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帰国した次の日、シャーリーさんから連絡を受けた。
広報部へ来てほしいとの事だったので1時間ほど躊躇したが、頼みごともあったので覚悟を決めて二葉を連れてエレベーターに乗り込む。
「一郎、今日はどこへ行くのだ。長殿に会いに行くのか?」
「長じゃなくて社長な。これから行く先は……凄い所だよ」
二葉の言葉に精一杯オブラートをぐるぐる巻きにした言葉で返事をしていると、ピンポンと到着音がエレベーター内に響く。ああ、着いたか。今日は教育に悪くない状況だと良いんだが。
最近、撮影現場で見て覚えた十字を切るポーズで祈りを捧げてからエレベーターを出ると、まず最初に目に入ったのは通路の両端に山積みにされた段ボールの山と死んだ目でそれらを乗せたり開けたりしている広報部員の姿だった。
一歩前に出した足を引っ込めてエレベーターに戻る。
「……どうした一郎。目的の場所を間違えていたのか?」
「ん~~~~~ちょっと待ってくれ」
二葉の言葉に唸り声を上げながらそう応える。思わず一歩後ずさってしまったが、目的の階層に着いたなら降りなければいけない。あまり長くエレベーターを占有するのも迷惑になるしここで降りない理由はないんだが心の中のスパイダーマンが『ゴーバック!』と叫んでるせいで前に進むことが出来ないのだ。
そう無理やり理由をつけようとしたら内部のピーターから『言ってないから早くいけ』と言われたので仕方なく足を前に進める。
エレベーターを降りた後、改めてよく見るとひどい有様だった。元々は綺麗に磨き上げられた廊下は所狭しと積み上げられた段ボールや花束といった荷物で埋められており、かろうじて人がすれ違って歩けるくらいの幅だけが何とか確保されている。
チラリと荷物に目をやると、目に入るすべての荷物の宛先がヤマギシ様もしくは鈴木一郎様となっている。思わずおうふ、と声を漏らすと、目の前で死んだ目で作業をしていた広報部員がギュインッと首を回転させてこちらに視線を向ける。目が血走っていて少し怖い。
「一郎氏が来ましたぞぉぉぉぉぉ!」
「なにぃ!?」
「キマシタワーッ!」
広報部員がそう叫ぶと連鎖するように一斉に広報部員たちがギュインッと首を回転させ首から上だけをこちらに向けて叫び声を上げ始めた。その光景に隣を歩く二葉の肩が二段階くらいグンッグンッという感じに跳ね上がる。
気持ちはわかるわ。気持ち悪いよな。
「一郎さんへの贈り物が、捌ききれないくらいに送られてきてるんですよ」
シャーリーさんは気疲れしているのか、少し表情を曇らせたままそう口にした。
「今回の受賞を機に、これまでとはまた違うファン層が生まれました。ネットやダンジョンに興味はなかったけどニュースは見るという層が、報道を見て一郎さんに興味を持ちそのままファンに、という流れや、大きな賞を取りましたのでミーハーな映画好きの層が熱を上げているようですね」
「なるほど……それでこの大騒ぎに?」
「日本だけならもっと楽だったでしょうね。今回は、直前の騒動も含めて世界中から注目を集めていたので」
原潜の爆発にスタンさんのブチギレ生放送と事前に注目度が上がっていた上でのアカデミー賞受賞という流れが悪かったらしい。マイナスな要因で注目度が上がっていたところにそれ以上の栄誉を受けて報われる。ストレスを溜めた上でのカタルシスは映画にもよくある手法だが、よくあるという事は効果的ということだ。
今回の騒動はたった数か月の間に起こった。原潜事故から始まりそれに対するための国の取り組みによる抑圧。俺を助ける外国からの手助けに、特大の栄誉。2時間映画にでもなりそうなこの流れに、数多の人々が心を打たれたのだという。
