誤字修正、244様ありがとうございます!
死屍累々
この光景に当てはまる言葉を幾つか思い浮かべて、最終的にチョイスした四字熟語はこれである。
『やぁ弟』
「俺は貴方の弟じゃありませんが」
『盾の魔法があるから思い切りやっちゃったけど、こんな感じで良いかな?』
訓練用のロングソードを肩に担いで、エルフの戦士長が屈託のない笑顔でそう尋ねてくる。彼の言葉を受けて視線を巡らせ、思い思いの姿勢でぶっ倒れている訓練生を見る。盾の魔法というのはバリアの事だ。
――うん、血が出てないな。ヨシッ!
「この調子でお願いします」
『了解! いやぁ、最近は暇だったからねぇ。腕が鳴るよ』
親指を立ててグッド、と伝えると戦士長のお兄さんは親指を立てて了承してくれた。この人、どんどん俺たちの文化に染まってるな。下手をすると頻繁に外出してる二葉より染まるのが早いかもしれない。
俺たちの会話を恨めし気に見る視線を数多感じるが、これも必要経費という奴だから仕方ない。正直な話、戦士長とタイマンでそこそこ戦えるレベルにまで来てもらわないと40層攻略なんてまず出来ないので、ここでしっかりレベルアップしてもらわないといけないのだ。彼ら彼女らの命のためにも。
まぁ、他のダンジョン40層を攻略した際は初見ほどの危機感は感じなかったそうだし、きっちりここで訓練を積めばそう遠くない未来に戦士長チャレンジを突破できるだろう。他のダンジョンで戦ったエルフたちの影は本来の姿とは違ってそこまで戦術的な動きしてこないそうだからな。
室内に入った瞬間に二葉の影に多重で魔法を打ち込み、現れた残りのエルフたちにも遠距離爆殺を行えば戦士長以外は何とかなるので難易度は大分下がるらしい。
ただ戦士長の影は遠距離魔法とかは切り捨てちゃう系のエネミーなので、彼が接近してきてもなんとか出来るレベルの近接戦闘技術が必要になるし、仮にそれが出来ないなら彼から距離を取る手法を用意しなければいけない。
ヤマギシチーム以外だと直江津ダンジョンの上杉さんや黒尾ダンジョンの水無瀬妹、それに何故か夕張ダンジョンのネズ吉さんが初見突破してたけど彼らはまぁ、相性が良かったと言うべきだろう。
じゃあそんな戦闘技術がない人たちはどうすれば良いかというと、だからこそここでの訓練が必要になるのだ。戦士長の訓練所では近接戦闘の技術をスキルとして“有料”で教えてくれるため、強敵との戦闘経験も積めてかつ、お金さえ払えば有用なスキルという“後付けの魔法のような技術”を手に入れることも出来る。
つまりここは手っ取り早く力を得るのに最高の場所だったりするのだ。
「でも、お高いんでしょう?」
『そこはご安心ください。今ならなんと難度1のスキルならなんと銀貨20枚! パリィやバッシュといった基礎技術は銀貨20枚で身に着けられます!』
「高いか低いか分からない!」
難度1というのはこの訓練所で取得できる一番簡単に取得できるスキルの事を指し、現状だと難度5までのスキルをこの訓練所で取得することは出来る。成功率はその人が今までに得てきた経験で変わるらしく、剣技を修めている人は剣を使ったスキルが、小盾を普段から扱っていれば小盾を使ったスキルの成功率が上がるらしい。言ってみれば熟練度のようなものだな。
まぁ銀貨20枚払っても確実に技術が入手できるわけじゃないというのはネックだが、ここにきている人たちはここに至るまでの下積みをしっかりと積んでいる努力家ばかり。難度1のスキルは40層に来れる冒険者ならよほど近接技術が苦手とかでもなければほぼ確実に取得できるそうなので、彼らの戦力アップのためならば、と各国も貯めていた硬貨を快く放出してくれている。
ちなみに硬貨の価値がどれくらいかというと、例としてゴブリンの短剣を雑貨屋に売ったら大体銅貨12~3枚になり、また銀貨1枚は銅貨100枚と同価値になるためゴブリンの短剣200本くらい売ればスキルは手に入るという訳だ。ちなみに40層にある牧場に馬や牛などを預けた時にかかる1月の養育費は銅貨3枚である。
「馬や牛ってめちゃめちゃ食べるのにそれの数十倍も高いんだな」
『そりゃそうだよ。本来なら何年も修行して手に入れる技術をすぐ覚えられるんだよ? 技術や知識ってのは本来、値千金の価値を持つものなんだ。命もかかってるしね』
『そうですね。決して高いとは思いません』
戦士長の言葉を、よろよろと起き上がってオリバーさん……イギリスのトップ冒険者が肯定する。他の人より数段酷い可愛がりを受けていたのにもう立ち上がれるとは、結構なタフさだ。
いや、オリバーさんは元々魔樹の伐採を行えるレベルの冒険者だしそれほど驚くようなことでもないか。少なくとも訓練所の隅で壁に背を預けて真っ白に燃え尽きているフランスのファビアンさんに比べたら数段実力が上なのは間違いないだろう。
『ファビアンは最近、冒険者協会絡みの仕事が多くてダンジョンに潜れてないから……』
『それは言い訳にならないだろう。間違いなくファビアンより多忙なイッチが未だに魔力量ランキングで2位につけているのだから』
『イッチとミスターキョージとマスターを比較対象にするべきではないでしょう。それは太陽が東から昇って西に沈むくらい当たり前のことでは?』
『それもそうだな、すまない』
同じフランス代表であるカミーユさんがフォローするようにそう口にするが、ロシア代表のセルゲイさんがそう言って首を横に振る。先ほどは自信なさげにしていたオリーヴィアさんも立ち上がって会話に混ざってきたし、やっぱり各国の代表クラスは早期に回復して立ち上がってくるな。彼らはヤマギシチームを除けばほぼ最古参の冒険者だし、実力が高いのは当たり前だろう。
『この感じなら、彼らは早いうちに先に進めそうだね?』
「そうなってくれると嬉しいですねぇ」
にこやかな笑顔を浮かべてそう口にする戦士長に、本音でそう答えを返すと彼はケラケラと笑って肩に担いだロングソードを下ろす。
『準備が出来た人からいつでも良いよ? 教導するときの僕は疲れないみたいだからね』
『では、最初は俺が。胸をお借りします』
その言葉を言い切る前に戦士長のロングソードがオリバーさんを襲い、それにオリバーさんが剣を合わせる。金属音が鳴り響く瞬間に周囲の人々が“倒れていた人も含めて”二人から距離を取った。
うん。流石はトップ層というべきか、限界まで扱かれた後でも命の危機に体を動かす事が出来ている。これなら本当に予測より早くこっちの教導が終わるかもしれない。彼らより先に恭二たちが魔道具開発を終わらせるのが一番良いのだが、これは訓練が先に終わる可能性も考えておかないといけないかな?