奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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遅れて申し訳ありません!

誤字修正、げんまいちゃーはん様ありがとうございました!


第三百八十六話 対魔水晶騒動

 俺たちが42層から戻って二日後。

 

 ヤマギシの会議室で行われた緊急役員会議は、まず広報部と営業部の悲鳴じみたHELP要請から始まった。

 

「各国にある冒険者協会から毎分対魔水晶の催促が入ってきます。同じことを延々とこの二日間繰り返している状態です。最近では何を支払えば手に入るのか、グラム単位での取引で良いからなんとかならないかと、なんとしても対魔水晶を入手しようとあの手この手で粘られていて他の業務に支障が出ている状況でして」

「営業部はもっと酷いですよ。付き合いのある会社だけじゃなくそこと繋がりのある所からも対魔水晶を仕入れたいと問い合わせが相次いでまして。24時間電話が鳴りっぱなしで営業部は完全にマヒしてます。私も付き合いがある人達から懇願されてるのですが、ちょっとこの勢いは異常ですねぇ」

 

 広報部も営業部も他社との繋がりが強い部署であり、だからこそ今回の対魔水晶騒動とでも呼ぶべき事態で機能不全を起こすレベルで影響されてしまったわけだ。普段は疲れなんて単語は知らない、とばかりに何時だって溌剌としているシャーリーさんも気疲れからか表情が暗いし、営業部の下原部長なんかやつれてしまっている。

 

 沙織ちゃんからお父さんが帰ってこないと聞いてるから、これは二人とも会社に缶詰状態になってるのかもしれない……シャーリーさんはいつもそうだった気がしないでもないが。いやよそう俺の勝手な(ry

 

「恭二。この素材を多くとってくるのはお前と一郎でも出来ないんだな?」

「前に潜ったときは10数分しか試せなかったから絶対にとは言えない。ただ、俺と一郎だけだと試せる手段と手数が足りない」

「そもそもほとんど情報がない42層に二人だけで行かせるのが論外だろ」

「だよなぁ……俺の方にもお偉いさんからの連絡が来てんだが、どうしたもんか」

 

 シャーリーさんたちの言葉を聞いて社長が恭二にそう尋ねるが、恭二と真一さんの返答にため息をついてぼやいた。対魔水晶に対する反応は、予想を圧倒的に上回るものだった。ヤマギシや冒険者協会だけでなく、少しでも関連がありそうな魔法関連の組織にも問い合わせが殺到しているらしく、それらの組織の業務が滞りSNS等でも話題になり始めているそうだ。

 

 ダンジョン関連で大きな混乱が起きることは今までにもあったが、瞬間最大風速は今回が一番じゃないだろうか。それこそ最初期のダンジョンが出現した瞬間よりも大きな反応なんだがそこまでこの対魔水晶が欲しいんだろうか。

 

「多分それはダンジョンや魔法に対する理解度が上がったからだと思うよ! 最初の頃は海のものとも山のものとも分からなくて半信半疑だったから大きなうねりにならなかっただけじゃないかな!」

「てことは今回は、皆が魔法について知ってるから混乱してるって事か?」

「そうだね! ニューヨークの事もだけど、手ぶらでそこらを歩いている人がいきなり炎の爆弾を投げつけてくるかもしれないってもう知っちゃってるからね! 怖いんだよ、皆。人を殺すのに武器が必要なくなったから」

「だからこそ魔法の教育を受けた人間を把握するために冒険者協会も色々と動いているんですがね。ですが、それは民衆にとっては関係がない。自分以外の誰かがいつテロリストになっていきなり火の玉を投げ付けてくるかもしれないというのは、かなりの恐怖ですね」

 

 一花の言葉に頷いて、シャーリーさんがそう口にする。結局のところ、冒険者以外には魔法はどうしようもない。こういった認識が今、魔力を持たない人々にあるのが問題なのだ。それ故にこのタイミングで見つかった対魔水晶が大きな混乱を起こしてしまった。

 

 これを身に着けていれば魔法使いによるテロに会っても命が助かるかもしれないとなれば、必死になる人が多くなるのは仕方がないことだろう。

 

 そしてそれらを踏まえたうえで俺たちヤマギシが出来ることは――実を言うとそれほどない。

 

「前提として対魔水晶を多くとるってのは難しいよね。42層へ入れる人材がさお姉含めて3人でしょ? 恭二兄が居るから物の持ち運びはなんとかなるかもだけど、たった3人で採掘したってたかが知れてるよ」

「だが、対魔水晶を入手できるのは現状ヤマギシしかいない。なにかしらの手を打たないと面倒なことになるんじゃないか?」

「そうだね。だからその辺はもう正直に公表しちゃおう! お兄ちゃんと恭二兄二人掛かりでようやく手に入れたのがこれだけって希少性と入手難易度を前面に押し出してけば、簡単に手に入らない物だって事を周知できるでしょ?」

「だが、それで騒いでいる連中が納得するとは思えんが」

「なにしたって納得なんて引き出せないと思うよ。この状況だと!」

 

 真一さんが懸念点を口にするも、一花はそれをバッサリと切り捨てた。

 

「どうやっても出来ないことは出来ないんだから、段取りを決めないと! 対魔水晶の量を確保する、は人数的に難しい。効率的な採取方法も検討しないといけないからね! だから、これは当然後回し。ゴーレムのインゴットや魔樹の時と同じで、ヤマギシがやるべきなのは対魔水晶を効率的に採取する方法を構築すること! これが最優先でしょ?」

「対魔水晶の確保は体制が確立した後、か。それを公表するなら無理押しも今ほどじゃなくなるか」

「イグザクトリー! まぁ、幾つか急場しのぎのアイデアはあるけど、一先ずはさ」

 

 一花の言葉に理解を示した社長に、一花が笑顔を浮かべて。

 

「そんなに欲しいなら自分たちで取りに来い――って言っちゃおうよ!」

 

 ピンッと指を一本立てて、満面の笑顔でそう言い放った。

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