誤字修正、244様ありがとうございます
ヤマギシという企業は新興企業だ。
主な業務としてはダンジョン関連。ダンジョンの攻略およびダンジョンから産出される物品や魔法を研究して商品を開発・販売しており、携帯型エアーコントロール発生装置、工業・民間用フローティングボード等の大ヒット商品も数多く生み出している。また魔力式発電所の製造・建設にも関わっており、子会社であるヤマギシブラスコでは化石燃料に代わる新エネルギーの筆頭と目されている魔力式発電技術を全世界に向けて販売している。
元々は小さなコンビニを営む家族経営の会社で、それこそ3年前にダンジョン発生という転機が訪れるまでは従業員数も(家族を含めて)両の手で足りる程度。そのため業績こそ一気に拡大しているものの規模自体は小さなもので、ヤマギシブラスコの共同出資者であるブラスコ等の協力の元なんとか回している会社。
経済界の方々から見ると、ヤマギシという会社はこういう風に見えているらしい。まぁ普通なら10年単位でやるべき仕事をたった数年で、しかも人員不足のままガンガンに推し進めているから、はたから見ると危なっかしく思えるのだろう。
良くも悪くも注目を集めているのは間違いない。
「Q:そういう企業が企業買収を進めていると聞いたらどうなりますか?」
「A:御覧のあり様です」
「今の若い子はそんな会話の仕方をするのかい?」
相次ぐ問い合わせに慌ただしく駆け回る営業さんを尻目に、営業部の片隅にポツンと置かれているソファに座って兄妹そろって茶をしばく。周りが忙しくしてるせいでまるで味が分からんというか気が落ち着かないんだが、目の前に座っている沙織ちゃんの父親――下村のおじさんはそんな営業部の風景にもどこ吹く風とばかりにのほほんとした表情でお茶をすすっていた。
下村のおじさんはうちの父さんと同じく渉外を担当している。父さんが国外を担当しているので下村のおじさんは国内担当だ。役職としてはこの営業部の部長を務めており、この慌ただしい営業部内で本来は一番忙しい筈なんだが、いつ会ってものんびりとした雰囲気でお茶をすすっているイメージがある。
「いやぁ、実際に私はたいしたことはしてなくてね。優秀な人がたくさん入ってくれたから助けてもらってるんだよ」
のほほんとした表情で下村のおじさんはそう言うが、こちらの会話をうかがっている様子の社員に視線を向けるとぶんぶんと首を横に振っている。まぁヤマギシが立ち上がってすぐの頃なんて下村のおじさんがほぼ一人で国内を担当してたんだ。おじさんの仕事ぶりで大したことをしてない、なんて言われたらほかの営業部の人は困るだろうな。
まぁ下村のおじさんと周囲のすれ違いは今回はどうでもいいとして、だ。
「ところで、俺になにか用事があるって沙織ちゃんから聞いたんですが。どうされたんです?」
「おっと。ごめんごめん、ついつい本題を忘れていた。はは、年かなぁ」
ついついのんびりとした空気に流されそうになったのでそう下村さんに尋ねると、下村さんはぽりぽりとほほを掻きながら誤魔化すように笑い声をあげる。
「本当に済まないねぇ。本来は私のほうでそちらに伺いたかったんだけど。ちょっと今、営業部はほら。コンビニチェーンの買収話でバタバタしてるでしょ」
「ええ、まぁそうみたいですね」
言葉の通りバタバタと走り回る営業部の人たちを眺めながら下村さんの言葉に答える。
「ここ1週間はまともに家に帰る暇もないくらいに忙しくしてる子も居てねぇ。それにここから買収が始まれば調整やら他社との折衝やら更に忙しくなりそうで猫の手も借りたい状況なんだよね」
「まぁ、そうですね。あの、営業に人員を回してくれって話だと俺では力になれないと思うんですが」
「ああ、ごめんごめん。本題はね」
俺の言葉に歯切れが悪そうに頭をかく下村さんに、ここまで部外者だからと口をつぐんでいた一花が「ああ……」と一言呟いて口を開いた。
「もしかして臨時冒険者のお守り担当に人が割けないって事?」
「そうなんだよねぇ」
「……ああ、なるほど」
一花と下村さんのやりとりを聞いて、ようやく俺にも事情が呑み込めてきた。臨時冒険者のお守り――つまり教官役を担当する人員を出すのが今の営業部には難しいという事だ。
臨時冒険者とは日本冒険者協会が行っているダンジョン探索ツアーに参加する人々の事を言う。ダンジョンにはいるとき、通常は冒険者の免許を持っていなければいけないが、臨時冒険者は2種以上の冒険者1名に1種免許もちの冒険者4名に率いられながら5層までのダンジョンアタックを体験することができるといういわばお試しで冒険者の仕事を経験できるのだ。
