奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百八十五話 訴訟も辞さない

「これをどれだけ用意できる? できればトン単位で採取してほしい」

「いや、これ取るだけでもめちゃめちゃ大変だったんですが」

「……いやだいいやだい! これもっと欲しいんだい!!」

 

 腕を組んでテーブルに肘をつく。所謂ゲンドウポーズでそう言った開発部主任の無茶ぶりにそう返答すると、先輩は駄々っ子のようにテーブルを叩き始める。普段から結構エキセントリックな人だが、ここまで常軌を逸した姿は初めて見た……あ、いや。恭二がフロートを開発した時もこんな感じだったかもしれん。

 

「先輩、気持ちは分かりますが落ち着いてください」

 

 そんな先輩の行動を見かねてか。真一さんがそう声をかけると、流石に正気を取り戻したのか先輩がピタリ、と動きを止め――

 

「いやぁ、さっきからずっと水晶に頬ずりしてる山岸くんには言われたくないな」

「……いえ、これは感触を確かめているだけでして」

 

 先輩のもっともな言い分に真一さんはあまりにも苦しい言い訳を口にして目を逸らした。

 

「……真一さんも先輩もさ。もうちょっと落ち着こうよ?」

「う、まぁ……すまんな。つい」

「悪かったよ……でもさぁ一花ちゃん、これ本当に凄いんだぜ?」

「凄いのは分かるよ? 世界中で魔法使いが増えてるから、素材そのものが対魔法使いみたいなこの水晶はいくらでも使い道があるもんね」

「そうそう! パッと見ただけでも防弾チョッキの素材に組み込むとか魔法使い用の刑務所の建材にするとか用途が湧いてくるからね! もちろん加工できるかどうかの検証が必要だから今ある素材じゃ全然足りないしそれにこれ下手な鋼材よりも頑丈だよね重さは同サイズの岩石よりちょっと軽そうだけど構造はどうなってるのかも確認しないとああいやまずは」

「言った傍から暴走しちゃダメでしょ。用途が多そうなのは分かったけど、数が用意できるかも現状怪しいって理解してる? お兄ちゃんのレールガンをぶつけてそのくらいの欠片しか取れないくらい頑丈なものだし、そもそも42層まで取りに行ける人がほとんどいないんだから。今のままだと量を用意できないよ?」

「……ああ!?」

 

 一花の言葉に先輩は今気づいた、とばかりに悲鳴のような声を上げた。最初から何度も数を用意できないって伝えてたんだが……?

 

「先輩は、その。思い込みが激しい時があってだな。その熱意が様々な開発に役立ってはいるんだが」

「ああ、うん……まぁ、そういう事にしとこうか」

 

 フォローするようにそう口にする真一さんに、恭二がなにか言いたそうにしながらも色々と呑み込んだ表情を浮かべる。

 

「とはいえ、先輩が言うようにこいつがとんでもない位に需要があるのは間違いないぞ」

「世界中のVIPが欲しがるだろうね! 今の世界で一番危ないのって、身一つでどこでもテロれる魔法使いだからさ」

「……ニューヨークは酷かったな」

 

 一花の言葉に、偶然巻き込まれたニューヨークでの魔法テロ事件を思い返す。自国内の冒険者をある程度管理している米国でもああいうテロが起きたのだ。冒険者協会が管理していない国のダンジョンで魔力を持ち、魔法を使えるようになった、例えば隣の華国の連中みたいな者たちは、きっと他にもいるだろう。

 

 そういった連中が力を手に入れたら何を起こすかというのは分かり切った事だし、そいつらに狙われるような身分の人間は、自分の身の安全を保障するものには決して金を惜しまない。便宜上対魔水晶と名付けるが、この対魔水晶の存在を知ったら世界中の要人からヤマギシへの問い合わせが行われるだろう。

 

「私ならアンチマジックで代用できるって思うけどね、服とかに付与したりとか」

「現役の冒険者ならそうだね! けど魔力は持っててもアンチマジックが使えないって人もいるし、特にセレブな方々は魔力持ちってだけの場合が多いんだ! これを欲しがる人、結構居ると思うよ?」

 

 沙織ちゃんの質問に一花がそう答える。セレブな方々はアンチエイジング目的で魔石を買って魔力を持つって人が多いから、魔法を使えない人も結構居る。まぁ本当の金持ちは魔法使いになるんじゃなく魔法を使える人を雇うって方が多い。金持ちだからな。

 

 ブラス家みたいに一家全員が魔法使いなんてセレブの方が珍しいんだ。あ、あとは復讐者の俳優陣もか。

 

「まぁ、欲しがる人が多かろうと流石に今回は無茶できん。地続きで伐採できる魔樹はともかく、この水晶は海底トンネルを抜けた先だ。そこに至れる冒険者なんてそれこそ片手の指で数えられるくらいだろう」

「そもそも潜水用の魔法が使える人が恭二兄とさお姉しかいないしね! お兄ちゃんは除く」

「一花も使えないのか?」

「んー、練習中! アンチマジックやバリアよりもイメージが難しいかな」

 

 流石に時間がなさ過ぎたのか一花はまだエアーバブルを覚えていないらしい。一花が覚えてしまえばあっという間に使える人間は増えると思うんだが、そううまくもいかないか。

 

「お兄ちゃんは私をなんだと思ってるのかな?」

「え、マスター」

「訴訟も辞さない」

 

 率直な意見って奴を述べると一花は能面のような表情を浮かべてこちらを見た。だが多分他の人もそういう感想をお前に浮かべていると思うから、この評価は残念でもなければ当然というべきじゃないかな。

 

「一先ずはヤマギシ社員で41層に入れる人間に、エアーバブルの魔法を覚えてもらおう。なにはともあれ42層に入れる人間を増やさないことには先に進めないしな」

 

 真一さんが纏めるようにそう告げて、今回の報告会は終了となった。これから関係各所に42層に足を踏み込んだ事と対魔水晶の事を伝えることになるんだろうが……冒険者協会との窓口になっている広報部は想像したくもない騒ぎになるだろうな。君子危うきに近寄らず。しばらく広報部には近づかないようにしとこう。

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