奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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明日は投稿する予定なさそうなので早めに投稿

誤字修正、日向ひなた様、244様ありがとうございます!


第三百九十八話 事あるごとに師匠は凄いと口にする

『…………』

『親方は言っている。魔物の素材ってのは特別でな。生き物の一部ってのもあるが基本的に魔力との親和性が高いんだ。つまり同じように魔力との親和性が高い魔鉄なんかの素材とも相性が良いし、それぞれの素材の組み合わせ次第で色々な側面を見せることがある。俺が使う弓は魔鉄の芯に森に棲んでいた巨狼の皮と人面樹の枝を組み合わせて作ったものだが、一種類の素材だけで造った弓よりもむしろ魔力の通りが良かったりするんだ』

『……』

『とはいえだ。今親方が言ったように素材には属性があってな。この牙は水属性が強く出ているから土に近い金属、魔鉄との相性はそこまで良くないんだ。もちろん魔力親和性のない素材よりは相性良いけどね』

「ほへー」

 

 狩人さんの言葉に感心していると、彼はうんうんと嬉しそうに頷いて手に持つツルハシを差し出してきた。

 

『…………』

『ほら、親方もこう言っているだろう? コイツはウツボの牙を魔力水で飽和させて成形し、魔力を生み出す魔包樹で柄を作り持ち手には牛人の皮を用いた特注品だ。振ってみればどこまでも掘り進める感覚が坊ちゃんにも分かるはずさ』

「ええ、まあ。素晴らしい出来ですよね。まさに一品ものって感じで」

『うんうん。だよね、そうだよね。コイツを使えば皆そう感じる筈だよねぇ』

 

 我が意を得たり、と朗らかに笑う狩人さんの言葉に頷きを返して。

 

「でもわが社のコンペ結果は錬金術師さんの作品に決まりましたんで」

『なんでだよ!!?』

 

 俺の言葉に狩人さんが両手で頭を抱えて天を仰ぐ。いやぁ、なんでかって言われてもなぁ。あえて言うなら――

 

『……顧客のニーズに答えられなかったのが敗因だ。オラぁ妥協できねぇから渾身の一品を作ったが、穴掘り道具に素材も時間もかけすぎちまった』

「それだ。ヤマギシが使うだけならいざ知らず、世界中で大量に必要とされるものだから量産できなきゃいけない。でも親方の作った物は一品ものすぎて」

 

 考えを代弁してくれた渋い声に相槌を返し、ふと思い至って声のした方を見る。そこにはつい先ほどまでと変わらず腕を組んだままこちらを睨むように見るエルフのナイスガイが立っている。

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」

『…………』

『いやぁ。長く一緒に居る俺だってほとんど声聞かないもん。坊ちゃんもそうなるよ。出不精ならぬ声不精だね』

 

 これまで沈黙を保っていた親方の言葉に思わずハッピーセットな反応を返すと、親方が不機嫌そうに口をへの字に曲げた。この階層を解放してからそこそこ立つし結構な頻度で顔を合わせてる筈なのに声を初めて聴いたんだ。驚くのもしょうがないだろう。きっとメイビー。

 

 それはともかくとして42層の採掘に際して悩んでいた「そもそも対象が硬すぎて採掘が出来ない」という問題は、錬金術師さんの手によって解決の目途がたった。

 

 彼女の解決方法なら一つの牙で複数台の採掘用具が作成でき、かつ使い手を選ばないという特徴がある。ツルハシよりもサイズが大きくなるため持ち運びに不便があるが、42層でのみ扱うと考えればそれも飲み込める程度の不便さだし、なにより「これなら間違いないだろう」という説得感が凄かった。

 

 コンペを開くのはヤマギシで、ヤマギシの上層部に所属するものは現代社会で生きる者たちだ。その現代社会で生きるものにとって、錬金術師さんが用意した解決手段は非常に理解しやすく納得しやすいものだった。だから、ほぼ満場一致に近い形で彼女の作品は世界中のダンジョンで対魔水晶の採掘作業に扱われることになる。

