気なんだ」

「なんと初日で1億再生! このキャメラマンイチカの実力をもってすればこんなもんだよ。ふんすふんす」

「この娘の映像って、表に出てるのが限られてるんで。これまで餌が供給されなかった釣り堀にオキアミブロックを投げ込んだみたいな惨状になってます」

「なるほど、若干伝わりづらいけど凄い事になってそうなイメージが出来たよ。ありがとう姫子ちゃん」

 

 動画関連に関しては本当に触ってないから実感わかないが、1億ってかなりすごい数字だよな。それだけ自称姉が人気って事だろう。所でなんで例えが釣り堀なんだろう。姫子ちゃん釣りが趣味なのかな。

 

 しかし名前、名前か。洋風っぽい名前にするべきなんだろうがそこまで語彙力がない俺が必死に考えてもどこかのアニメかゲームで使われてそうな名前になっちまう。ここは発想を転換しよう。日本風でもいいさって考えるんだ!

 

 実際彼女は奥多摩のダンジョンで生まれたってことになるんだから日本人って事でいいだろう。それならばまだ名前もやりやすいというか、鈴木家伝統の名付けが適用できる。

 

「一子か二子かな」

「その名前私につけられたらスト起こしてるかな」

「先輩は名付け親向いてないですね」

 

 なんでやねん。とは流石に言い切れんか、俺も自分にこういったセンスがないのは理解している。

 

「まぁでも方向性としては良いかな? 後ろが子とかじゃなくてもうちょっとエルフっぽい感じにすれば違和感すくないかも。あと鈴木家伝統の名付けだと一の文字は私が持ってるからね? 姫は二でしょ」

「? まぁ、私としては呼び名が決まるならなんでもいいが」

「なんでもいいってのが一番困るんだよなぁ」

 

 首をかしげる自称姉の姿にうんうんと頭を悩ませる。エルフっぽい、エルフっぽい……エルフってなんだ?(哲学)

 

 いや待てもう少し広げて考えよう。40層を思い返すと一番イメージに出てくるのはやはり緑だ。エルフというのはまぁ森に関連すると考えると植物系が良いのは間違いない。

 

 二花というのはちょっと語呂が悪いからスルーするとして、それ以外に一文字で植物を表し、語呂も良いもの……緑、植物・葉っぱ?

 

「二葉。ふたつのはと書いて二葉はどうだ」

「……あれ、予想よりまともなの来たよ」

「二子の次でこれってジョグレス進化しすぎじゃない?」

 

 ポンっと手を叩きそう口にすると、一花と姫子ちゃんがいったん顔を見合わせてこしょこしょと失礼な言葉を交わす。まぁそんなことはどうでもいいんだ問題じゃない。

 

 椅子に座って俺たちのやり取りを眺めていた自称姉に声をかける。

 

「どうかな?」

「……ふむ。フタバ、か……」

 

 俺の言葉をかみしめるように繰り返し、自称姉――二葉はうん、と小さくうなずいた。

 

「私は二葉。これからは、お前の姉である二葉だな?」

「ああ。君は鈴木家の二葉だ」

「わかった。それならばそれでいい」

 

 そう俺の目をみてうなずいて、二葉はにんまりと笑いながらフタバ、フタバかと繰り返し呟く。

 

 そしてこの時、俺と二葉をつないでいる魔力のラインに違和感というか強い反応がおきる。彼女が名前を受け入れた瞬間、より一層近づいたというか、同化が進むような感覚を受けたのだ。

 

 名前を付けたことで、彼女と俺のつながりが一歩進んだのか。もしくは、俺の中で彼女の定義が定まったのか。

 

「これからもよろしく頼むよ、弟よ」

「ああ。姉さん」

 

 互いにそれを認識しあい、小さく笑みを零して言葉を交わしあう。これで彼女は俺の家族になった。

 

「一花、二葉の名前を頼む」

「あいさー」

「姫子ちゃんも何かあったら」

「あ、はい。いつでもお手伝いしますんで! バリバリこき使ってくだせぇ」

「姫子、三下でてるよ三下」

 

 だから、家族を守るのは長兄である俺の役目というわけだ。

 

 頑張らないとな、と肩に乗る責任感という重みを感じながら、一花と共にパソコンへと向き合う。

 

 尚、名前を発表した瞬間いっせいに「なぜ和名なんだよ!」「もっとこう、あるだろ!?」「ディードリット希望」との声が殺到するのは数分後の話である。ディードリットは無理だろ。

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