奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百七十三話 ラーメン談義

『なるほど、シリーズの集大成である復讐者たちの新作には期待したいところですね』

『“ありがとう”』

『ところで皆様は昨年末、九州でボランティアとして活動されたとお伺いしているのですが』

『“キューシューは最高だったよ! 日本で一番おいしいものは博多ラーメンだね。キューシューでイッチに連れて行ってもらった博多ラーメンは今でも夢に出てくるんだ”』

『“おいおい初心者丸出しの発言は止めてくれよ。博多ラーメンはとんこつ。ラーメンのジャンルじゃないだろ? それと最高のラーメンは醤油ラーメンさ”』

『“ちょっと聞き捨てならないわね。塩ラーメンが基礎にして王道。本当に美味しいラーメン屋は塩ラーメンが美味しいものなのよ?”』

『あ、あの。皆さん落ち着いて』

『皆さん、味噌ラーメンを忘れてますよ』

『鈴木さんは煽らないで!?』

 

 これは某日に収録された生放送のバラエティー番組の一部始終である。なお、煽ってると言われて非常に心外だったのを追記しておく。美味しいラーメンの話をするならば一般的に認知されている種類のラーメンは候補に入れるべきだろう。

 

 最近レポート作成などでPC作業が増えたため、ブルーライトカットの伊達メガネをかけ始めた一花はその一部始終を眺めた後に、ちょっと知的なお姉さまっぽい仕草でクイクイと眼鏡をずり上げて感嘆のため息を吐く。

 

「ハリウッドスターって凄いね」

「……ああ、食欲が?」

「違うから。ほら、これってさ。別のコメンテーターが九州での事を質問しようとしてたから一気に別の話題に振り切った形じゃん。しかもこんだけ話題性のある内容でかき消しちゃってる」

「ツブヤイターだと復讐者たち~ラーメンウォー~がトレンドになってるからな」

「放送事故タグも並んでトレンド入りしてるけどね!」

 

 放送事故か。確かに1時間尺の番組で40分くらい好きなラーメンについて各自が語るのは放送事故と言ってもいいかもしれない。生放送だから司会の人にはかわいそうな事態になってしまった。

 

 まぁ、九州の話題を出してきたコメンテーターさんからはうっすらと作為的というか誘導しようという意識があったようには感じたから、わざとこの流れにしたんだろう。流石はイエロージャーナリズムの本場を生き抜くハリウッドスター、危機管理能力が高い。

 

「これ、お兄ちゃんへの援護射撃だからね?」

「あ、そうなんだ。いきなりラーメン談義が始まったからよっぽど博多ラーメンが気に入ったのかなって」

「うん、その理由でラーメン談義始めるのはお兄ちゃんくらいじゃないかなって。お礼言っといた方が良いと思うよ」

 

 そう口にしてソファーの上で大きく伸びをした後、一花は中断していたレポート作成のためにノートPCを置いてある机へ脚を向ける。

 

 お礼を言うのはやぶさかでないんだが、この収録が終わった後におすすめのラーメン店に連れて行かされた身としては半分くらいは本当にラーメンを気に入ったからじゃないかと思うんだけどな。それといくらなんでも生放送の8割をラーメン談義で終わらせる度胸は俺にはないぞ?

 

 

 

 ヤマギシ本社ビルのエレベーターは外の風景も見えるタイプのエレベーターだ。奥多摩町では最も高い建物なので非常に景色が良く、どんどん発展していく奥多摩の街並みが一望できると社員の間でも好評なのだが、俺個人としてはそれほど好きな乗り物ではない。

 

 というのも本社ビルで用がある場所は大体低層の冒険者部か開発部であるため、これに乗るときは大体社長室に呼び出されるときだからだ。

 

 上司に呼び出されるという社会人の9割が嫌がる呼び出しを、しかも出来る限り急いでと言われた時にはもう……断頭台への階段を自力で登るような気持ちというのはこういうものだろうか。

 

 覚悟を決めてエレベーターを降り、受付係の秘書さんに声をかけて社長室へ足を向ける。社長室には山岸社長と上質なスーツに身を包んだ二人の男性がソファに座っていた。商談中であるのか、ソファ前のテーブルには紙の書類が複数広げられている。

 

「お、来たな一郎。こっちに座ってくれ」

 

 満面の笑顔で手招きする社長の姿に嫌な予感を感じるも、言われるがままに社長の隣に座る形でソファに。商談相手であろう二人の男性は、こちらもまた満面の笑顔を浮かべて俺に視線を向けてくる。

 

 悪意は感じない。感じないのだが間違いなくこれから面倒ごとが起きる。最近、前にもまして冴えるようになった直感がそう俺のゴーストに囁いてくるが逃げるに逃げられない状況だ。

 

 そんな俺の内心を察したのか察していないのか。社長はポン、と俺の肩に手を置いて口を開く。

 

「一郎、こちらの方々はJRAという競馬を行っている団体の人たちでな。40層の牧場について前々から調査に協力をしてもらっていたんだ」

「初めまして鈴木さん。織田ともうします」

「木下です、動画や映画はいつも拝見させていただいております」

「あ、はい。鈴木です。ありがとうございます」

 

 非常に腰の低い態度で接してくる二人の男性に困惑しながらも挨拶を返すと、社長はうんうんと頷く。

 

「という訳で一郎。金は会社から出すから馬主になってくれんか?」

「あんたなんばいいよっと?」

 

 さも、さぁ全部解決だ、みたいな表情を浮かべてそう言った社長にここ1月で身についた博多弁で返答する。

 

 あの、俺これから世界中を番宣で巡る旅が始まる予定なんですがそれは。育成は牧場と厩舎でやるからたまに顔出すだけで良い? 芸能人は結構な人がやってるから? 社長も真一さんも恭二も馬主になるから一緒に?

 

 あ、恭二も巻き込んでくれるなら全然。恭二9割俺1割くらいの宣伝してくれるなら喜んでやりますよ。たまにはあいつにもスポット当てないといけませんから。会社のためにもあいつには頑張ってもらいましょう!

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