奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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ちょっと長いうえにまだゲームが始まらない(反省)


第三百六十六話 前振り

 野球盤というボードゲームがある。野球のグラウンドを模したボードの上でパチンコ玉を投げるピッチャー、バットを持ったバッター人形を使い、交互にピッチャーとバッターを交換して得点を競い合うゲームだ。やったことはないがおもちゃ屋などで見かけたことはあるという人は多いだろう、長い歴史を持つゲームである。

 

 今回俺たちが参加するリアル野球盤はそのボードゲームをリアルの球場でリアルの人間が行おう、というTV番組の企画の一つだ。野球グラウンドの各所に『1BH』や『2BH』、『OUT』といったスペースが設置されており、各チームのバッターはマシンが投げるボールをはじき返してヒットを狙ったりアウトになったりする。

 

 20年近い歴史を持つ、それこそ俺が生まれたころから年始を賑やかす番組で俺も子供のころから見てきたものだ。そんな番組に自分がこれから出演するという。野球を辞めて5年も経つ身で、だ。

 

 うん。

 

「やっぱり俺ら場違いじゃね……?」

「今更かよ」

 

 レガースを着こむ俺に、恭二はそう言って手に持っていた硬球をピン、と指の力だけで飛ばす。

 

 今回のリアル野球盤はタカ田中さんが率いる東京の野球名門高、帝都高校OBで構成されたチームと、今年度活躍したプロ野球選手チームが俺や恭二、それにタカバット等の野球が出来るダンジョン関係者を集めたチーム“冒険者”と戦う構成になっている。

 

 例年ならば帝都チーム対その年活躍したり話題性の高いプロ野球選手チームとの対戦になるためバラエティ番組が見たい層だけではなく野球好きでも楽しめるのだが、今年度はむしろ野球関係者VS冒険者のような内容になっている。ふつう逆だろというか、帝都OBチーム+俺たちVSプロ野球選手連合じゃないかと思うんだが。

 

「いやぁ無理だろ」

「あれは無理でおじゃろうなぁ」

 

 ピンク色の忍者装束を身にまとったレスラーことみちのくニンジャ(本名:千葉)と一条三位のそっくりさんこと一条麻呂さんは、俺の切なる願いを無慈悲にも否定した。

 

パァンッ!

 

 大きい破裂音と共に硬球が八つ裂きになる音が聞こえてくる。すべての元凶というかまぁそうなるのは知っていたというか。彼らの視線の先に目を向けると、ピッチングマシン相手にバッティング練習を続けるタカバットの姿が目に入った。

 

 ぶるん、と彼が軽くバットを振るうと、破裂音と共にぐちゃぐちゃになった硬球がスタンドへと運ばれていく。あれ普通の硬球みたいだな。確か前にタカバットは20層台に居る獣モンスターの毛皮で作ったボールでないと冒険者の膂力に耐えられないと言っていたが、なるほど。確かにこれは普通の道具じゃ野球できんわ。

 

 これ色々大丈夫なのかなと思っていると、渋い顔をしたタカ田中さんがちょいちょいと手招きしてくる。

 

「あれ、キミらみんな“ああ”なる?」

 

 タカバットをちらりと見ながら田中さんがそう尋ねてくるので、この場に呼ばれた冒険者の面々を眺める。

 

 タカバットは言うまでもないし千葉さんはレスラーみたいな体格でかなり身体強化もされてる。多分、あそこでバットを持っているのが千葉さんでも同じ結果になるだろう。恭二は言わずもがなだし唯一魔法型の麻呂さんなら力加減が上手くいけばってくらいだろうか。

 

 予測交じりになるがその辺を伝えてみると、田中さんは渋い顔をして一つ頷いた。

 

「ルールをイジらんとまともにゲームできんかな……ちなみにキミがやるとどうなる?」

「今の姿でやると多分破裂しちゃうんで変身してだれか野球選手になりますね」

「なるほど…………ドカベンの岩鬼とかできんの?」

「出来ますよ。全部再現できるとは言えませんけど」

「マジか……マジかぁ……」

 

