奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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早めの投稿。来週もよろしくお願いします

誤字修正、スモークサーモン様、244様ありがとうございます!


第三百八十九話 アンチマジック発生装置

「ねんがんの アンチマジックはっせいそうちが かんせいしたぞ!」

「ニア ころしてでもうばいとる」

「それほかにも選択肢あったよね???」

 

 リメイク版のミンサガではこのセリフ改定されてるんだっけな。

 

 冗談はさておき、イチカズ・ブートキャンプが始まってから早1週間。戦士長チャレンジもぼちぼち合格者が出始めた辺りで待望の報告が入ってきた。

 

 恭二や真一さんたちが総出でかかっていた、アンチマジックを発生させる魔道具が完成したのだ。

 

「くぅ~疲れました。これにて終了です!」

「うるさい、寝る。寝ろ」

「いでっ」

 

 目の下に隈を浮かべた真一さんが、恭二の頭に拳骨を降らせた。この一週間、ろくに眠ることも出来ずに魔道具の作成を行っていたからか、いつもの数倍沸点が低くなってる。一緒に作業をしていた先輩は……椅子に座ったまま、ぼんやりと宙を眺めている。

 

『ハハハハハハッ! 見ているかお祖母様! 私は、アガーテは成りました! 貴方に約束したように! 本物の、おとぎ話の錬金術師に!』

 

 そしてそんな彼らと協力して開発に当たっていたアガーテさんは、感極まったかのようにドイツ語で延々と叫び続けている。これはこれで、キャンプ参加者とは別の意味での死屍累々だな。寝ないってのは本当にキツいんだよなぁ。

 

 とはいえ、魔法に対する備えを求める声は日に日に高まっているのが現状。動いている姿を見せて一先ず世論を宥めすかしたが、しばらく時間をおけばまたぞろ対魔水晶の無償提供なんて言い出す輩が出てくるかもしれないため、のんびりと開発している時間も無い。

 

 そして注ぎ込める人員・資材・資金を総動員してついに完成したのがこのアンチマジック発生装置なのだ!

 

『弟、こいつら怖い』

「その言葉に同意を返したいけど、頑張ってくれたから。ね?」

『然り。人の身で見事なまでの知識を持つ若人らでしたぞ』

 

 彼らの外部協力者として開発に携わっていた二葉の言葉にフォローを入れておくと、初老のエルフ――宮廷魔導士さんがそう言ってくれた。彼はエルフ12人衆の内、おそらく最高齢というだけあって非常に思慮深い人で、常識の違いから何かと外部の人間と問題になったりする他のエルフ(特に二葉や戦士長)へのフォローも行う気遣いの人である。

 

 今回の開発ではこの人と、ポケットがいっぱいついた割烹着を着たお姉さん――錬金術師さんが非常に大きな役割を果たしてくれた。なんなら今回のMVPはこの二人だと言っても良い。

 

 なにせ彼らがもたらした技術によって作られた今回のアンチマジック発生装置は、魔力がない人でも長期間扱える。まさに今、この瞬間に求められている代物だからだ。

 

『魔道具の作成では一日の長が我らにあった、それが全てでしょう。この場に錬金術師が居れば、彼女も同じことを言ったはずです』

『錬金術師は体力がないからな』

 

 老魔法使いの言葉に二葉がそう口にするが、貫徹5日目でダウンした彼女は世間一般ではかなり体力がある方だと思う。誰しもがシャーリーさんのように週に5分の睡眠で完全回復、なんて生態はしていないんだ。

 

 それにブラック労働を悪とするヤマギシとしては、今回のような超長時間労働は絶対にやりたくないことだった。次期社長である真一さんが率先して動いたから今回の件では誰も声を上げてないが、仮に真一さんも恭二も居ない現場で似たような状況になったら必ず待ったがかかっただろう。社長直々に。

 

「社長が一番、ブラック労働を嫌ってる稀有な会社だよな」

「なんか昔、実家継ぐ前に色々あったらしい」

 

