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九州から恭二が返ってきた。
「返品できねぇかな」
「ここ俺の実家だからな???」
出迎えた瞬間そう呟くとピキピキと青筋を立てながら恭二がそう返事を返してくる。うんうん、これがヤマギシの日常だよな。最近、慣れないことばかりが続いてストレスが溜まってたし日常が戻ってくるのは大歓迎だ。
「今日はどうする? ダンジョンにする? ダンジョンにする? それともダンジョン?」
「お、おう……どした一郎、話聞こか?」
普段とは逆の構図になっているからか恭二が少し引き気味にそう尋ねてくる。俺としては折角の出張帰りなのだからと気を使っているつもりなんだが。
さて、ダンジョンである。
現状ダンジョンの攻略はは41層で足踏み状態が続いている。というのもボスは倒せてもその先である海底トンネルを抜けられないためだ。
というか抜けるだけならまぁなんとかなるんだろうけど、これまでの傾向から考えると42層は水中から始まりそうってのがネックなんだよね。この階層に出てきたモンスターも浅瀬だから対応できていたってのはあるし。水中であの魚たちと戦うのは正直厳しいだろう。
「お前は無敵のバイオライダーでなんとかなるんじゃないか?」
「さすがにあそこまでの無茶苦茶は再現できんぞ」
「バイオライダーってそんなに強いの?」
「多分公式ライダーの中でもトップのチートじゃないかな!」
沙織ちゃんの質問に一花がそう答える。実際、どこまでできるかは分からんが流石にバイオライダー再現はちょっと難しいかなって。あれが再現できればスライムとかのアメーバ状の生命体にも変身出来るんだろうか。
そういえば去年くらいにスライム主人公のアニメとかがあったな。バイオライダーの練習がてらちょっと手を出してみるか?
『イチローならなんとかなりそうだな』
「いやぁ。割と無理って感じるのは本当に出来ないんだよなぁ」
海辺に向かって釣竿を振るっている元米兵のマニーさんがそう言ってくれるが、流石に全身を液体に変えるなんてイメージ出来たら完全に人間辞めてると思うんだ。
ちなみにマニーさんの他にも41層では地質調査的な意味合いでヤマギシの冒険者が10名前後でチームを組んで滞在しており、それぞれが貝や海藻、砂浜の砂などを採取しては40層の物資拠点に運び込んでいる。流石に魔樹ほどのスマッシュヒットはまだ発見できていないが、この階層で取れる貝や小魚はちょっと面白い特徴があるらしい。
「それで、なんか突破口とかは考えられたのか? ヤマギシ冒険者部の部長さんは」
「まぁな。九州で素潜りの練習はしてきたし」
「お前何やってたの?(素朴な疑問)」
俺の言葉に恭二は肩をすくめて返事を返すと、いつもの装備を身に着けたまま海へと足を向ける。
「そのまま入るのか?」
「いや、新魔法を開発したからこれを使う。今回はこれがダンジョンでも使えるかの確認だな」
そう言って恭二が呪文を唱えると、恭二の周囲を水の膜……いや、これは泡だろうか。大きな泡が恭二を包み込むように現れた。
『この泡は水の中でも崩れないから、このまま海の中にも入れるんだ』
「ワンピースの魚人島でこんなのあったね!」
『流石に船ごとは難しいかなぁ』
そう言いながら、恭二は海の中に足を踏み入れる。泡は海の中に入っても不自然に浮かび上がるようなこともなく、恭二の歩調に合わせて動いている。問題なく魔法が機能しているのだろう。
「今回は俺と恭二だけってのはコレが理由か?」
『おん。沙織ももう使えるけど、この魔法使っての海戦はまだだからな。なにかあったらお前に引っ張ってもらって脱出するから、俺一人が良いだろ』
「複数人庇うのはちょっとキツいわな。了解」
『まぁ、多分戦闘にも耐えられると思うけどな。あくまでも空気の泡みたいな見た目ってだけで突っつかれたところですぐ元の形に戻る。もちろんバリアみたいに敵の攻撃を防ぐ、みたいなことは出来んが』
「そこはバリアを掛けとけって事だね! 恭二兄もお兄ちゃんもあんまり無理しちゃだめだよ!」
一花の声援を背に変身。今回は水中戦が起こるのを想定して仮面ライダーXだ。
米軍から借りてきた水中ドローンとソナーで事前にある程度の地形は把握しているが、モンスターの存在が邪魔をして次の階層への出入り口はまだ確認できていない。これを確認しに行くのが今回のダンジョンアタックの目的だ。
ボスは先に間引いてあるから障害となるのは通常のモンスターだけだし、新魔法のならし運転がてらなのであまり無理をする気はないが、ならしである以上1回か2回モンスターと戦う必要はあるだろうな。
散発的に襲い掛かってくる魚モンスターの群れをライドルと槍で蹴散らし、大穴をどんどん下へと潜っていく。新魔法のエアーバブルは泡の中に居るという見た目とは裏腹に、かなり自在に水中を動き回れており中々使えそうだ。場所が水中だということもあって意思疎通のためには相手の泡に頭を突っ込まないといけないのが難点だろうか。この辺は海中でも使える無線とかそういうのが必要になるかもしれないな。
体感では200~300mほど降りてきた辺りだろうか。この深さまでくると地上の明かりも届かなくなってくる。恭二がライトを複数発動させて周りを照らすと、大穴の壁面は徐々にサンゴ礁のような凸凹としたものからのっぺりとした岩盤のようなものへと姿を変えているようだ。
念のために幾らか壁面を採取しておき、更に下へ下へと潜ると大穴の底へとたどり着くことが出来た。
驚いたことに大穴の底には明らかに人工物であろう階段があり、おそらくこれを降りていけば次の階層に行ける。
「どうする部長。一花たちと合流するか?」
「うーん」
恭二の泡に頭を突っ込み、どうするかを確認すると恭二は唸りながら頭をかく。
「ちょっと予想と違ったから、次の階層に頭だけ突っ込んでみたいな」
「お前の予想ではどうなってたんだ?」
「海底洞窟かなって思ってたんだけどな。それだと完全に潜水装備を用意しないといけないけど、この様子だとほら。空気がある可能性出てきたじゃん」
明らかな人工物の出入り口だから、恭二がそう感じるのも分からないでもない。
「ならセーフゾーンからは出ない、あくまでも見るだけって事で」
「おけまる」
互いに条件を確認しあい、右拳と左拳をぶつけあって恭二の泡から頭を出す。であれば先行するのは身軽に動ける俺であるべきだろう。
階段に足をつけて少しずつ慎重に、一段ずつ階段を下りていく。ライトが照らすセーフゾーンの壁は、所々が藻であったりで覆われているが明らかに人の手が入ったツルっとした質感のものだった。コンクリートではない。これも少し採取しておくか。
大体50段ほど階段を下りただろうか。平坦な道に出たのでそこを真っすぐ歩いていくと、今度は上り階段が姿を現した。階段の先にはライトのものとは違う、淡い光が見える。
恐らくあれが42層の入り口だ。
後ろに続く恭二と目くばせをして、俺たちは警戒しながらその光へと向かって階段を上っていった。