奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、見習い様、244様、garaasaa様ありがとうございます


第三百七十二話 日本での番宣

「疲れた」

「うん、お疲れ!」

 

 ソファーに倒れこんだ俺に、ノートPCをカタカタ叩きながら一花が満面の笑みで応えた。なにワロてんねん、と言いたくなったがそれを口にする元気もないため色々呑み込んでソファーのクッションに顔を埋める。

 

 激動と言っても良いスケジュールだった。お役御免となってすぐに各地のダンジョンに『そうあれかし』要員を送り届け、東京に戻ってからは福岡で感じていた“嫌な予感”の対策をシャーリーさんやケイティに相談。そして何が起きるか分からないと奥多摩ダンジョンの40層に待たせていた二葉を迎えに行って、4,5時間延々と文句を言われ続けた。

 

 これ全部を二日で終わらせたのだから俺は相当頑張ってるんじゃないだろうか。

 

「じゃ、次は民放各局を行脚だっけ」

「救いは、救いはないのですか……?」

「年明けからこっち福岡で食っちゃ寝してたんでしょ? その溜まってた事が一気に来ちゃったね」

 

 それはそうなんだがこう、あるじゃないか。俺としては完全に貧乏くじって印象なんだからさ。もう少しこう、手心というか。

 

「私を置いていくからひどい目に合うんだぞ、イチロー。しっかり反省しろ」

 

 そう責めるように口にして、ソファに寝そべる俺の上にトスン、と二葉が腰を下ろす。

 

「お、二葉お久しぶり。ようやく40層から出てこれたね」

「うむ。来る日も来る日も玉座の操作で大変だった」

 

 ぺしぺしと俺の頭を叩いて二葉が苦言を零す。ダンジョン外では二葉は俺から離れることが出来ないため今回は留守番してもらっていたのだが、結果として1月もの間二葉は40層に缶詰状態になり、なおかつたった一人で延々換金作業をさせられていたのだ。

 

 かなりの緊急事態だったため、念には念を入れて各地の40層に待機していたキャラクター達も回収していたのだが……その用心が思い切り仇になってしまった形だ。

 

 そのため迎えに行った際には二葉は激おこ状態。怒りを鎮めてくれるまで数時間もの罵詈雑言の嵐に耐える羽目になった。

 

「次になにかあったら、私も連れて行け」

「hai…」

「文字通り尻に敷かれちゃってるね?」

 

 私まだ怒ってます、と表情と口調で語っている二葉にいいえなどという返事は返せない。怒れる姉は刺激しない。これ生きる知識である。

 

 

 

 姉妹との心温まる家族団らんを終えても休む暇なんてものはない。1時間ほど二葉の椅子をやった後は冒険者協会の魔道ヘリに乗って銀座の冒険者協会支部へ移動し、そこからヤマギシ広報部の車に乗り換えてテレビ局へ。魔道ヘリの私物化と言われるかもしれないが、今回の案件は世界冒険者協会からの最優先オーダーのため問題はない。

 

 そう。これは一会社の仕事を超えて冒険者協会からの依頼。俺たち冒険者が一般大衆に良く思われるようになるために必要な仕事。

 

 番宣である。

 

『お、久しぶりじゃないかイッチ。キューシューから出てこれたんだな』

米国(あっち)の試写会に来ないからみんな寂しがってたぜ?』

『お二人ともちょっとぶりですね。九州の件ではありがとうございました』

 

 復讐者たちの新作を宣伝するために来日した鉄男さんやハルクさん達と合流する。ちょっとぶりという表現なのは、彼らも先月ボランティアとしてクリスマス休暇を吹っ飛ばし九州に手伝いに来てくれていたからだ。

 

 米国では俳優などの芸能人に当たる人々に多くの冒険者が居る。ウィルが音頭を取って連絡が取れる範囲の冒険者をみんな連れてきた、とは言っていたが彼らのような所謂セレブまでそこに参加していたのは中々の驚きだった。

 

『水臭い事言うなよ。同盟国じゃないか』

『そうそう。それにイッチが困ってるって連絡も来てたからな。俺、日本にはあんまり興味がなかったけどイッチが困ってるなら話は別さ』

『……ありがとうございます』

 

 理由はどうあれ、彼らのような影響力がある人がボランティアとして参加してくれたお陰で、九州の除染作業は急ピッチで進めることが出来た。この場で出来るお礼なんて頭を下げる事しか出来ないが、そんな俺に対して彼らは気にするな、と言いたげに肩をポンポンと叩いてくる。

 

『ところでイッチ、そちらがその。貴方のエルフ姉妹ですか。私、彼の相棒のエルフの大魔導師を演じているものなんですが』

『俺のエルフ姉妹って単語止めてもらっていいです???』

『うむ。我こそ真のイチローの姉であり魂の相棒である』

『二葉さん、張り合わなくていいのよ!? その意味わからない設定もいらないから!?』

 

 そんないい雰囲気の場面でも一切空気を読まず、エルフの大魔導師役の女性が顔は笑ってるのに目は笑っていない状態でそう尋ね、それに俺にひっつく形でついてきた二葉が全力で応えた。俺にひっついたまま。

 

 無言でにらみ合う二人。ほかの役者陣は親指を立ててすっとその場から離れる。危機管理能力の高さが凄い。

 

 もちろん俺にこの場をなんとか出来るはずもなく番宣にはこの状態で出演しました。どちらも二葉は二葉だしエルフの大魔導師さんも高ランク冒険者。下手に暴れるとテレビ局が危ないからね。仕方ないね。

 

 番組のプロデューサーさんには逆に面白いからという理由で笑われてしまったが。それ、俺に向かって言わないでほしいです。俺が面白いわけじゃないでしょ?ですよね?

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