 

 まぁ、ドリルなら仕方ないよね。

 

 

 

 その絵面は中々に凄いものだった。

 

 緑色の作業衣に身を包んだ細身の女性が自分の身の丈はあろうかという巨大な採掘ドリルを腰だめに抱えて、用意された対魔水晶にドリルをぶち込んでいるからだ。

 

 あれ? なんか現代日本の創作界隈にはそんなキャラ一杯いる気がしないでもないが……まま、ええやろ(思考放棄)

 

『秘密は採掘ドリルのドリルビットにあります。このドリルビットは魔物の素材、便宜上“デカウツボ”と呼称されるモンスターの牙でドリルの芯をコーティングしてあります。現在は耐久試験中ですが凡そ200回以上使用しても摩耗は確認できておりません。使用されている採掘ドリルはドイツに本社を置く○ーリング社の物を使用していますが、この本体にはダンジョンで手に入る特別な素材は一切使用していないためドリルビットと合う形状であればどのメーカーの採掘ドリルでも使用は可能となります。お手元の資料○▽ページを開いてください』

 

 錬金術師さんの実演に合わせて、今日は珍しくスーツ姿のアガーテさんが居並ぶ冒険者協会の職員の前でプレゼンを行っている。

 

「コーティングというのは特殊な技術が必要なのでしょうか?」

『生き物の素材という事は有機素材であると……』

「どのくらい生産が出来るのですか? コストなども含めて」

『採掘した対魔水晶のカッティングはどのように――』

 

 日本に滞在している各国の冒険者協会職員や、ブートキャンプ参加者でも協会職員としての立場を持つケイティやファビアンさん等が次々に質問を投げるが、アガーテさんは特に危なげもなくそれらの質問を――時にはユーモアも交えて――裁いていく。その姿は堂に入ったもので、超男社会の理学部で研究者として生き残ってきただけのことはあるというか。

 

 こういう事が出来るからこの人、嫌がってるのにドイツ冒険者協会の会長やらされてるんだろうな。

 

 一通りの質問が飛び交った後、プレゼンの参加者であるケイティ達は各国代表同士で集まり、供給割合についての会議を始めた。ここからがむしろ彼らにとっての本番だ。

 

 このドリルビットの販売・生産はヤマギシが請け負う事になっており、物が物のため供給量も決まっている。各国が42層に手が届く状況になった現状、どれだけ自国にこのドリルビットを配給してもらえるかで対魔水晶の産出量が変わってくるのだ。

 

 まず生産拠点のある日本と米国、それに開発に関わったアガーテさんのドイツが優遇されるのは分かり切っている。だが、100生産される内50を残り5カ国で分けるか40を分けるかでは大きな違いがあるのだ。

 

 当然、その会議の中には先ほどまで司会進行を務めていたアガーテさんも参加しているし、なんならここでもケイティ相手に『日本2,ドイツ2は分かるが米国が2を要求するのは筋が違うのでは? せいぜい1.5で残りは日本とドイツに割り振るべきじゃないですかね』と若干煽り気味に論戦を張っている。

 

 そして事あるごとに師匠は凄いと口にする。

 

『師匠はね! 凄いんだ! 新しい技術である科学にだって即対応したしさ!』

『あ、はい。それで話の続きなんですが――』

『なんだテメー、師匠の話が聞けないってのか!?』

『!!?』

 

 「いや私なにも話してないからね!?」と思念波をまき散らす錬金術師さんの姿に合掌を捧げておく。俺としては俺に向けられていたあのなんだか分からない執着が幾分彼女にいったおかげで楽が出来ているのだが、いきなりあんなのが弟子になったんだから彼女も大変だろう。

 

 今度、映画の関係でダンジョン外に出る用事もあるし、外の甘いものでも差し入れよう。味覚はあるって話だしね。

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