奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百六十話 ヤマギシストアー育成計画

「中小のコンビニチェーンを買収して、ヤマギシ独自のコンビニチェーンを設立しませんか?」

 

 ヤマギシのコンビニ部門を束ねるリーダーさんがこんな事を言い出したのは、肌寒さを感じる11月のことだった。

 

 ヤマギシという会社は元々は親族経営のコンビニを運営していた。ダンジョンが発生した際に店舗は損壊。一時はすべての収入を絶たれた山岸家はダンジョンの攻略に活路を見出し現在に至るわけだが、家業として個人商店を営んでいたという意識は社長を筆頭に山岸一家3人ともに今も根強く残っている。

 

 そのためヤマギシの保有するビルにはどこでもコンビニが入っており、かつて山岸家が経営していたコンビニでバイトリーダーを務めていた人物、リーダーさんがそれらを統括するコンビニ部門の長を務めている。社内最大人員を誇る冒険者部やその業務内容の過密さから常に人員を拡大し続けている広報部に比べれば圧倒的に小さな規模だが、立場上は同格の扱いだ。

 

 コンビニの統括という現在のヤマギシでは傍流も傍流な職務内容からあまり露出はないし本人の性質的にも前へ出ようとするタイプではないが、元々の関係性から社長からの信頼も厚いし真一さんとの関係も良好。見た目はただのド田舎のバイトくんだし周囲もそう思っているが、だからといってヤマギシの首脳部で彼をないがしろにする者はいない。

 

 まぁとはいえ元々がバイトリーダー上がりの青年。コンビニに関することなら兎も角現在ヤマギシが行っている各種事業には全くかかわりを持たないため、普段は会議の場では大人しく置物のように椅子を温めているのだがこの日は違っていた。

 

「ううぅむ……」

「確かにチャンスではあるんだよなぁ」

 

 腕を組み唸るように考え込む社長に、同調するようにつぶやく真一さん。会社のツートップが否定的な反応をしない上に、他の参加者からもざわめきこそ起きるも否定の声は上がらない。リーダーさんと同じく普段はヤマギシ警備の代表兼置物として会議に参加している俺ももちろん置物としての任務を全うし、余計な反応は見せないように努めている。

 

 つまり積極的に賛成する声こそないが、会議室内の面々は彼の提案に消極的に賛成か否定はしないという立ち位置をとっている。これも全てリーダーさんの人徳のなせる業……というのは間違っていないのだが、実を言うとこの案件、会議の場では初めて話し合われているが元々前から検討はされていたのだ。

 

 一番最初にこの話が持ち上がったのは、ヤマギシ社内からではなくケイティの親父さんが恭二に言った一言だったらしい。

 

『うちのダンジョンにヤマギシのコンビニを展開しますか?』

 

 実際はもうちょっと違う言葉だと思うが、まぁ似たようなものだろう。もちろんわざわざアメリカに渡ってコンビニ経営なんてと恭二は苦笑で返したそうだが、この話を聞いたリーダーさんはそれとは違う感想をこの話から抱いたらしい。

 

「ダンジョン前にコンビニ。これ、多分うちにしか出来ない」

 

 そう呟いた後、リーダーさんは定時に仕事を切り上げて家に帰り、翌朝一番で真一さんの元に企画書を持ってきた。ヤマギシストアの規模拡大、オリジナル商品の開発、そして日本国内にある全ダンジョン前への店舗進出。

 

「顧客は毎日何百人と居るんです。現状は近隣の店舗に吸収する形になっていますが、大本のダンジョン前。ここはがら空きだ」

「まぁ、ダンジョン入り口付近に出店できる業者は限られてるからな。それこそヤマギシ(うち)と魔石買取の店舗ぐらいじゃないか?」

「立地が良いのは分かったが、だからってわざわざヤマギシ(うち)でやることか?」

ヤマギシ(うち)にしか出来ないならやる意味はあるし、ダンジョンの利便性が上がるのはヤマギシ(うち)にとってもメリットだ」

 

 当初は肯定・否定両方の声が上がっていた。だがそれら一つ一つにリーダーさんは辛抱強く当たっていき、また上がってきた意見を取り上げては企画に変更を加えていき。やがて40層が攻略されたころにはひとまず現在保有しているコンビニは既存のコンビニチェーンから独立し、ヤマギシオリジナルのコンビニエンスストアとして運営。その話がある程度固まってそれから少し時間が経ち、現在。

 

 決まっていた流れに自身で待ったをかけて、リーダーさんが言い放ったのが冒頭の言葉である。

 

「当初の予定としては、駅の構内にあるあのコンビニを目指していました。各ダンジョンの入り口で食品や飲料を売る。間違いなく需要のある手堅い商売です。事業規模としても人員の問題からそれ以上の出店は難しいと判断していました」

 

 確認するかのようにそう口にして、リーダーさんは周囲を見渡した。

 

「ですが、40層の攻略によって状況が少し変わりました」

 

 否定する言葉が出なかったことに満足そうに頷いて、リーダーさんは言葉を続ける。

 

「ダンジョン産の食材を使った、食料品の生産及び供給、これが出来るのならば勝負に出る価値は十分以上にあります。元々ヤマギシにはダンジョン産の素材を用いて商品を開発する能力がある。あとは開発した商品を量産し運搬するノウハウがあれば状況は整う。中小のコンビニチェーンを吸収合併しそれらを手に入れればダンジョンの素材を使った商品も扱うオンリーワンのコンビニエンスストアが生み出せる――そこまで実現することが出来れば」

 

 言葉を切り。ぐっと身を乗り出してリーダーさんは口を開く。

 

「コンビニ王に、ヤマギシはなれる!!!」

「なってどうするんすか」

「コンビニ王か……」

「親父、そこじゃないって」

 

 どこぞのゴム人間のような発言をするリーダーさんに置物であることを忘れて、ついついそう言葉を返す。最後の最後で台無しだ。

 

 そして社長、もしかして本気で家業としてのコンビニエンスストアが身に染みてるんだろうか。それどう考えてもネタ半分……いや、まあ社長たちが本気で進めるつもりなら反対する理由はないんだけどね。常に人材募集中なヤマギシの内部からは人員を割けそうにないんだけど、そこまで拡張して大丈夫なのかは少し心配だな。

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