奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百六十八話 一郎の欠点

「メジャーリーグ4の企画書が届きました。タカ・タナカの息子として父親の後を追ってメジャーリーグに挑戦したイチロー・タナカ役でコーチに就任した父親とリーグ優勝を目指す家族愛テーマのストーリーだそうです」

「出ません」

「ではこちらのダンジョン鮫はどうでしょうか。以前上げた41層の動画から着想を得たと例の会社から持ち込まれた企画でして思った以上に良くできたB級ぶりで一考の余地はあるように思えますが」

「一考しないでください」

 

 シャーリーさんが山積みした企画書の一つを読み上げてこちらを見る。答えは勿論ノー!だ。俺は断れる日本人だからな。

 

「でも、ノリと勢いでやっちゃうんでしょ?」

「妹よ。兄にも自制心くらい、ある……!」

「ほんとぉ?」

 

 ソファに座って週刊少年飛翔を読む妹に断固とした口調で応えると、一花は疑わしそうな表情でこちらに視線を向ける。その視線の圧に耐えかねて視線を逸らすと、一花ははぁ、とため息を吐きながら少年飛翔を閉じた。

 

 止めてくれ一花。その「なにいってだこいつ」って感じのため息はオレに効く。

 

「シャーリーさん。この山の原因って、こないだお兄ちゃんが行ってきたって収録が原因なんだよね?」

「はい。なんでも今回のリアル野球盤は地上波放送に先駆けてリアルタイム配信をやっていまして、そちらが非常に話題になっているんです」

「どういう感じで話題になってるの? 知ってるけどあえてここでお兄ちゃんでもわかる感じで教えて!」

「一花さん! 兄でも分かる感じってのはちょっと棘があるよ一花さん!?」

「あはは。まぁ、一言で言うならイッチの再現力の幅が評価されたと言うべきでしょうね」

 

 俺たち兄妹のやり取りに苦笑しながらシャーリーさんはそうオブラートに包んだ言葉を述べた。

 

 とはいえ再現力と言っても俺がやったことなんて大したことじゃない。対戦する相手の要望に合わせて変身を行い、それっぽい球を投げただけだ。なんなら魔法を使わずに変化球だけでヨシタクを三球三振にした恭二の方が野球的に凄いことをやってるんじゃなかろうか。

 

「魔法を使わずにホップする球なんか投げた恭二兄はともかくととして、ハイジャンプ大回転魔球とか女装してドリームボール投げたら『あ、こいつ大体やれるんだな』って思われるのはしょうがないんじゃない?」

「水原選手のアレはユニフォームだから(震え声)」

「お兄ちゃんの欠点ってさ。人が求めてるって思ったらつい応える人の好さと調子に乗ってサービスしすぎるとこだよね。これ、失敗の元だってジブリの狸が言ってたよ?」

「同じ多摩に住むものとして彼らはリスペクト対象だから」

「バリバリ開発が進んでる今の奥多摩ってあの映画の欲突っ張った人間まんまじゃん???」

 

 たった3年、開発が始まってからは2年ほどの間に奥多摩町は急速に開発されている。確かにこの開発スピードは、あの映画で描かれていた野山の開発速度に匹敵するかもしれない。今の俺たちは奥多摩の野山に住む動物たちにとって、あの映画の人間たちのような存在なんだろうな。

 

 この開発の影響か、最近では近隣の野生動物がかなり減っているらしくじいちゃんが開催している狩猟体験ツアーの継続も困難になってるらしい。必要に迫られてとはいえ自然環境は出来る限り考慮した開発が望ましいんだが、現状奥多摩に対する価値が上がり続けているせいでその辺が後回しになってるんだろう。

 

「それお兄ちゃんの考え?」

「いや、横島がそう言ってるんだ。頭の中で」

「……あー、うーん。そういえばめちゃめちゃ商売上手だったっけアイツ」

 

 なんとも納得がいかないような声音でそう零す一花の言葉に頷きを返しておく。内部に居る住人たちは基本的に俺の知る範囲の知識を元に考えて行動しているのだが、結城さんやピーターのように明らかに俺の脳みその演算能力を超える結果を叩きだす人格も存在している。

 

 彼らは俺の思考から分かれるように生まれた人格なのは間違いない。性別が違う御坂美琴にだって繋がりを感じているし、彼女が自分の人格の一部を有した存在だという認識もある。

 

 だが、もしかしたら、彼らの思考回路は俺の脳とは独立しているのではないか?

 

 自身の一部であるとはわかっていながらも、いつも心の片隅でそう感じているのも否定はできない。というか普通に考えて一人の脳みそで数百人規模の人間の思考とか再現できるもんなんだろうか。そんな事したら比喩でなく頭の使い過ぎで脳みそが茹で上がってしまうのではないか?

 

 まぁ実はすべて魔力が解決するんだよ! で説明つくかもしれないんでこの点はあんまり悩んでも仕方ない気もするけどな。

 

 

 

 さて、そんなこんなで時は過ぎ年末。

 

 今年は公私ともに激動と言っていい日々で心身ともにボロボロのクチャクチャになってしまったため、クリスマス休暇はケイティやウィルの誘いに乗って西カリブ海はバージン諸島でのバカンスを楽しもうと。

 

 すべての年内でやるべき仕事を片付け、各ダンジョンの40層出張組も迎えに行き、一花に引きずられて二葉とダンプちゃんの水着購入の荷物持ちをして、アガーテさんに何故かサイズぴったりのブーメランパンツをプレゼントされ、なんか最近引っ付き方が前にもまして近いというか明らかになんか距離感近い近くない?という恭二と沙織ちゃんとケイティを眺めて。

 

 完ぺきで最高の年末年始を送る予定だった。

 

「予定だったんだよ……昭夫君」

「あ、あははは。ドンマイです」

 

 ロックマンに変身し、エアコントロールをバスターでガンガン海岸にばら撒きながらそう愚痴っていると、ペアを組んでいる昭夫くんが苦笑を浮かべる。最近は東京と福岡を行ったり来たりと忙しくしている昭夫くんにとっても年末年始の休みは貴重なはずだが、彼は文句も言わずに除去作業に従事している。

 

「鈴木さん、ここでの作業は終了いたしました! 次はそのまま南下した先にある漁港をお願いします」

「おかのした」

 

 やつれた顔でそう告げてくる自衛官に二つ返事で応えて、魔力エンジン式に改造されたライダーマンマシン2号に跨る。作業地域は膨大だ。なにせ日本近海で隣国の原子力潜水艦が爆砕したのだから。

 

「年末年始にドンパチやってんじゃねぇよほんと……」

「それは……同意です」

 

 互いに言葉を交わしながら、改造されたバイクを走らせる。海風に乗ってまき散らされた放射能の影響で、ほとんどの住民は避難生活を余儀なくされている。周辺にまで迷惑かけてんじゃねぇよ、と何度目になるかも分からない愚痴を思い浮かべながら、俺と昭夫君の駆るバイクはほとんど人の姿がない冬の海岸線を走った。




平成狸合戦ぽんぽこ。名作ですね(同調圧力)
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