奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百九十六話 ウツボツルハシ

「無理だ、加工できない」

「マジすか」

「そもそも硬すぎる。これ本当に牙なのか? ダイヤカッターでも傷一つ付かんぞ」

 

 持ち込まれたデカウツボの牙に対してヤマギシ開発部は現在の技術では加工できないという判断を下した。ダンジョンから算出されるドロップ品には金属や鉱物が多く含まれるため、これまでヤマギシは金属加工会社を吸収合併したり冶金技術の獲得を行ってきた。だが、これまでに培ってきた技術や経験ではこの牙は加工不能となってしまうのだ。

 

「レーザーもダメ、水圧もダメ。溶剤にも反応しない。何で出来てるんだこれ」

「ウツボの牙、ですかね……」

「生物が体内生成していい硬度じゃないぞこれ」

 

 開発部の先輩曰く、間違いなくダイヤよりも硬い物質であり硬度の算出も困難だという。冒険者協会にもサンプルとして一本提出してあるため、調査に当たっている国の研究機関がなにかしらの成果を出すまでは打つ手がないようだ。

 

「この牙を溶かした鉄か何かに突っ込んで無理くりピッケルみたいにするか……?」

「対魔水晶に穴をあけるだけならそれで良いかもしれませんね」

「あー……最悪それでやるしかないか。上手く加工出来たら文字通り夢みたいな素材なんだがなぁ」

 

 口惜しそうに先輩はそう呟いた。

 

 

 

 そしてそれから数日後、一先ずといった感じでウツボの牙を使ったツルハシが完成した。構造としては牙の半ばまでを魔鉄で覆い持ち手を繋げた不格好な物だ。

 

「まぁ試作品だしな」

『形は後で整えればいいでしょう』

 

 試作品のウツボツルハシを担いで、セルゲイさんがそう答える。突貫で用立てた以上、デザインにまで拘るのはナンセンスだろう。しかし、大男のセルゲイさんがツルハシを担ぐとやたらと似合うな。シベリアのウラン鉱山を身一つで開拓してそうだ。

 

『私は彼ほどの愛国心に溢れた男ではありませんが……比較されるほどに評価されるのは嬉しいですね』

「お、セルゲイさんも知ってる口?」

『ええ、まぁ。実を言うとデカウツボ相手にレスリング、狙っているんですよ』

 

 たわいのない話をしながら、セルゲイさんはツルハシを両手で持ち、対魔水晶に向かって振り下ろす。

 

 ズガンッ

 

 人力とは思えない轟音が広場に響き渡る。

 

「セルゲイさん」

『はい』

「力入れすぎじゃないかな?」

『はい……』

「はいじゃないが」

 

 振り下ろしたツルハシを起点に対魔水晶の壁には大きな穴が穿たれていた。それだけではない。対魔水晶の壁だけでは抑えきれなかった衝撃はツルハシにも及んでおり、柄の部分だけが対魔水晶の壁に突き刺さったままになっているのだ。

 

 冒険者が振り回すのを前提に魔鉄で造られたツルハシが一撃でぶっ壊れたのは、さすがにちょっと予想外だ。

 

「まぁ、とはいえ当初の目論見自体は達成したから良いか。試作品だから壊れるのも仕事の内だし、もっと頑丈に造る必要があるって分かったからヨシ!」

『そう言っていただけるとありがたいです……しかし、これだけの力で打ち込んでもここまでしか打ち込めませんでしたね』

 

 デカウツボの牙なら対魔水晶の採掘が出来る。これが分かっただけでも今回は大収穫と言っても良いだろう。あとの問題はセルゲイさんレベルの冒険者が全力で打ち込んでも数cmほどしか突き立てられない点だが、これはデカウツボの牙をそのままツルハシの頭部にしてしまっているからだろうか。

 

 ちゃんと成形してツルハシの頭部を作れれば、もっと効率よく穴をあけられると思うんだが、現状だと難しいか。

 