 変身を見たがる田中さんにあとで見せると約束して冒険者チームの元に戻る。このままじゃまともにプレイもできそうにないし今日のゲームをどうするかチーム内でも話し合っておくか。

 

 

 

「魔球が見たい」

「えぇ…………」

 

 このままだとリアル野球盤の開催すら危ぶまれる中、田中さんたちレギュラー陣が話し合い(カメラの前で)をした結果、本当にいきなり彼らがそう言い始めた。どれぐらい急な話かというと仕事の話をしている最中いきなり『そうだ、京都に行こう』と言い出すレベルだろうか。

 

「いや、真面目な話。キミら普通に打てないじゃん」

「まぁ普通の硬球だとバットにぶつけた瞬間バットと一緒にはじけ飛ぶでしょうね」

「俺、バットが折れるのは見たことあるけど粉々になるの初めて見た」

 

 田中さんの言葉に周辺に居た芸人とプロ野球選手たちがうんうんと頷く。普通はどう扱っても罅が入って折れるくらいだろうし粉々になるのは確かに珍しいだろう。

 

 俺や恭二の場合、復讐者面々と撮影の合間にベースボールしたときに見たことがあるので『せやろな』くらいの感覚だったが、千葉さんや麻呂さんはそこそこ驚いてたし普通の野球を知ってる人間ほど粉砕バット(バット自身が)には驚愕するんだろうな。

 

 そしてこの状況を鑑みて撮影陣は『これはこれで面白い派』と『さすがにちゃんとゲームはやらんと派』とに分かれて考えた。その結果が『魔球見たい』である。

 

 いやそうはならんやろ。

 

 タカバットがメーカーさんと共同開発した冒険者用野球道具があれば、冒険者でも問題なくプレイ出来るのだからそれを使えばいいんじゃないだろうかと思うのだが。

 

「スポンサーの関係が……」

「あ、はい」

「というのは冗談だけど、ちょっと俺等も甘く見てた所があるんだよなぁ」

 

 ガリガリと頭をかき難しそうな表情を浮かべて、田中さんが袋に詰められたバットやボールの残骸に視線を向ける。

 

 番組側の思惑としては圧倒的な身体能力の冒険者組にプロ野球選手連合が技術で対抗し、そこに帝都OBが賑やかして番組を成り立たせるつもりだったらしい。

 

 この構図ならスポンサーである冒険者協会とヤマギシの顔も立ち、プロ野球側の顔も立ち、番組も成立すると良いことづくめであったのだが、実際に冒険者の身体能力を直接目の当たりにするとそんな計算が成り立つようなレベルの話ではない、と田中さんは感じたそうだ。

 

「芸能界にもダンジョンに潜ってる奴とか魔石を買って魔力を吸ってる奴はいるんだよ。どこか『これくらいだろ』って感覚だったんだけどな」

「あー」

 

 田中さんがバックネットに視線を向けたので釣られてそちらを見ると、反省中ですと書かれたホワイトボードを首からぶら下げたロッカー劇女の姿が見える。業界内の冒険者として彼女もこの収録に呼ばれていたのだが、直前にやらかした事を田中さんたち先達に知られてお仕置きされているのだ。

 

 たしかロッカー劇女さんはゴーレムにボコられる的な動画を上げたりしてたので10階はクリアしてる冒険者なんだが、其の辺の冒険者だと確かに凄い身体能力、くらいだろうか。

 

 彼女を基準に冒険者の能力を想定していたのなら、確かに想定がずれてしまうだろう。それにあんまりにも冒険者の能力が常識を逸脱しすぎていると、それはそれで番組側にも俺たちにとっても困ったことが起きるかもしれない。

 

 一般人がこの番組を見て、冒険者に対して恐怖してしまう可能性が出てくるからだ。

 

「という訳で鈴木くんに頼みがあるんだが」

「この前振りで断れるわけないですよね???」

 

 これだけ事前情報を積まれて断る選択肢なんてないのだが、非常にいい笑顔を浮かべた田中さんの言葉にせめてもの抵抗としてそう苦言を呈しておく。俺はけっして無抵抗という訳ではないと主張するために。断れないけど。

 

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