 ぼそりとそう呟くと、恭二が神妙な顔でそう応えてくる。恭二は社長が家業の商店を継いだ後に生まれたから、その辺りはよく分からないらしい。

 

 まぁ、今に至るまで言われてないということは聞かない方が良い事柄なのだろう。

 

 あまりよくない話題の流れになってしまったな。話題を変えるためにも完成した商品、アンチマジック発生装置を手に取ってみる。

 

 アンチマジック発生装置はペンダント型の魔道具だ。ゴブリンの短剣等から精製した魔力が通りやすい金属で外形を作り、中央に砕いた魔石と魔樹の木粉を球形に固めてコアとして中に埋め込んである。

 

『エレクトラムを使った魔力ペレット、でしたか。0から始めて数年でそこまで達することが出来たのは、素晴らしい事です。そしてそこまで進めているなら更に一歩先へ進めば、きっと問題は解決しますね』

 

 アンチマジック発生装置開発を始める際、現状のヤマギシの技術を開示した時に錬金術師さんがそう口にしたという。

 

 俺たちは当初、魔力ペレットを使ってアンチマジック発生装置を作るつもりだった。ただその場合、大きな問題としてアンチマジック発生装置自体が非常に高価な代物になるし、魔力を持たない人ではリチャージも出来ないためこまめな充電――この場合は充魔力とでも呼ぶべきか――が必要になる。

 

 これらを解決する案がなかった俺たちに、錬金術師さんは発想の転換が必要だといったのだ。

 

 値段が気になるなら高価な金属を使わなければいいし、チャージしなければいけないなら常にチャージできるようにすればいい。至極当たり前の事だが、これまで主力商品だったペレットで魔道具を作ってきたヤマギシ開発部にはこの発想がなかった。純粋に魔力を貯めて放出するという魔力電池としては、魔力ペレットは十分すぎるくらいに優秀だったからだ。

 

 ゴブリンなどが落とす金属類は精製工場を持つヤマギシなら入手も楽だし費用もそれほど掛からない。使用済みの魔石は使用前に比べて圧倒的に価値が低くなるし、唯一高級素材と言えるものは魔力充填のために混ぜる魔樹の木粉くらいだが、コア一つに含む木粉なんて大した量でもないし製材する過程でいくらでも出てくるものを使用すればいい。

 

 アンチマジックの付与が出来る人材を大量に確保すれば、一般庶民でも気軽に手に入る値段で魔道具が提供できる。これはヤマギシにとっても一つのブレイクスルーになるかもしれない発明だ。

 

「あとはアンチマジックの付与が出来る人材を集めれば……てのが一番のネックだけどね」

『それは仕方あるまい。錬金術師も努力しているが、アンチマジックを付与する魔道具は流石に難易度が高いからな』

『彼女が復帰次第、私も共に研究してみますが私も彼女も本来の仕事(役割)があります。長い目で見ていただければ……』

 

 一花の呟くような言葉に二葉と老魔法使いさんがそう応えるが、一花もそこは分かっているのかうんうんと頷きを返した。

 

「ううん、開発側はよくやってくれたよ! むしろ一週間で出来たんだから望外ってくらいじゃない? 後の事は私たちじゃなくてもっと上がやるべきことだから気にしない気にしない! とりあえずもう限界っぽいし皆は休んで! 目が覚めてからはまた忙しくなるよ?」

「真一さん、真一さん。寝るならベッドに戻ってください」

「あー……いいよ。兄貴は俺が運ぶから、一郎は先輩さんを頼む」

 

 話している間に限界を迎えたのか、先輩さんも真一さんも気づけばテーブルに伏せてしまった。付与の時に手伝うだけの恭二と違って、この二人とアガーテさんはガチで不眠不休だったみたいだしな。なお未だに叫び続けているアガーテさんは一花が後ろから絞めて俵のように担ぎ上げた。

 

 あの。一応今回頑張ったからもうちょっと優しくしてあげようね? 兄は優しい一花が良いと思うぞ。

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