ダンジョンや魔法、それに冒険者という職業は誕生したばかりの新しい存在だ。当然、未知であることから怖がられたり疎まれたりする可能性を考慮した俺たちは、ダンジョンに入る冒険者という存在の概念をある程度固める際、小細工の一つとしてこの臨時冒険者というものを作り上げた。ダンジョンに入れば魔力が手に入る。魔力を持った人間はそれまでとは比べられないほどに体力を増したり、若返ったりする。
これらを拒否感なく体感してもらうために臨時冒険者というものをつくり、毎日人数限定でダンジョンを体験してもらっていたのだが、これを実際に行ってみると実に困ったことが起きてしまった。
この臨時冒険者。人気になりすぎてしまったのだ。
毎日全国のダンジョンでツアーを行ってるのに、予約は3年先まで一杯。当然その状態では問題があると一日に潜れる回数を増やしたりと色々試みているが、それを行うにはどうしたって資格持ちの冒険者が数多く必要だ。資格持ちの冒険者たちは日本冒険者協会の取り決めにより、この臨時冒険者の引率を割り当てられたら協力しなければいけない義務(日当あり)があったりする。
当初は時間がたてばたつほどに冒険者の数も増えて割り当てられる回数も減るはず、と考えられていたのだが、ツアーの回数を増やしたせいで負担は当初とほとんど変わらない状態。
そして日本で一番冒険者が多い組織、社員全員が免許持ちのヤマギシは当然社員全員がこの義務を履行しなければならず、それが現状の営業部にとっては非常に厳しい、と。
「申し訳ないんだけどね。ヤマギシ警備からいくらか人員を回してもらえないかな」
「俺としては構わないんですが、こういうのはベンさんに聞いてもらった方が良いんじゃないですかね。ほら、俺お飾りですし」
「もちろんバートン君には話は通すとも。けど社長である君に先にお詫びがてら、伝えておこうとおもってね。もちろん、出来る範囲の協力で構わないんだ」
俺が社長をしている事になっているヤマギシ警備は、ヤマギシが保有するビルや工場などの警備全般を受け持っている。ヤマギシの拡大に合わせるように人員確保も常に行っており、また緊急時に対応するため常に各詰め所には人員が複数名待機している。多少危険のある仕事だからある程度以上に人員には余剰を持つようにしているのだ。
もちろんある程度の細部は詰めなければいけない。どれくらいの人員を、いつ、何名。そのあたりをはっきりしてもらって、そこからすり合わせになるだろうが恐らく問題はないだろう。
「わかりました。俺が出来る範囲で協力させていただきますね」
「うん、ありがとう。そう言ってくれると思っていたよ」
俺の言葉に下村さんはそう言い、少し申し訳なさそうに礼を言った。そんな俺と下村さんを眺めて、一花はあーあ、と小さくため息をついていたことに疑問を持ちながらもその場をあとにして。
そして、一花のため息の理由を数日後に俺は知ることになる。
「はい、じゃぁこの資料を今のうちに読み込んでおいてね。渡したスーツのサイズは問題なかったかな?」
「わっつはぷん?」
「うむ。初めて身に着けた故ちと手間取ったが一花が手伝ってくれた」
パリッと決まったスーツに身を包んだ下村さんの言葉に、同じくパリッと決まった女性もののスーツを身に着けた二葉が答えた。
胸に燦然と輝く『ふく社長』と銘打たれた名札がまぶしい。わざわざひらがなを使われている辺りにこだわりが感じられる。
「おや、一郎くんは……おっと。鈴木社長はまだ着替えていないのか。魔導ヘリを使うから早めに用意をしてもらえないかな」
「それヤマギシ警備の社長って意味ですよね???」
「もちろんそちら
俺の言葉に人当たりのいい笑顔を浮かべる下村さん。嫌な予感が止まらない俺は、続けて手の中にある明らかにショタエルフ状態の時に合わせただろうスーツを持ち上げて、もう一度下村さんに問いかけた。
「人員の追加って臨時冒険者の教官役、ですよね……?」
「もちろんそちら
「…………」
「ああ、もちろん実務をしてくれという訳じゃないんだ。ほら、こども社長って居たじゃないか。合併先の企業から大手チェーンにも負けない何か強い売りが欲しいと言われてね、広報部のオガワ部長に相談したら、知名度の高い二人のタレントを生かさない手はない、と助言されたんだよ」
「ここで出てくるか広報部……!」
「出来る限り協力してくれると言ってくれたよね。山岸社長も真一くんも喜んでいたよ?」
下村さんの言葉に、あっこれもう逃げられんなと気付くも時すでに遅く。
中小コンビニチェーンのおたふくショップを吸収合併したヤマギシストアーはヤマギシの完全子会社、ヤマギシストアー(株)となり、その初代社長と副社長にはコンビニ部門の部門長であるリーダーさんではなく俺と二葉というショタロリエルフコンビが就任することになった。