“今、到着ロビーに鈴木氏が現れました! 今、到着ロビーに鈴木氏が現れました!”
“傍らには鈴木二葉氏の姿もあります! 今、鈴木氏が米国から日本へ帰ってきました!”
“およそ60年ぶりに日本人が主要部門賞を獲りました! 鈴木一郎氏が今ファンに囲まれて空港から出ようとしています!”
“鈴木氏は妹の二葉氏と共に米国大統領からグリーンカードを手渡されており近く米国移住も視野に入れていると情報が入っております!”
どのチャンネルを点けても同じ内容のニュースばかりが流れている。
そこから目を逸らしてテーブルの上に広げられている各新聞に目を向ける。
“快挙! 鈴木一郎氏、アカデミー賞受賞!”
“日系差別!? アカデミー賞受賞者を受付担当に!!”
“主要部門総なめ! 鈴木一郎氏日本人初の快挙達成!”
“60年ぶり2度目の主要部門賞受賞 鈴木一郎氏凱旋帰国!!”
どの新聞も文面こそ違えど一面は同じだ。俺がアカデミー賞を受賞した、その経緯、そればかりが記事にされ書き連ねられている。
そのことを確認し、テーブルの上の新聞を片し、テレビの電源を切り――両手で顔を覆って項垂れる。
俺が渡米前に狙っていたのは二葉がグリーンカードを貰う=米国において人権を持つ存在であるという事を世間に知らしめる事だった。これは当初は結構大きな扱いだった筈だ。けれど帰国する前に起きたデカいニュースのせいでそれが一気に風化して過去の事となってしまった。
外ならぬ俺自身の行いによって。
「どないせいっちゅうねん」
「いやぁ、あれはどうしようもないと思うよ? 二葉の立場は早く安定させる必要あったしね! 最低限の目的は達成できたんだから切り替えてこうよ」
俺の嘆きの声に一花がカタカタとキーボードを叩きながら答える。一花はここ最近、ずっとPCに向かっている。一花がここまで苦労するなんて、やっぱりT大って難しいんだな。
「いや、難しいというかなんなら私や姫子が教える立場なんだけどね」
「……なんで?」
言っている意味がよく分からず聞き返すと、一花は口をアヒルのように尖らせて延々キーボードを叩いていたノートPCの画面をこちらに向ける。ええと、どれどれ……………………
変身、御坂美琴!
PC画面に並ぶ難しい単語の列を一瞥した後、即座に変身を使う。多分これが一番早いと思います(TAS並感)
『…………ちょっと?』
変わった瞬間、ギロリと美琴の視線が向いた気がする。すまん、難しい言葉が多くてつい。
「お兄ちゃん…………」
妹の呆れたような声が耳に痛い。しょ、しょうがないねん。俺高卒だから……
「お兄ちゃんのそれは自分で考えようとしてないだけでしょ。これ、ちゃんと理解しようとしたら絶対に分かるはずだもん」
『……はぁ。一花、ちょっと見せてもらうわよ』
ぶちぶちとぶー垂れる一花の隣で美琴がノートPCに視線を向け、キーボードの上に手をのせる。そのまま数秒ほど画面を見つめた後、美琴はふーん、と感心したように呟いて一花に視線を向ける。
『今時の大学教授って魔法使える人いるんだ?』
「結構な割合でね! なんなら学生も多いよ!」
『それとT大の1年って基礎的な学習じゃなかったっけ。このレポート、教育学部の名前で纏められてるみたいだけど』
「普通はそうなんだけど、私と姫子が特別。色んな先生から質問攻めにあってるからまとめてんの」
一花の返答にうんうんと頷いて、美琴はノートPCから手を離した。
『これ、今までに一花が習得した魔法についての詳細ね。例としてどういった状況で使用したらどういう効果が起きたか、範囲について、覚える際の注意からなにから書かれてる』
「そ。教育学部の教授から専門学部に上がる前に魔法についてを纏めてくれってお願いされてんの。レポート用の書き方にしてるからやたらと面倒なんだ」
『今年は教養学部なのに?』
「入学した瞬間から拝み倒されたらね。どっちにしろ来年からやることになりそうだし、余裕のある今の内に纏めてるの」
一花はそう言って美琴からノートPCを受け取ると、再びキーボードをカタカタと叩き始める。
「一花は魔導書を作っているのか?」
「ファンタジー用語が飛んできたなぁ! 魔導書っていうのがどういうのか分かんないけど、魔法を扱うための書籍って意味ならまぁ、正しいかな!」
それまで会話に入ってこなかった二葉の言葉に一花がそう答える。ああ、なるほど。一花は今、魔法の教科書を作っているのか。
あれ、でも冒険者教育の際にどういう魔法を覚えるか、とかダンジョン内で戦闘を行う際の注意なんかの教科書的なのはあったはずだけど。冒険者専門学校で見た覚えがあるぞ?
「各団体でダンジョンに潜る際のレジュメみたいなのは作ってるみたいだね。なんならヤマギシでも社員用の手引き書があるし。でもそれってあくまでもダンジョン攻略のためのものだからね。ちゃんと魔法について細かく説明してるものなんてアガーテさんみたいな人が趣味で纏めてるくらいなんだよ」
『アガーテさんのは趣味を超えてると思うけどね』
「これ纏めるとき、私もアガーテさんの研究資料は参考にさせてもらったよ! お兄ちゃんが関わるとアレだけど、やっぱ男社会の理系畑で研究員やってるだけはあるよね。あの人」
俺が関わるとアレと言うのは止めて差し上げろ。義手とか色々助けてもらってるからさ……確かに行動と言動はアレだけど。
いや、行動と言動がアレだともう全部アレって事では…………この件はこれ以上考えない方が良さそうだな(保身)