奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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日曜更新ギリアウト

誤字修正、244様ありがとうございます!


第三百五十八話 これからはお前の事マスターって呼ぶわ

「で、私が焚きつけたおかげで無事お兄ちゃんとデートが出来た感想はどう?」

「最高だった……これからはお前の事マスターって呼ぶわ」

「ヤメルォオ!?」

 

 原宿ぶらつくのと渋谷ぶらつくのどっちがいいかな? という俺の問いに奥多摩湖でルアーフィッシングしましょう、と迫真の回答を返してくれた姫子ちゃんとのデートは無事終了することができた。キャンプ場経営者(元)の息子としてアウトドア全般は齧っていたのだが、趣味として習熟してる相手にはやはり及ばないというのがはっきり分かる一日だったな。

 

 姫子ちゃん、というか壇さんの家は結構家族ぐるみで釣りを嗜んでるらしく、家族と距離を取っている姫子ちゃんも趣味として釣りは続けているらしい。ルアーフィッシングの代わりにミギーを伸ばして魚を釣るという新しい境地を得ることもできたし、可愛い女の子と湖の傍で食べるおにぎりは美味しかった。たまにはこういう日も悪くないというか、目の前でデートの感想を妹に報告されるという恥の極みのような体験をさせられなければ文句なしに最高の一日だって言えたんだが。

 

 あ、いや。なんか話しかけるたびに三下口調で返事が来るし何かあるたびにいちいち時代劇に出てくる親分と子分のやり取りみたいな問答が挟まれたしちょっとそれは言いすぎか。総合的に良い一日だった。うん、これだな。

 

「ところでなんで二人してフィッシングジャケットに身を包んでるのかな?」

「言わせるなよ馬鹿、恥ずかしい」

「頭ハッピーセットな姫子には『お前デートでどこ行ったんだこら』って副音声が聞こえなかったかな???」

「奥多摩湖」

「素直に言えたのは偉い。で、なんで奥多摩湖を選んだ? 言ってみろ!!」

「一郎さんが街中すっぴんで歩いてたらデートもくそもないだろうが!!」

「なるほど、筋は通ってる。で、もちろん動画は撮ったんだよね?」

「あたぼうよぉ! 世のイッチガチ恋勢に悲鳴あげさせちゃるぜ!」

「割と実害出そうだしお兄ちゃんの映像も入るならヤマギシで内容チェックするから」

「あ、はい。そこは勢いでごまかせんか……」

 

 女三人寄れば姦しいというが、この二人が揃うと3人分くらいのパワーは間違いなくあるだろうな。今日一日着ていたフィッシングジャケットを脱いで二人がやいのやいのと騒ぐ姿を眺めながら、クーラーボックスに入れておいた本日の釣果を確認する。

 

 ブラックバス、ニジマスにヤマメ、イワナにサクラマス……これらは淡水魚であるためしっかりとした下拵えが必要だが、手間暇を惜しまなければどの魚も美味しくいただけるものばかりだ。ブラックバスは唐揚げが良いとして、ニジマスはシンプルに塩焼きが良いかな。それともムニエルかな? 

 

 イワナとヤマメ、サクラマスは塩焼きで、あとは卵を抱えていたのもいるから卵は醬油漬けにしておこうかな。気が向いたときに黄金いくら丼にしても良いだろう。デートだからと置いていった二葉がむくれてるかもしれないし、ここは腕によりをかけないとな。

 

 

 

 料理系の変身を試してみたんだがやはりというかなんというか。ガワだけ真似できてもその内実までは真似できない。トリコの小松シェフとかを真似できたら常に最高の食事を自分で用意できるんだがな。

 

「という訳でネットに転がっていたレシピを使って作成したのがこちらの料理になります」

「おお、なんだか本格的!」

「魚、フィッシュ、か。うむ、狩りは男の仕事であるな。私を置いて出かけたのは不問にしておこう!」

「イェーイ! イッチガチ恋勢見てるぅ? イッチの手料理だよー♪」

「んん? イチロー、このテレビとやらに皆が入っているぞ。鏡の魔法か?」

「これはノーパソ。や、まぁ、似たようなもんかな。うお、すごいコメント数」

 

 商魂逞しいというべきか。さっそくこの現状をアップしてさっそく炎上している姫子ちゃんのダンプちゃんねるをPCの画面に映していると、今日は朝からぺったりと引っ付いて離れない二葉が興味深そうにPCの画面を指さした。

 

 そんな二葉の様子が姫子ちゃんのスマホ越しに見えたのか、すごい速度でコメント欄が流れていく。こいつらエルフすっごい好きなんだな。

 

「や、フタバちゃんもですが先輩の方が主原因じゃないですかね」

「知ってる有名人がいるからつい見ちゃう的なやつかな」

「お兄ちゃん知らない人は、姫k……ダンプちゃんねるには居ないだろうね!」

「つまりイチローは広く名が知れ渡っているという事だろう。姉として誇らしいぞ!」

「いい事ばかりじゃないけどね」

 

 ふんすふんすと鼻息が荒い二葉をどうどうと宥めて、まずはブラックバスの唐揚げに箸を伸ばす。匂いを消すために少し濃いめの味付けにしたのだが、さてお味は……うん、美味しい。

 

 俺が食べ始めたのを見ていたからか。女性が3名揃って言葉の通り姦しく騒いでいた女性陣も、それぞれが料理に手を付け始める。姫子ちゃん、片手でスマホを掲げながら食べるのは止めなさい、お行儀悪い。配信者としては見上げた根性だと思うけどさ。

 

 そして俺たちがただ魚料理を食べるだけの映像でなぜここまで爆速でコメントが流れるのか。色が変わってるやつ知ってるぞ、スパチャってお金投げる奴だろ。なんで他人が飯食ってるだけの映像で金を払うんだよ。料理番組とかじゃないぞ?

 

「いやぁ、お兄ちゃんの食事風景はお金とってもいいと思うけどね?」

「なんで開始3分で料理の半分が無くなってるんだ……」

 

 おかしい。何故か知らないが俺が責められる展開になっている気がする。PCのコメント欄も所々にフードファイターなんて根も葉もない書き込みがされているし。

 

 なんともいえない視線で俺を見てくる妹と妹分の視線から目をそらしながら、バリボリと骨ごとヤマメを齧る。塩味が利いていて最高に旨い。これは味の宝物殿だな。

 

「そ、そういえば姫……ダンプちゃん」

「兄妹似てるなって思いました(小並感)」

「ごほん! そういえばダンプちゃん!釣りの時に確か気になる事言ってたよね。なんだか最近、漫画とかが面白いことになってるって」

「露骨な話題そらしだけど面白そうだし乗ってあげる! どんな話したの、ダンプちゃん」

「……おう、いや、まあ。私は良いんですが」

 

 PC画面で爆速で流れていくコメント欄をチラ見しながら、姫子ちゃんはこほんと咳ばらいを一つして。

 

「ダンジョンが出現した前と出現した後の作品、影響でまくってるんすよ」

 

 昼間釣りをしていた時のようにニヤリと笑って、話を始めた。

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