奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、げんまいちゃーはん様、244様ありがとうございます!


第四百四話 後は任せるから、まぁ適当にやってくれ

『“復讐者”たち―――“アッセンブル”(集結)

 

 語り掛けるかのようなキャプテンの集結の言葉に、軍勢の怒号が応える。

 

 軍勢、そう。軍勢だ。

 

 目の前に広がる侵略者たち――敵首魁率いる侵略者の軍勢に対し、復讐者たちを救援に来た軍勢。黒豹を取り戻した王国軍と宇宙からの援軍、それに魔術師たちといった面々は、雄たけびを上げながら迫りくる侵略者たちを迎え撃つ。

 

 だが、走る彼らから先駆けるように、閃光が走る。一人の青年の右腕から世界と同一視される巨大蜘蛛の一撃が放たれたのだ。敵首魁へと襲い掛かる月までも届く巨大な一本の足は、復讐者たちを巻き込まないように優しく足を広げて、地球を砕かないように――ただ存在するだけで周囲を押し潰しかねない点を考慮しなければ――ゆっくりと敵勢力の船を押しつぶしながら醜く生まれたタイタニアンへと襲い掛かる。

 

『フッ』

 

 だが、空が墜ちてくるかのようなその巨大蜘蛛の足を前に、敵首魁は嘲笑するような笑みを浮かべるだけだった。

 

 手に持つ両刃のデュアルブレードを腰だめに構えて、小さく息を整え――一閃。

 

 打ち上げるようなその一撃によって、墜ちた天とでも呼ぶべき巨大蜘蛛の足を弾き返した。

 

『ちっ』

 

 弾き返された瞬間、巨大蜘蛛の足は掻き消えるように消え去った。天を覆うほどの蜘蛛足はマジックスパイダー――ハジメが己の身に宿る蜘蛛神の力を呼び出したものであり、返されたと認識した瞬間に己の内部へとしまい込んだのだ。

 

『お兄ちゃん、治療を』

 

 つぅ、と血を流すハジメの右手に、妹の杖が向けられる。淡く輝く緑色の光によって傷口が逆再生のように癒えていく中、ハジメは小さく感謝の言葉を述べるも目線を妹には向けず、睨みつけるように敵首魁へと向け続ける。

 

 敵首魁とハジメの視線が交差する。

 

 挨拶代わりの一撃ではあったが、そのまま決めるつもりで放ったものだった。異界の創造神の一撃が、あっさりとはじき返された。

 

 己の魔法の特異性。すべてが込められた右腕はこれまで数多の敵を粉砕してきた。豚人の王も、不老不死の魔女も。考えに考え、いざぶちかました一撃は全てを貫いてきた。

 

『通じなかった』

 

 仮に5年前に戦っていたならば。魔法蜘蛛の本体と邂逅し彼女の力を得る前に出会っていたならば、勝負にすらならなかったかもしれない。

 

 だから、右腕を握り締める。

 

 かつて師と呼んだ男が自分を異世界に送り込んだのは、コレだろう。この男と全力でぶつけるために、自分はあの異世界へ赴き、5年の歳月をかけたのだろう。

 

 だが――だがっ!

 

 雄たけびを上げる。ハジメの雄たけびに、大蜘蛛の森最強の戦士の猛りに合わさるように森の戦士たちが雄たけびを上げる。

 

 目の前で崩れ去った妹を。消えていくゲートを見たあの瞬間を、忘れたことはなかった。惨めだった。どうしようもないほどに惨めな5年だった。どうせならば自身も一緒に消えてしまいたかった。たとえ敗れたとしても、消えていたのだとしても、師と共に戦い死んだ方が何倍もマシだった。ハジメの眼が暗く、冷たい光を放つ。

 

『……ハジメ』

 

 心配そうにハジメの名を呼ぶエルフの姫。その呼びかけに応えず、小さく息を整えた後ハジメは駆けだそうと前のめりの姿勢になり――

 

『こら』

『痛って!?』

 

 スカン、と横合いから額を木製の杖で叩かれた。

 

『図体ばかりでかくなりおって。中身は5年前とちぃとも変わっておらんな? お前を心配しているお嬢さんに一言くらいかけんか』

『……師匠』

 

 懐かしい声だった。トンっと杖をつく老人は5年前よりも幾分年老いた姿をしていた。ハジメは思わずかつての呼び名を口にする。その声に応えるように自分に拳を教えた老人は、幾らか皺の増えた顔を顰めてハジメの右手に杖を突きつけた。

 

『怒るなとは言わん。憎むなとも言わん。だが、拳にそれを乗せるな。儂はお前に、そんな殴り方は教えておらん』

 

 そう口にしながら、老人の体がゆらりと動く。背後から襲い掛かってきた異星人の振り下ろしの一撃を、手のひらを回すように受けていなし、握り込んだ拳を異星人の胴体に叩きつけた。回し受け、そして正拳突き。ハジメが彼に師事していた時分、何度も何度も教え込まれた動作。スーパーパワーを持たない老いた拳士は、その基本とも呼べる攻防の型だけで異星人の一体を無力化した。

