奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、ドッペルドッペル様、244様、日向ひなた様ありがとうございます!


第三百九十九話 可能性

 40層に戻ってきた姉を名乗るエルフを目にした瞬間、足りていなかったものが戻ってくる感触を覚えた。半分になっていたものがいきなりくっついたというか、分かたれた半身が元身に戻ったというべきか。何度やっても慣れない感覚だ。

 

『分かれているというよりはコードに繋がって遠隔地にあるって感じだな』

「こんなこと出来ると自分が機械かなんかになった気分になるうぉぐっ!」

『弟ぉぉぉ!』

 

 久しぶりに話すニーサンの言葉にそう返事を返していると、助走を付けた二葉が胸元めがけてカッ飛んできた。

 

『弟! 弟よ姉は帰ってきたぞぉぉ!』

「いや、こまめに顔は合わせてたろ」

 

 そう口にしながら大型犬のように俺の胸元に顔をこすりつける二葉の背中をポンポンと叩く。この1月ほどほぼ別々で動いていたからか、この姉を名乗る少女のスキンシップはどんどんと過激になっているのだ。

 

『まぁ1月もやれば間違いないだろうな。十分な魔力と依り代ががあれば、たとえ一郎とダンジョン内外で分かたれても俺たちは存在できるのは分かってたしお嬢も例外じゃないって事だ』

『弟ぉぉぉ! クンカクンカ』

「それどこで覚えた???」

『これでお嬢と一郎はセット運用以外も出来るようになったし、お嬢っつー依り代が増えた分俺たちの活動範囲も広げられた。魔導人形はダンジョン内部じゃないと魔石の消費が激しいからな。しばらく一郎がダンジョンから出られないってなった時はどうしようかと思ったぜ』

「ニーサン、冷静に語ってないでそろそろ助けてほしいなって」

 

 久方ぶりに右手に戻ってきたニーサンにそう苦言を呈するも、ニーサンは下手糞な口笛を吹いて明後日の方向を見る。それで誤魔化せると思ってるのだろうか。

 

 ま、まぁ二葉の事は置いとこう。人の形をした大型犬と思えば良いんだ。大事なことは未来、先の事を考えよう。

 

 1月余りの間、俺たちヤマギシチームは対魔水晶によって発生した特需……もう大炎上とでも呼ぶべき内容だが特別な需要という意味では間違ってないだろう……をなんとかするために各国トップチームの再訓練を行うため奥多摩に集結していた。

 

 人数が人数のため、あと扱う魔法が特殊すぎて教官失格と言われた俺も例外ではなく、対外とのやり取りでどう頑張っても動けないと血涙を流していたシャーリーさんを除いてほぼ全員が教官としてダンジョン内部に詰めて教官を務めていた――というのが大本営ヤマギシ発表である。

 

 実際にこれは間違っていないのだが、もちろん言っていない事も幾つかある。そのうちの一つが俺と二葉の取り扱いに関することだ。

 

 奥多摩の40層は現在、攻略した際に40層の階層主――所謂ボスである二葉から俺が譲り受けたという事が共通認識となっている。40層を攻略する際にダンジョンに囚われていた二葉をヤマギシチームが解放し、その際に彼女は俺と契約を交わして俺に譲渡する形で40層の権限を与えたというものだ。

 

 この権限については根拠となるものもあり、例えば他のダンジョンの40層では奥多摩のようにダンジョン内の物品を一気に両替するという事は出来ないというものがある。

 

 40層にある雑貨屋に物品を持ち込んで売買をして金品を受け取ることは出来るが、これは雑貨屋が一日に取り扱える硬貨の数に制限があるため一度に大量の金貨銀貨を手に入れるには奥多摩に物品を持ち込むしかなく、しかもただ奥多摩に持ち込むのではなく俺から委任を受けた存在、今でいうなら横島カカシのような玉座に座るものが必要になる。

 