『その事なんですが、40層の店舗を利用することは出来ないのですか?』

「店舗、ですか?」

『ええ。鍛冶屋が居るではないですか、あそこには』

 

 セルゲイさんに言われ、そういえばと思い返す。40層にある鍛冶屋はエルフにしてはガタイの良い親方が切り盛りしている店で、武具や鉄製品等に魔道具化を施すことが出来る場所だ。これはエンチャントのように上から魔法を被せるものではなく、剣や鎧等に魔力のこもった文字や文様を刻み込んで魔法の力を与えるものだ。

 

 とはいえエンチャント自体はヤマギシでも出来るし、牧場や訓練所などダンジョン通貨を使わなければいけない場所が多々あるため、鍛冶屋自体の利用はそれほど多くはない。そのため俺も言われるまで思い当たらなかったのだが、なるほど確かにこれはあの親方の専門分野と言えるだろう。

 

 仮に親方でも手が出せなかったとしても、現状よりも状況が悪くなることはない。せっかく別ベクトルの発展を遂げた魔法文化の叡智を借りれるのだからそれを活用しない手はないのだ。

 

「っと、どうやら来たみたいだね」

『ええ。釣り役は見事に役目を果たしたようです。あとは、我らの番だ』

「俺はギリギリまで手を出さない。場合によっては命の危険もあるけど」

『問題ありません。我らは冒険をしに、ここに来たのですから』

 

 遠方から徐々に近づいてくる喧噪。デカウツボを釣ったロシアチームがこちらに近づいてきているようだ。そのことを認識したセルゲイさんは、厳つい顔に凄惨な笑みを浮かべて頭部を失ったツルハシを放り投げた。

 

 両腕に嵌めたナックルガードをギュッ、ギュッと締め直し、広場へと現れた仲間たちが壁際に散っていく中、セルゲイさんはただ一人中央に仁王立ちをして佇んでいる。仲間の尻を追いかける不届きな鱗面を、広場のど真ん中で待ちわびている。

 

 それが彼の役割で、これが彼らロシアチームの戦法なのだ。現れたデカウツボにセルゲイさんが迎え入れるかのように両手を広げて、叫ぶ。

 

ダヴァイ(やろうぜ)!!』

 

 ロシアチームの戦法は単純明快だ。絶対的なフィジカルを持つエースがどっしりと真ん中を抑え、他のメンバーが彼を助ける。別に他のメンバーが劣るわけではないしロシアチームの他の面々も十分トップ層と名乗れる実力者ばかりなのだが、そんなメンバーの中でもセルゲイさんが群を抜いて強いからこういう形になったらしい。

 

 まぁ、サメの牙を搔い潜りながらアッパーで2~3メートルぶっ飛ばす奴は他に居ないしな。今も魔法の集中砲火の中、フレンドリーファイヤも喰らわずにデカウツボの顎かち上げてるし。

 

 ちょっと癖のあるロシアチームも42層での活動は問題なさそうだし、この調子でブートキャンプ参加者が全員42層に潜れるようになれば対魔水晶の供給も目途がつくだろう。企業は利益を優先するべきとはいえ、現状だとヤマギシに求められてるものが大きすぎるからな。魔樹の伐採も正直手が回ってるとは言えないんだから。

 

 40層に帰ったら親方に相談してみよう。デカウツボの牙が使えれば一気に状況は良くなるはずだ。

 

 しかしモンスターを倒して手に入れた素材を使って装備を整え、新しい素材を入手すると考えると、どこぞの狩りゲーみたいだな。魔樹の伐採なんかまさにそれっぽいし。案外、このダンジョンを作った奴もゲームかなにかを参考にしている可能性が……流石に考えすぎか。

 

 なんて思考を横道に逸らしている間にデカウツボが映画みたいな勢いで天井に向かってぶん殴られているのが目に入る。体格差は数十倍あったはずなんだが殴り飛ばせるもんなんだな、凄いや人体(思考停止)

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