奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百六十九話 ラーメンはすべてを解決する。

 九州西岸に潜水艦が現れた。

 

 その連絡が入ってきたのはちょうどクリスマス休暇に向けて残った仕事を片付けていた最中だった。

 

 華国の最新鋭原子力潜水艦と呼ばれていたそれは上部に大きな穴が開き、潜水が不可能な状態で最寄りの陸地である日本を目指して海上を漂っていたらしい。

 

 それを発見した海上保安庁の巡視船が停止するよう警告を発するも時すでに遅く。力尽きた原潜は巡視船を巻き添えに九州の沖合で爆散。周辺海域と九州西岸部に深刻な放射能汚染をまき散らした。

 

 内閣はこれを外部からの攻撃行為と判断して臨時国会を収集。即座に自衛隊の出動を決定し、被害地域への救助活動に入る。そしてこの段階で日本冒険者協会及び世界冒険者協会に被害地域への除染活動の支援要請が入ってくる。

 

 まぁこれは当然と言っていいだろう。なにせ冒険者のほぼすべてが使える魔法、エアコントロールには放射能汚染を除去する効果もあるからだ。汚染地域に備えなしで立ち入れて除去作業に当たれるし、その上福島の汚染除去という実績まである技能持ちの集団だ。

 

 もちろん俺たちヤマギシにも依頼は入ってきたしこんな事態でクリスマス休暇だなんだと言ってはいられない。警備や施設維持といった最低限の人員を除いたヤマギシの全社員は、国からの求めに応じて九州西岸と周辺海域の除去作業に従事することになった。

 

 いや、ヤマギシ社員だけじゃないな。兼業・専業と違いはあるが冒険者協会に登録しているほとんどの冒険者は早い遅いの違いはあれど九州に集まってきているらしい。

 

「ばり助かったとよ……」

「困ったときはお互い様だろ」

 

 事件発生から共にバイクで駆けずり回った昭夫君がぼそりとつぶやくようにそう口にする。俺と昭夫君は遊撃部隊というか、広範囲に広がった被害地域でも手が足りない部分に無補給走行が可能な魔導バイクで急行する役割を担っている。

 

 その役割柄、普通の人間では立ち入れないような海沿いの断崖絶壁などの除去作業も行っており、ろくに休むことも出来ない有り様だ。体力自慢の彼でもキツいだろうな。

 

「汚染元の原潜付近は恭二の部隊が除去に当たってるし、そろそろ落ち着くはずだ。早く終わって博多でとんこつラーメンでも食べに行こうぜ!」

 

 そう励ますように声をかけると、昭夫君はひとつ頷きを返して小さく微笑んだ。よし、パーフェクトコミュニケーションだな。やはりラーメン。ラーメンはすべてを解決する。

 

 

 

 事態発生から4日後。世界冒険者協会からの援軍第一団としてウィルが5百人の冒険者を引き連れてきてくれた。すぐに連絡がついた人間を片っ端から連れてきたとの事だが、ここでの500名の追加は本当にありがたい。休みなしで動いていた一部の人間に休息させる余裕が出てきたな。

 

 このタイミングで遊撃部隊をウィルと交代し、俺と昭夫君も一時休養に入る。なんせ三日間も走り回っていたのだ。体の疲れはリザレクションで何とかなるにしても精神的な疲労は休まないと取れないからな。

 

 現場を離れようとしない昭夫君を力づくで引きずるといった一幕もあったが初動で無理をした甲斐もあり状況は徐々に落ち着いていき、新年を迎えるころにはなんとか事態を収束させることができた。

 

 当然、事が収まった以上半ばボランティアとして除染作業に当たっていた冒険者組もやることがなくなり、各地の避難指示が解除されたのを機にあとは現地の自衛隊の方々に引き継いで帰路に就きはじめる。それは俺たちヤマギシ組も例外ではなく、ようやく自分のベッドで寝れるだとか、この分まとめて休暇取るぞ、などと捕らぬ狸の皮算用をして荷物をまとめていたのだが。

 

「――今回、オブザーバーには魔法についての専門家として山岸恭二氏と鈴木一郎氏、それにキャサリン・C・ブラス氏にご参加いただいております」

「よろしくお願いします(震え声)」

「微力でありますが精一杯務めさせていただきます(震え声)」

「それでは今回の華国原潜爆散事件につきまして現在の調査で分かった範囲の――」

「その前にこの案件を事件で片付けるのは頂けないのではないか。これはもう一国家による武力襲撃に等しい――」

 

 一小市民である俺がなぜ、高そうな制服に身を包んだ政府関係者に連れられて、ごてごてと大量の勲章を胸につけた自衛隊や米軍のお偉いさんが集う会議に参加させられているのか。これが分からない。

 

「魔法の事ならダンジョン大先生の恭二に聞けばいいじゃん」

「いやいやいやここは全世界ナンバーワン知名度のスーパーヒーローの出番だろ」

「お二人が近くに居るなら同時に呼ぶべき案件ですから」

 

 俺と恭二のやり取りに苦笑を浮かべて、ケイティがそう結論付ける。それに関しては正直な話俺も恭二もそれほど文句はなくて、しいて言うなら魔法の研究者としてアガーテさん辺りも呼んだ方がいいんじゃないかと思うくらいなんだが。まぁそこは国籍的な意味合いもあるんだろう。明らかに通常なら部外秘になるような単語がバンバンと飛び出してるし。

 

 ケイティはともかく俺と恭二がこの場に居るのも本来は場違いなんだが、たぶん彼らにとっても想像の埒外だったんだろう。原潜から引き上げられた情報端末に残っていた、ソレの存在は。

 

「華国政府からの指示により、原潜は自国内に向けて核弾頭を発射しました。これは原潜から引き揚げられた端末を解析した結果、間違いのない事実だと思われます」

『だが、その核弾頭が華国の国土を焼くことはなかった。そして、原潜は何者かの手によって潜航不能なほどのダメージを受けた、と」

「はい。そして、それを成したのは戦闘機でも爆撃機でもなく、人間大の高速飛行をするナニかだった。記録で読み取れたのはここまでです」

 

 分析官らしき自衛官の言葉に、翻訳を使った米軍高官がそう答える。その言葉に頷いて、分析官さんはこちらに――恭二と俺に視線を向ける。

 

 つまり彼らは確認したいわけだ。

 

「出来るか?」

「多分。やりたくはないかな。ケイティは?」

「撃ち落とすだけならなんとかなるかもしれません。もちろん核弾頭が誘爆したら耐えきれないでしょうが……」

「準備抜きでやれそうなのは恭二大先生くらいじゃないか? 俺、飛べないし」

「嘘つけ」

 

 発射された核弾頭を打ち落とし、そのまま原潜を破壊することが冒険者に可能なのか、という事を。

 

 そしてその答えは、恐らく出来る。もちろん高速飛行する弾頭を捕らえる速度と足場は必要だが、それさえ確保してしまえば上澄みの冒険者ならばやれてしまうだろう。たぶん、これをやったのはあの老師さんか老師さんオススメのヤツだろうな。あいつら素で空飛べる魔法使ってるらしいし。

 

 俺たちの発言が予想外だったのか。今後の戦略の見直しが、とか戦略級の一個人だとかどこの範馬勇次郎を指しているのか分からない単語が会議室に溢れかえり、結局話はまとまらずにその日の会議はお開きになった。

 

 あの、ところで俺たちはもう帰っても良いんでしょうか。ダメ? そんなー。。。

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