 今現在としては40層まで開通しているダンジョンは日本国内にしかないため他国のダンジョンがどうかは分からないが、現状を見るに俺が40層の権限を持っているというのは間違いないだろう――という理由で日本冒険者協会は、少なくとも日本国内にあるダンジョンの40層は奥多摩に習う形で鈴木一郎が所属しているヤマギシに、ひいては40層開通の際に尽力した各地のダンジョン代表冒険者に使用権限があり、それらをひっくるめて日本冒険者協会に使用権限があると主張しているのだ。

 

 そしてそんな所にどこが発端かは定かではない妙な噂が流れ始めた。

 

 二葉が実は俺の一部であり、40層に纏わる諸々の話は狂言である。故に40層の使用権限は早い者勝ちなのだ、と。

 

『まぁ、だからなんだって話ではあるんだがな』

「いや、放っておくと不味い気がしたから」

 

 それを目にしたのは本当に偶然だった。エゴサだけはするなよ、と一花から口酸っぱく言われているのでSNSでは基本友人のタイムラインを眺めてたまに茶々を入れるだけなのだが、その日はたまたまトレンドという文字が目に入ったのだ。

 

 そこに記載されていた内容はまぁあることないこと書かれた怪文書ばかりだったのだが、ここ最近やたらと効くようになってきた勘働きさんが「悪意を感じる。これほっといたら不味い」と囁いてきた。あと、40層に二葉を置いていたら不味いという感覚も。

 

 その時点でシャーリーさんに相談した所、それならという事で思念の伝達の講師を二葉の代わりに俺が引き受け、二葉がメインとなるネット番組を立ち上げて俺と二葉がダンジョン内外で分かれていても活動できるという実績を作り。ついでにニーサン他数名のキャラクターに二葉を補佐してもらうことになった。

 

 魔導人形という前例があったためこれは出来るだろうと思っていたのだが、魔導人形よりも長く持つという事が分かったのは嬉しい発見だったな。

 

「唯一計算外だったのは二葉が人気になりすぎてヤマギシショッピングが畳めなくなった事かな!」

「それに関しては正直予想してなかった」

『あれは一花やベンの人気もあったと思うぞ?』

 

 引率役として二葉をつれてきた一花の言葉に頷きを返すと、より小さくなった右手のニーサンがそう感想を述べる。それは分かってるんだが、チャンネルのコメントとかを見ると今までヤマギシのチャンネルに登録していた人以外のコメントなんかも結構見えたんだよね。二葉目当ての新規さんも相当数いるんだろうな。

 

 まぁ、二葉の場合人気があるってのは良い事だ。現状だと認知度が上がれば上がるほど立場が強化されるのだから。そのうえで言えば今回の目論見は大成功と言っても良いんだが、今回の場合はこれ以外にも幾つかやっていた事がある。

 

 そちらの報告をケイティとシャーリーさんに伝えた後、俺と二葉はブートキャンプに合流せず米国に飛行機で向かう事になる。

 

「あ、そっか。あっちでスタンさんが首を長くして待ってるんだよね!」

「本当に首長くしてそうで怖いんだよなぁ、最近のスタンさん」

「変身魔術にハマってるんだっけ。SNSでたまに見るけどコラ画像かと思ったよ……それで、どうだったの?」

「あからさまな黒は居なかったけど。家族や友人に教えてるみたいだ。もちろん協会に報告してない」

「……そっか。サイコメトリー?」

「ああ。変身してなかったのと、彼ら自身が悪い事をしてるって意識がなかったんだろ」

 

 小さな声で訪ねる一花の質問に答えると、一花は唇を小さく噛みしめて黙り込んだ。小さなころからの癖だ。何かに裏切られたと感じたとき、一花はいつも唇を小さく噛みしめる。まぁ、気持ちはわかる。俺だって似たような思いだ。

 

 今回呼ばれた冒険者たちは各国の冒険者協会が立ち上がる際、日本に最初に訓練に来た者たちばかりで、俺たちにとっては教え子というべき人たちだ。俺たちは彼らが自国で先達として冒険者を教え導くことを期待して彼らに教導を施した。特に一花は殊更熱心に教育を施して、彼らからマスターと呼ばれて慕われているからこそ、余計に口惜しいのだろう。

 

 世界中で起き始めている魔法テロ。そのテロに使われている魔法技術の出所が彼らだという可能性が、非常に高くなったということが。

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