 

『殴り方を誤れば拳を傷つける。もしかしたら、もっと大事なものも傷つけるかもしれん。間違えるなよハジメ。殴るべき相手と、殴り方をな』

 

 そう口にして、師匠と呼ばれた拳士は戦闘のただ中へと駆けていく。周囲はさながら乱戦の様相となっており、ハジメが連れてきた異界の戦士たちもすでに異星人との戦闘を開始している。

 

 そんな中、打ち据えられた額をさすって、ハジメは少し険の取れた表情で周囲を見る。自身の代わりに戦士団を指揮するオーク族の新王、心配そうにこちらに視線を向けながら、術士たちを指揮して周囲の味方勢力を援護するエルフの姫。そして、自身の傍らで不安そうにハジメを見上げる妹。

 

『……あー』

 

 左手で妹の頭をなでる。5年ぶりの感覚。ここに妹が居るんだという実感。

 

『思いつめるのは良くないな。ああ、良くない』

 

 そう口にしながら、右手からウェブシューターを飛ばし上空から襲い掛かろうとしていた敵の航空機を絡めとり、地面へと叩き落とす。墜ちた航空機を巨大なヒーローが駆け抜けざま踏みつぶしていく。

 

 その姿を見つけたのだろう。上空から、随分と懐かしいのんきな声が降ってきた。

 

『お久しぶり! で、良いんだよねそのマスク。僕覚えてる? ほら、一緒にスタークさんと。スパイダーマンなんだけどさ、君マジックスパイダーだっけ? 僕らよく似てると思うんだけどさっき起きたら急に次の戦いだって言われてそっちの方で鉄男さんも戦っててね!』

『おん。覚えてる覚えてる。貰ったウェブシューター、まだ使ってるよ。いま使った』

『やっぱり! 背が伸びてるから分からなかったんだよね! 牛乳飲んだ?』

『牛乳より効くもの飲んだかなぁ。でっかい蜘蛛のエキスとか。グッグ、そのまま戦士団の指揮を頼む。姫さんは援護を。空からの邪魔を極力削ってくれ』

『了解。ご武運を、大戦士』

『ハジメぇ! いい加減私の名前を――』

『ハナ。そっちの姫さんと一緒に周りの連中を守ってやってくれ。俺は行ってくる』

 

 ハジメがもう一度妹の頭をなでてからそう口にすると、ハナははにかむように微笑んだ後ちいさく頷きを返した。

 

 ん、とその姿に頬を歪めて、ハジメは穴の開いた古いマスクに右手を添える。

 

『ちょっと付き合ってくれよスパイダーマン。あの紫頭に右ストレートぶち込みたいんだ』

『OK! コンビ名はどうする?』

『俺とお前で“Wスパイダー”』

『んー、シンプル! でもベストかも!』

 

 軽口を叩きあいながら、二匹の蜘蛛が戦場の空へと舞い上がる。

 

 戦いは始まったばかりだ。

 

 

 

 

 エンドロールが終わった試写会の会場は、沈黙に包まれていた。数秒、いや数十秒ほどか。会場の明かりが灯されると共に、観衆たちの時間は動き始める。

 

 ぱち……ぱちぱち……ぱちぱちぱちぱち!

 

 誰かが拍手を行い始めると、波が広がるように拍手の輪が広がっていく。やがて一人の青年が感極まったように立ち上がると、彼に触発されるように試写会を見ていた観衆が立ち上がった。歓声と拍手と、ぐずる声が試写会を覆いつくす。

 

『……終わったな』

 

 そんな試写会会場の様子を眺めながら、鉄男さんがポツリとそう呟いた。

 

 それが誰に向けられたものなのかは分からない。いや、多分誰かに聞いてほしくて言った言葉ではないんだろう。ただ、彼の言葉を聞いたキャップは彼の背中をポンと叩いた。

 

『そして新しい始まりでもある。さぁ、行こう。最後の鉄男を、皆に見せないと』

『ああ、そうだな。最後のキャップを観衆が待っているぞ?』

 

 キャップの言葉に軽口で応えて、鉄男さんがキャップの胸を軽く小突いた。そして振り返って俺に視線を向け、ふっと小さく笑顔を浮かべる。

 

『今回は良い添え物だったぞMS。後は任せるから、まぁ適当にやってくれ』

『鉄男さんの物語を過去にしちゃいますよ』

『ぬかせ!』

 

 ゴツン、と軽く胸を小突かれる。大げさに痛がるふりをすると、騒ぎを聞きつけた雷神が追撃のように首に手を回してくる。そしてそのタイミングで舞台に呼ばれたので、雷神は俺の首を絞めたまま舞台に向かって歩き始めた。ちょ、おい待てい!?

 

 制止の声を上げるも周りの面々は意に介さず、俺は首を雷神に絞められながら舞台上に登壇する事となる。こんな扱いが現代社会で許されるというのか。訴訟も辞さない。




エンドゲームはマジで集大成というか総決算みたいな映画で大好きでした。
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