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さて、ダンジョンである。
「42層の攻略可能人員が大幅に増加したし、今回のブートキャンプは大成功だね! アンチマジック発生装置の増産も続けているけど、やっぱり対魔水晶が欲しいって声も大きいからね!」
「魔樹の伐採も出来る人が増えたしな。あとは40層の攻略さえトチらなきゃ大丈夫だろ」
42層の入り口前で一花と駄弁りながら後続を待っていると、入り口の水路からゴボゴボと気泡が上がってくる。米国チームを引き連れたウィルとケイティが到着したらしい。
「おっす、お疲れ」
『お待たせ! 途中で魚の群れに襲われてね、少し遅れてごめん』
「いや、いいよ。こっちもまだ先行組が帰ってきてないし」
『ああ、例の「釣り」って奴やってるんだ』
「そそ。トラブルがなければそろそろ帰ってくる頃だけど」
水路から上がってきたウィルの謝罪にそう答えると、ウィルは軽く頭を下げたあとに興味深そうな様子で通路の奥の方に視線を向ける。ブートキャンプをやっている間、手が空いたヤマギシチームは42層を少しずつ探索していた。その成果が、そろそろ現れるからだ。
やがてドン、ドン! と何かが壁を叩く音と、バシャバシャと激しい水音が聞こえてくる。そして数十秒ほどした後、入り口前の広場に恭二たち残りのヤマギシチームメンバーが駆け込んでくる。
彼らの姿が見えた瞬間に広場に居た人間たちが散開し、対魔水晶で彩られた壁際に立ち、魔法の準備を始める。周囲に散った冒険者たちの間を抜けるようにヤマギシチームが入り口前まで駆け、そして振り返った。
ヤマギシチームが振り返るのに合わせたかのようにそいつは広場に現れた。成人男性並みのデカさの頭とギョロっとした双眸。全長20m近いぬめっとした胴体に、鋭い歯。海のギャングと恐れられる生き物と酷似したこの生物を、俺たちはこう呼んでいる。
デカウツボ、と。
「怖いか人間よ! って言いそう」
「それこいつ見るたびに言ってない?」
『それサンマじゃなかったっけ?』
俺の軽口に恭二とウィルが反応を返す。態度が軽いわけじゃない。もう勝負が決まったから余裕があるのだ。
対魔水晶は天然のアンチマジック発生装置であり、多少手元を誤ったとしても壁際にまで魔法の余波は届かない。入り口前の広場はそこそこ広く、更に対魔水晶が壁中に広がっているため壁際では魔法がほぼ効果を成さない場所だ。
この場に居る冒険者たちは壁際に広がり、広場を取り囲むような形で配置され、デカウツボはその包囲の中に突っ込む形で広場へと入り込んだ。
つまり、二次被害を一切気にせず魔法でタコ殴り出来るのだ。
『ツ・リ・ノ・ブ・セ……見事な』
『さすがはマスター。戦術まで修めておられるとは……』
「いやぁ! 最近ドリフターズ読んだからね!」
思い思いに得意な魔法でデカウツボを叩く周囲を見て、米国冒険者の一人が呟いた。これに関しては俺も同意見だ。
デカウツボは俺と恭二が2度目に42層に入ったときに確認できたモンスターで、その時は作戦もなしに恭二のレールガンで一撃必殺だった。ただそれでは流石に敵の戦力が分からなかったので、二度目の遭遇時にはどのような攻撃手段かを確認するために接敵後に距離を置いて観察をしていたのだが、入り口前の広場まで到達した際に一花が「ティンと来た!」と叫んだ。
そしてその瞬間にその時のパーティーメンバー全員に一花から思念の伝達が飛び、瞬時に一花が伝えたいことが理解できたメンバー全員が壁際に移動。対魔水晶の壁を噛み砕きながら跳ね回るように移動しているデカウツボが広場に現れた瞬間、集中砲火を行ってこれを撃破したのだ。
『作戦もそうですがこのテレパスが素晴らしい! パーティ内での意思疎通が格段に楽になった!』
『声に出すよりも迅速で、しかもイメージまで共有できる。使い手の力量によって効果範囲が変わるのは難点だが……お前マジで止めろよ。それはミンキーモモじゃなくてハマーン様だろ、衣装チェンジじゃねぇよ』
『力量次第で魔法の効果が変わるのは今までもあっただろう。未熟な者でも10m近くは届くんだからパーティの連携に役立つのは変わらんさ。ハマーン様万歳』
焼け焦げて良い匂いがするデカウツボを眺めながら、米国パーティーのメンバーが雑談を交えている。所々変な会話が混じっているが、恐らくメンバーの一人がテレパスを使ってイメージの共有を行っているのだろう。
衣装チェンジ? ミンキーモモがキュベレイにでも乗ってるのかな(すっとぼけ)
「逆じゃないかな! いやぁ、思った以上に便利だね、このテレパス(テレパスじゃない)」
「ニュータイプばりにピキーンって相手の伝えたいことがダイレクトに伝わるからな。1秒もしないでパーティー全員の意思が統一出来る」
ブートキャンプ参加者には思念の伝達の事はテレパスと伝え限定的な技術しか伝えていないのだが、それでも十分すぎるくらいの利便性だ。翻訳魔法の上位互換と言っても良い魔法なので翻訳魔法を覚えている者には習得も簡単だし、あっという間に使い手が増えるだろう。
「まぁ、この感じなら次回は私たち抜きでもデカウツボは倒せそうだよね! ドロップの牙はいくらあっても足りないから、デカウツボを倒せる人員が増えるのは大歓迎だよ!」
「今の俺たちに一番必要な素材だからなぁ」
一花がそう口にすると共にデカウツボの姿が掻き消え、ドロップ品の牙が地面の上に落ちているのが見える。こいつが今回の目標物で、恐らくしばらくはこれを採取するのが俺たちの仕事になるだろう代物だ。
42層最大の問題、対魔水晶の採掘。恭二が最大火力をぶつけてようやく穴が開く頑強さを誇る対魔水晶の壁を、デカウツボは嚙み砕くことが出来る。
つまりこの牙は、対魔水晶に穴をあけることが出来るのだ。