奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第四百話 これは始まりである

 映像に映っているのはヒジャブを被った少女が、両足を失った子供を癒している姿だった。

 

 音声はない。ただ、両足を失った子供の足に彼女が手のひらを向けて何事かを呟くと光が子供を包み、瞬く間に子供の両足が再生する。

 

『これは始まりである』

 

 少女と子供の映像が終わった後、画面にはどこかの家屋の中で撮られていると思われるものに移り変わる。画面の中心に立つ人物は中東で過激なテロリズムを繰り返すことで知られる組織の長だという。

 

『ダンジョンと我々を不当に搾取する白人どもが呼称する魔窟で彼女は力を得た。造物主に導かれた彼女は誰に教わるわけでもなく奇跡を扱い、弱者へ施しを与えた』

 

 これは始まりである。繰り返すようにその言葉を言いながら、テロリストは語り続ける。

 

『白人どもは自身たちだけで魔窟を私物化しようとしている。我々を搾取するためだ。魔窟で得られた力を独占しようとしている。我々を虐げるためだ』

『だが、それは失敗に終わる。搾取を目論んだ連中の思惑は外れ、我々は神の導きによって力を得た。支配に抗う力を手に入れた』

『これは始まりである』

『我々の戦いの始まりである』

『支配から脱却し、正しき神の教えを世に知らしめるための戦いはもう始まっている』

 

 そこまで男が語り終えた後、映像は途絶える。これは今年の初め頃、複数の動画配信サイトに投稿されたものだという。

 

 当初はテロリストの犯行声明かとネット上で騒がれていたのだが投稿されてから数か月たっても小規模な小競り合い以上のものは起きておらず、動画界隈に出回っている魔法の映像を用いたフェイクニュースだろうということで時間の流れと共に忘れられていたものだった。

 

 のだが。

 

「これ、口の動き。リザレクションって言ってるね」

 

 動画を見た一花の言葉にケイティが頷く。

 

「間違いなくリザレクションだと思います」

 

 米国行きのプライベートジェットってWi-Fi通るんだなぁなどと考えている俺を尻目に、一花とケイティは今見た動画を再度頭から再生し見始めた。一緒についてきた二葉は窓の外を眺めている。飛行機の窓って風景ほとんど変わらないのに、何故かずっと見ていたくなるよね。

 

『確定に近い灰色だな。この少女が英語圏の生まれだったり日本のゲームやアニメ好きでなければ、自分で覚えた魔法の詠唱がこうなることはないだろうしね』

「ジャパニメーション好きの可能性はあるかぁ。確定黒!とまでは言えないかもね」

「そうですね。しかし怪しい事に変わりはありません。リザレクションを使える冒険者は限られていますし、イチローの情報もあります。もしこれが情報漏洩の結果だった場合ルートの特定はすぐに出来るでしょう」

『逆に言えばこれで特定出来ない場合はテロリストの手元に人類最上位レベルの魔法使いが存在するわけだ』

 

 右手に口だけを出して結城さんが二人にそう告げた。もし仮に誰にも教わらずにリザレクションを使えたなら恭二レベルで、映像を見ただけで魔法を覚えたならケイティレベルだ。どっちにしろ人類でも五指に入るレベルの魔法使いだし、そんな人物がテロリストに参加しているという事になる。

 

 そうなったらなったで不味いのだが、実を言うとこっちの可能性の方がマシだったりする。あくまで特別危険な一個人が一人増えるだけだからな。

 

 今もっとも確率が高くてかつ一番不味い状況は魔法の情報とその教育方法が漏れ、それを覚えた魔法使いが居る場合だ。これはそのままテロリストに冒険者の育成方法が丸々漏れていることになる。銃器よりも簡単に、手軽に人を殺めることが出来る魔法技術がテロリストに渡ればどうなるかなんて、ちょっとでも想像力があれば簡単に分かる事だ。

 

「ケイティとしてはこうなるのも視野に入れてたんでしょ? あんだけ大々的に冒険者育ててるんだし。今後の対応はどうするつもり?」

「そうですね。私としてもいずれは魔法技術が協会の管理外に漏れていくのは想定していました。ただ、今回は漏洩元と見られる人物が予想以上に上位の冒険者だったのがネックです。リザレクションを使えるという事はそれより難易度が低く、公開されている魔法はほぼ使えるでしょうし……兎に角まずは世界冒険者協会の立場と対応をすり合わせる必要があります。大統領にもお会いしなければ」

「お兄ちゃんの渡米に紛れて帰れてよかったね! ヤマギシ側の立場として口にするけど、ヤマギシは当然テロリズムには迎合しないし断固とした態度をとるからね? これは社長と真一さん両方の意思だと思っていいから。なんなら声明でも出そうか?」

「そこまで言っていただけるのなら、世界冒険者協会としても助かります」

「で、今、日本の40層で足止めしてる漏洩元容疑の5人はどうすんの? もしもの時に残ったウィルと米国チームだけで大丈夫?」

「完全にシロだと確定できた他の冒険者たちには事前に話を通してあります。もしもの時は、ヤマギシ側の力を借りずに世界冒険者協会だけでも対応は出来るかと」

 

 淡々とした口調でそう尋ねる一花に、同じく淡々と応えるケイティ。

 

 思うところは、もちろんあるだろう。ケイティにとっては期待していた最上位の冒険者たちだし、一花にとっては容疑者5人は生徒だ。

 

 だからこそ出来る限り感情を押し殺して、二人は会話をしている。この場で裏切られたという感情を怒りに変えて吐き出しても、なにも変わらないと分かっているのだ。

 

「お兄ちゃん」

「はい」

「いちいち、思念でこっちの内心を解説しないでもらっていい?」

「許してクレメンス」

「…………はぁ~~」

 

 一花の言葉にウィンクをしてそう答えると、一花は深い深いため息を吐いた。ちなみにクレメンスはメジャーの野球選手の事だぞ!

 

 ため息と一緒に毒気が抜けたのか、一花は俺から顔を逸らしてピっと二葉を指差す。あっちに行けという事だろう。まぁこの空気ならもうさっきのような険悪な雰囲気にはならないだろうし、大丈夫かな。

 

 一花はどうにも貯めこむ癖があるからな。こうやって適度に吐き出させとかないと、またケイティと大喧嘩になりかねん。この二人、相性自体は悪くないんだが、変にかみ合って大事になる事があるからなぁ。

 

『なぁなぁイチロー』

「なんだいマイシスター」

 

 多少意識を一花たちに割り振りながら外を眺める二葉の隣に座ると、二葉は窓の外を見たままこちらに声をかけてくる。

 

「なんだか隣を飛んでるものがいるが、あれはなんだ?」

「隣? あれは……」

 

 二葉の言葉に促されるように窓から外を見ると、仁王立ちした人間を乗せた数機の戦闘機がプライベートジェットに並行する形で空を飛んでいる。

 

「……人かなぁ」

『うん? それはそうだろう、っと』

 

 二葉の言葉に気の抜けたような声で返事を返すと、どう解釈したのかうんうんと頷いて二葉は両手を窓の外へ向ける――瞬間、爆音と共に窓の外が赤い炎で包まれた。

 

 あ、これ大分不味いやつだな?

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