奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第四百三話 君はいつだって私の想像を超えた成長を見せてくれる!

『魔法を使った事件は172件。殺人にまで発展したものは15件。15件中10件は学生によるものだ。魔法使いは若年層に多いからな? そして若年層であれば引き金を容易に引くこともある。力を手にした弱者(ターゲット)かつての強者(ジョック)を標的にしたものは凄惨なものになるらしいな』

 

 パサリ、と資料が机の上に投げられる。

 

 白い家と呼ばれる米国で最も重要な施設の、その中でも特に厳重な防衛体制が敷かれた、最も身分の高い人物がいる部屋の中。矢面に立ったケイティに対して、この部屋で最も身分の高い人物――米国大統領が語り掛けるようにそう口にする。

 

 彼が言葉にしたのはこの1年の間に起きた、米国内での魔法使いが起こした犯罪だ。米国では魔法を教えたり、魔法を覚えた魔法使いに関しては世界冒険者協会が管理している。その世界冒険者協会の責任者の一人であるケイティは彼らが起こした犯罪に対し責任を取る立場にいるため、大統領はその件について叱責している――

 

 というわけではないようだ。

 

『一年だ。すでに50万近い数の米国の魔法使いが起こした一年間の犯罪件数が172件。見事なものだと言っていい』

『ありがとうございます』

『もちろん0ではない以上手放しの称賛は出来ない。だが究極的には魔法も銃と同じだ。人間が扱う以上ニューヨークの件のようにタガが外れて無差別に力を振り回す事もあるだろう上で、この数字であれば私は評価するべきだと思っているよ。ケイティ』

『大統領閣下にそう言って頂けると、光栄です』

『パーティーの時のようにおじ様と呼んでくれても構わないぞ?』

『ふふっ。今は公の場ですので……』

 

 そう言って苦笑を浮かべるケイティに、歴代でも苛烈と呼ばれる事の多い大統領閣下は愉快そうに笑った。

 

 良かった。米国に着いた際、米軍機に護送されながら白い家までドナドナされ予定も何もかも前倒しで大統領閣下の御前に連れてこられた時はどうなるかと思ったが、どうやら穏便に事が進みそうである。

 

『おお、これが報告に合った読心か。不思議な感覚だ、頭の中に直接君が居て言葉をかけてきているようだよ、イチロー』

『あ、失礼。練習しているんですがつい漏れるときがありまして』

『構わないとも。世界中の要人で私がいち早くこの感覚を知れたのは意味がある事だ。分かっているというのは大きな意味があるんだよイチロー。いや、親しみを込めてイッチと呼ばせてもらっても?』

 

 あ、それ親しみを込めた表現なんですね。どうぞどうぞ。

 

『君はケイティを心配しているようだが、ここ数年彼女と世界冒険者協会ほど合衆国の発展に寄与した組織を私は知らない。彼女たちの行いを罰するという事はイコールで我が国の発展を阻害する事になると私は考えているんだ。合理的な判断とはとても言えない』

『おお、凄い高評価なんですね』

『いいや、控えめな評価だよ。ダンジョン、魔法、魔力。数え上げるだけでキリがないほどの新しい概念を米国に取り込むだけでなく、それらに対して世界中に根を張った組織を立ち上げた。世界冒険者協会の影響力はね、イッチ。君が思っている以上に大きく、そして米国に利益をもたらしているのだよ。なにより君とキョージ・ヤマギシ。世界を左右しかねない存在と強いつながりを持つケイティは、あるいは現在の米国で最も重要な人物かもしれないよ。それこそこの私よりもね』

 

 そこまで言葉を続けた後、目の前に座る年配の権力者はニヤリ、と表現するべき笑顔を浮かべた。

 

『ところでそんな君を危機に陥れたというその、鎧を纏ったヴィランだが。やはり現職の大統領として初めて公の場に現れたヴィランに対して適切な対応を施すべきだと思うんだ。私の、当然の、責務として!』

『あ、はい』

『まずは名付けからだな。呼称する名前がないのは不便だからな。うむ、まるで酔っぱらいのように延々と中国語の歌を脳内で歌う……酔っぱらいの中華人を意味してドランクドラゴ』

『それはちょっと色々ややこしいっすわ』

 

 真剣な表情を浮かべてそう口にする大統領に応えを返すと、彼は非常に残念そうな表情を浮かべた。自信あったのか、その名称。でも風評被害的な意味でそれは止めた方が良いですよ?

