奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百九十二話 それ、今の状況で出すのか?

 社長と真一さんに報告をしたら信じられない物を見る目でこちらを見られた。

 

「今か? それ、今の状況で出すのか……?」

 

 声を震わせながら真一さんがそう口にする。

 

 ここ数週間、方々を駆けずり回って事態の収拾に勤めていた真一さんには申し訳ないのだが、なんの手も打たずにこれが表ざたになったらどんな事が起きるのかを考えると恐ろしすぎるからね。報告しない方がよっぽど面倒なことになるのは目に見えているのだ。

 

「うわ、マジで口動かしてないのに声が聞こえてきた」

「あん? 俺にはなにも聞こえなかったぞ?」

「あ、今のは真一さんにだけ伝わるように調節してまして」

 

 俺の思念に反応した真一さんの言葉に社長が眉を顰める。今のやり取りは傍から見ればいきなり真一さんが独り言を呟いているように見えるのだ。この魔力の伝達という技能、二葉が言うように才能があったのか。二葉に教わりながら色々試してみると、相手を指定してこちらの思考を伝えるくらいのことはすぐに出来るようになった。

 

 流石に相手の思念を読むというのはまだ出来ないが、こちらの“思念”を伝えることが出来る以上、読み取るという事が出来てもおかしくはない――と想像してもらう事は出来るはずだ。

 

「いや、その辺は信用している。というか、お前がこういう状況で口に出したんだから、信用して動かないといけないのは俺も親父も分かってるんだよ。たんに信じたくないだけで」

「えぇ……」

「これどこに出しても爆弾だろ……余計に世間の対魔法熱が広がるじゃねぇか。いや待て、これアンチマジックで防げるんだろうな?」

「大体は防げるらしいですよ。二葉曰く熟練者ならアンチマジックを突破する事も出来るみたいですが、生まれた時から思念の伝達を扱ってるあっちの人らでも二葉と魔法使いさんくらいしか出来ないらしいんで」

「それならまだ……」

「まぁ、可能性があるのは確かだがそこまで狭き門なら特殊技能って事に落とし込めるか? エルフだからでなんとかなりそうだな」

 

 社長の言葉に真一さんが冗談めかしてそう口にする。エルフだからは魔法の合言葉とかじゃないんだが。

 

 

 

 結論から言うとギリギリなんとかなるらしい。

 

「魔力を持たない相手には使えないし魔力を持っている相手でもアンチマジックで99%防げる。現状使えるヒトが二名だけですし、これなら発表内容に気をつければ大きな混乱はもたらさないかと」

 

 冒険者協会側の代表としてケイティに相談したところ、最終的にはこういう結論になったからだ。外によく出る二葉はともかく、魔法使いさんは40層から離れられないしね。

 

 もちろん相手の思考が読めるという内容をそのまま出すのは問題が大きいから、ケイティとしては魔力を用いた意思疎通、ようはテレパシーという魔法の一つとして発表したいそうだ。それでも混乱はあるだろうが、翻訳魔法が登場した時よりはマシだろう、というのが彼女の見立てだ。

 

 各国の首脳などには通達しなければいけないので、二葉が外国に出向く際は色々と手続きが増える可能性が高いらしい。各国の要人はそのほとんどが魔力持ちであるため、二葉がやろうと思えば様々な国家機密を簡単に盗み見る事が出来るのだ。それを思えば制限がかかるのも仕方がないだろう。

 

 とはいえ制限がかかるとはいえそれが=二葉の安全を脅かす、という事もほぼないらしい。そもそも二葉の立場はこの世界においてほぼ唯一無二なものであり非常に展開が読みにくいそうだが、その唯一無二という部分とヤマギシ、ひいては俺との関係性自体が彼女の安全を保障するものなのだとか。

 

 恐らく二葉の特殊技能か特性という扱いに落ち着き、折を見て各国の求めに応じた協力を、という流れになるのがケイティの予測である。

 

「まぁ魔力というものについての研究はまだまだ黎明期です。こういった問題が出てくるのも織り込み済みですし、より見識が深まったと捉えることも出来ます」

「前向きだねぇ……」

「私にとって魔法は奇跡でしたから。この程度の事が出来ると言われても当然、という感想しか出てきませんよ?」

 

 俺の言葉にケイティは苦笑しながらそう答える。生まれた時から全身に病を患っていたケイティは、魔法によって命と健康な生活を手に入れた。余命宣告を受け、ただただ終わりまでの日数を過ごすだけだった彼女にとって、魔法は人生を与えてくれた奇跡としか言いようのないものなのだろう。

 

 彼女にとってこの程度の新魔法は「あ、出来るんだ。ふーん」くらいの認識なのかもしれない。この娘もダンジョンに、魔法に脳を焼かれた恭二の立派な同類だ。

 

「いえ、甘く考えることも出来ませんけどね。魔力持ちはその性質柄、富裕層が多い。彼らにとって心を読まれる可能性というのは決して無視できないリスクです」

「だからこそテレパシーとして?」

「そうですね。幸いなことにこれから行う海中戦闘では非常に役に立つ技能ですし、このために開発したと言えるのは大きい。当初のカリキュラムを少し弄りますが、全訓練生にこのテレパシーを覚えてもらって帰国してもらいましょう」

 

 キャンプ開始から2週間。世界中でもえりすぐりの冒険者を集めたためか、ほとんどの訓練生が戦士長チャレンジを突破してエアーバブルの魔法習得に取り掛かっている。最初期に突破した各国の代表クラスに至ってはもうすでに41層のボスである巨大ザメ(二ヒレ歩行可)とバトっていたりするから予定としてはかなり順調に進んでいる。

 

 翻訳に類似する技能だから難易度もそれほど高くないし、間違いなく役に立つ技能であるから彼らに覚えて帰ってもらい、各国で広めてしまうのが望ましい。完全に広まり切ったあたりで発展技能として読心に繋がるかも、となればそこまで大きな混乱は起きないかもしれないしな。多分。

 

 ちなみに初めてかの巨大ザメ(二ヒレ歩行可)と戦った時、そのチームのリーダーを務めていたオリバーさんが『なぜここにステ○サムが居ないんだ! チェンソーもないぞ!?』と叫んでいたのは記憶に新しい。君サメ映画好きなんだね。

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