結論から言うとある一定以上の魔力を持つ人とは会話なしで喋ることが出来た。さとりもビックリの新技能が唐突に生えてきたのだが、理由は割と単純であり。
『森の民なら誰でも出来るぞ?』
「そういうの早く言ってくれませんかねぇ……?」
二葉曰く、思念の伝達というのは魔力波を使って行う事が出来る、割と基礎的な技能の一つだという。魔力波というのはヒト(人間や彼女曰く土人、おそらくドワーフ?も含めた)が放つ魔力の波の事であり、魔力を持っている人が大なり小なり自身の周囲に放っているものなのだとか。
分かりやすい例で言うと魔力の測定器だろうか。あれは体外に放出される魔力量を計測しているのだが、この体外に放出される魔力というのが魔力波のことらしい。
この魔力の波というものはその人物の感情や思念も含んでおり、彼女たちはその魔力の波を知覚することができるため相手が何を考えているのかを言葉を発せずに理解したり、また相手に伝えることが出来るそうだ。
初対面の時、二葉が俺を使って言語を学んだ事があると思うが、あれは彼女が一族の中でも飛びぬけてこの魔力波の取り扱いに長けており、俺のように駄々洩れしている相手なら簡単に記憶の領域まで覗き込めたため出来た芸当らしい。
「駄々洩れとは……?」
『駄々洩れとしか言いようがない。私も弟以外でここまで魔力波に思念を乗せられる者は見たことがないぞ? もしもお前が私の一族の者として生まれていれば、私ではなくお前が玉座に座っていただろうな……うむ。玉座を譲ることになったのも早いか遅いかの違いしかなかったな!』
魔力波には質があり、普通の人がどぶ川くらいの透明度なら俺の魔力波は海底の砂粒まで水上から見えるほどに透き通っているそうだ。これが彼女たちの一族中では中々重要な事らしく、この透明度が最も高い人物が次代の王となり民を導いていく――らしい。
そして今回問題となった鈴木一郎サトラレ疑惑であるのだが、まぁ思いきりこの魔力波というのが関係している。二葉と繋がった例の件はきっかけであり、現在俺の思念が他者に読み取られるのはこの透明度が高すぎる魔力波の質にあるそうだ。
『弟が意識して思念伝達を扱えるのならば、そうさな。この40層に居る全員と思念だけで会話が出来るのは間違いないだろう。外だと魔力が薄すぎるから恐らく距離は狭まるが、キョウジやイチカレベルの魔力持ちならオクタマくらいは問題あるまい』
「奥多摩ってめちゃめちゃ広いんですがそれは」
『うむ。故に王の資質と呼べるものなのだ。どこに居ても“声”が届き、“声”を聴くことができる。王とは神と民との間を取り持つ司祭でもある。故に、神の声を遍く民に伝えることが出来るものにこそ玉座は相応しい……というのが我々の価値観である』
「そういうの早く言ってくれませんかねぇ……?(数分ぶり二度目)」
『と言われてもな。我々にとっては常識のようなものでもあるしイチローも使っているように見えたのだ。立派な男で戦士でもあるイチローに幼子でもしっている常識をとうとうと語るのは無礼であろう? それに外の世界。特に日の本では宗教の話はあまりしない方がいいと習っておるしな』
わたし頑張って勉強してます、という思念をこちらに投げてくる二葉に、ぐうの音も出ず黙り込む。日本は宗教アレルギーというか、新興宗教とやらにろくなのがないせいで既存の宗教以外に対する見方が厳しかったりする。故に異世界の宗教なんて劇物は口に出さないでくれと、外部と接する機会の多い二葉には伝えてあったのだ。
『それに似たような事を、というよりはより高度な事をしているから当然思念の伝達は出来ると思っていたのだ』
「似たようなことというと」
『“翻訳”と呼んでいる魔法があるだろう。アレは音の波に魔力を乗せて意思伝達をしているが、アレよりも直接魔力波で行う方が簡単だぞ?』
そこはもう「あ、イケるかも」で魔法作っちゃう恭二に文句を言ってもらうしかない。言われてみれば翻訳魔法って言語を翻訳してるんじゃなくて言いたいことを相手に理解させる魔法だから、思念の伝達という意味だと同じモノなんだな。声に乗せるのと魔力に乗せる点だけが違ってるのか。
ということは翻訳魔法を使える人はこの思念の伝達もあっさり覚えられる……という事か。
「なぁ、二葉。これってこちらの考えてることを相手に伝えなくして相手の考えだけを読み取るってのも出来るんだよな」
『私がお前にした事がまさにソレだったろう? 私はお前を経由して地球の言語を学んだが、弟は私の考えが読めなかったはずだ』
「つまりちょっと努力すれば翻訳魔法の応用で読み取りも出来るって事ですね、わかります」
『イチローほど質のいい魔力でもなければ、そう簡単には読めんと思うぞ?』
「簡単じゃなくても出来るかもってだけで問題なんだよな、これ」
翻訳魔法はその利便性の高さから、一般人が覚えたい魔法としてエアコントロールの次に名前が出る魔法だ。もちろん使用できる人も基礎魔法と言われているファイアーボールやバリアに次ぐレベルで多いと言われている。
現在世界中で魔法が使える人間は世界冒険者協会が把握している範囲でも400万人を超えており、そのうち半分以上が基礎魔法を修めてその先に進んでいるらしい。つまり現時点でも最大200万人くらいは翻訳魔法が使えるかもしれないわけで、その中から翻訳魔法の可能性に手が届く人が出てこないとは思えない。なんせ数が数だからな。
魔力を持つ相手限定とはいえ、一方的に相手の考えを読める“可能性”がある。これは放置してはいけない案件だ。
とはいえ、とはいえだ。現状どこもかしこもパンク寸前な状況で更にこんな爆弾を投げ込んでも大惨事が起こるだけだろう。手一杯の現状をまず解決するまでは一部関係者に報告しておくまでに留めておくしかないだろうな。あとは、恭二にテレパシーとかいう新魔法だと誤魔化して発表させるのもアリかな。あ、これが一番気が楽かもしれん。翻訳魔法を作ったときも恭二だから……って空気だったし。
真一さんと社長にはまず伝えるとして、恭二にはゴーサインが出た後に肩をポンって叩いて伝えるか。最近42層で採掘作業ばっかりしてるからいい気晴らしにもなるだろう。たぶんきっとメイビー。