 

 

 

『イチロー!』

『お、スタンさん。ご無沙汰し――』

 

 胃に悪い会談を終えた後、世界冒険者協会本部へ向かうというケイティと分かれて俺と一花、二葉の三名はサンフランシスコにやってきていた。米国内なのに飛行機でも結構な時間かかるんだな、と毎回思ってる感想を一花と話していると、聞き覚えのある声がロビーに響く。

 

 最近ではめっきりと若返ったスタン老の声だと振り返ると、かなりの勢いでスタンさんが抱き着いてきた。いや、米国だとハグと呼ぶのか。

 

『イチロー! ああ、イチロー! 良かった。飛行機が墜ちたと聞いたときは、心臓が止まるかと思ったよ! ああ、本当にイチローだ! でもイチローが小さい!』

『いや、まぁ今はそうですね』

 

 なんせ少年エルフの姿だと身長が150ちょいだからなぁ。元の身長が180くらいだからその差が30センチ近くは小さくなってるのだ。というかそれは前回あった時にもやったでしょ。

 

『ああ、そうだね! そうだとも! 良かった、君が元気で。私は、本当に心臓が止まるかと思ったんだ』

『天丼ですか。スタンさん、大丈夫ですって。そうそう死にませんよ』

『ああ。そうだ。そうだね、君は大丈夫だ。君はヒーローなんだから。だが商売柄ね、どうしても最悪の事態という奴が頭をよぎるんだよほら、ヒーローを扱っているとね』

『参考までにどういう感じの奴がよぎったんですか?』

『マスターとフタバを人質にされ、両手両足を拘束されたまま飛行機ごと海に沈められるとか、もしくは洗脳されたマスターに攻撃され、反撃も出来ないままその身に魔剣を突き立てられるとか、ああいや。襲撃者が君と同格のカテゴリーワンで、硬直した戦況からヴィランが放った攻撃がマスターに』

『分かりましたんで止まりましょうか』

 

 まぁヒーローが絶体絶命の危機なんて毎日考えてる事だろうからね。そりゃ色々出てくるだろうけど自分をネタに想像されるのはちょっと心に来るものがある。というかナチュラルに一花を巻き込んでるのはどういうことなんだろうか。

 

『君の弱点って家族じゃないか。そりゃあ絡めるよ』

『さも当然みたいな感じで人の思考に答えないでくれます???』

『あ、ごめん。これが君の新しい能力、“テレパス”なんだね。素晴らしい! 君はいつだって私の想像を超えた成長を見せてくれる! ああ、君にも見せたいんだ、今うちの会社のチームは毎日のようにディスカッションを行っているんだ、君の新しいプロモーションが彼らの脳髄を占有しているんだよ! さあ会社に行こう、新しいシリーズを始める準備は出来てるんだ、もちろんマジックスパイダーシリーズも継続してね! 君は今、ソロで活動するヒーローだが友人と呼べる相手も増えてきている。彼らとのチームを観衆は見たがってると』

 

 あ、スイッチが入った。と思う間もなくスタンさんはべらべらと今後の予定を口に出し始めた。彼の頭の中ではすでに予定表が出来上がっているのだろうが俺にとってはもちろん初耳の物ばかりである。これ始まるとスタンさん本当に止まらないんだよな。

 

 まぁこういう事も予期して会社側もスタンさんのお着きというか本当の世話役を一緒に連れてきているので、彼の指示通りに動けば問題はない。この後の予定としては宿泊先に荷物を降ろした後、関係者へのあいさつ回りと舞台挨拶のリハーサル。結構キツめのスケジュールなのはまぁ、到着が遅れた俺のせいではあるのでしょうがないか。いや、大統領閣下に呼ばれたんだからしょうがなくはあるよな?

 

『ところで君が遭遇したという襲撃者、大統領の会見では中華で暴れているテロの可能性が高いと聞いたんだがね。やはりヒーローにはヴィランが居なければいけないしどうだろう、中華人を意味してドラゴン、それに中華と言えば拳法だな。酔えば酔うほど強くなるという中国拳法の使い手としてドランクーー』

『それ以上いけない』

 

 天丼は一度で十分なんだよ。え、この後の食事で天丼を出す……そういう意味じゃないんですが、はい。食べます。

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