そして、それ自体はシャーリーさんたち広報部にとっては問題ない。俺としては大問題だが、シャーリーさんや広報部にとって自社で扱うタレントの人気が上がるという事は利益に直結するからだ。
だが何事にも例外は存在する。廊下を埋め尽くす荷物は明らかに広報部が処理できる能力を超えてしまったのだろう。
「あ、いえ。荷物に関しては嬉しい悲鳴なんですがね。都内の倉庫に分散して保管していますし、問題と言えば奥多摩地域の物流に少しダメージを与えてしまってるくらいで」
「物流にダメージを与える贈り物ってなんなんですか?(素朴な疑問)」
「あまり交通の便が良いとは言えない地域ですからね。天空奥多摩道路もまだまだ完成には程遠いですし」
天空奥多摩道路とは、現場犬さんたちが今も鋭意建築中の都心から直接奥多摩までを繋げている東京タワー並みの高さを誇る巨大な道路の正式名称だ。本当にそれでいいのかと問いたくなるが国会で審議されて可決された以上は一国民として文句を言う事も出来ない。
仮にあれが完成していれば今回の問題も大分緩和されていた……のだろうか。一地域の物流に影響を与えるレベルのプレゼント攻勢とか聞いたことがないからそれで解決するのか判断できんぞ。
「あの。ところで、そんなに困っていないなら俺、なんで呼ばれたんですか? 流石にこの荷物を全部受け取れって言われても困るんですが」
「流石に今送られてる荷物全部を一郎さんに渡す事は難しいですね」
「ですよねぇ。いくら俺宛とはいえ、流石に」
「なので、開封だけをお願いしようかと思いまして」
「…………………………はい?」
俺の言葉にうんうんと頷いたあと、シャーリーさんは笑顔でそう用件を口にした。
ヤマギシが借り受けたバカでかい倉庫の中。カメラに向かってVサインを見せながら口を開く。
「という訳でプレゼントの開封配信はっじまっるよー(半ギレ)」
「わー!」
「どんどんぱふぱふー!」
俺の言葉にカメラとマイクを持った広報部の撮影担当がわざとらしい歓声をあげる。あのカメラの向こうにはもうすでに何億人かの視聴者が居るらしい。
「はいじゃあまずはこれから。ニューギニアの方からのプレゼントですね。名前はコンプライアンスの問題で言いませんので悪しからず」
「イッチさん、時間が押してるので巻いてください」
「始まったばかりなんですが???」
「この規模の倉庫が後5個あるんで」
「いつくらいに終わりそうですかねぇ(震え声)」
「大丈夫です、1週間は予定空けてますんで!」
そういうこっちゃねぇんだよ。そう口にしながら最初の箱を開けると、中からは香ばしいにおいを発する果物だったものが姿を現した。お、生ものはやめろや。
無言でそれをビニール袋に包み、配信しているカメラに目線を向けて次の箱を開く。恐らくカメラの向こうは何が起きてるんだと困惑してるんだろうな。
ただひたすらに箱を開け、移動してはまた箱を開けるだけの配信は予定ギリギリの1週間続き、この配信はここ最近でもトップクラスの再生数になり全部通しで見るイッチチャレンジなるものがSNSや他の配信者たちで流行ったらしいが冒険者以外は誰も達成できなかったらしい。
そりゃそうだろう、俺は疲れたら他のキャラにバトンタッチしてその間に眠るって手段が取れるがぶっ通し1週間寝ずに作業なんて特殊な訓練を受けてなければ普通は不可能だろう。冒険者で達成できたのは回復魔法でごり押しした奴くらいらしいし、魔法抜きだと例外枠のシャーリーさんくらいしか出来ないんじゃないだろうか。
シャーリーさんは素で最近寝てないって言ってたしその割につかれた様子もないしブラック企業垂涎の人材になり始めてるし。
どうなってるんだろうね、冒険者の人体。
ちょっと加筆修正しました