奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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明日はちょっと忙しいので早めの投稿

皆様、良いお年を。


第四百五話 お兄ちゃんって呼んで良いですか?

 一つの決着というか、ふんぎりというか。

 

 復讐者たちの最新作。その試写会で集った面々と、別れの挨拶を交わす。ビッグ3と呼ばれた彼らと彼らを支えたヒーロー、ヒロインたちの内には様々な理由で今作が最後となる者も居るためだ。このメンバーで集うのはこれが最後になる。だからこそ多忙な日々を送るスターも、気難しい事で有名な俳優もこの場に集まったのだろう。

 

『ま、次は僕らの時代だね! 僕とMSでダブルスパイダーが復讐者たちのメインになるんだから今作以上の成功は約束されてるし引退する人たちは残念でしたって言う事で痛い痛いちょやめ』

 

 陽気な声で失言を捲し立てるスパイダーマン役の俳優を周囲にいた俳優たちが無言で蹴り始める。おしゃべりな上に余計な一言を口にする点で世間の人気者な彼だが、遠慮なく蹴りまわせるという点で同じ撮影仲間たちにもある種の人気者である。

 

 まぁ実際の所どうなんだろうかね。今現在撮影中のスパイダーマンの映画は結構次の復讐者たちって感じで面白そうなんだが、MSの次回作は燃え尽き症候群になったハジメがぶらり地球一周の旅に出る、みたいなノリの作品みたいなんだがそれで人気が出るかは甚だ疑問である。

 

 いや、別にふざけてるわけじゃないんだ。元々MSの原作、というかコミックの方が3巻以降はそんな感じになってるから原作に忠実といえば忠実なのだ。ちなみに1巻は異世界からのオークの襲撃、更に魔法に目覚めてオーク王を倒すまでで2巻は異世界に赴いて異世界の神=魔法蜘蛛と契約を交わし異世界を脅かすヴィランであるカグヤという不死の魔女を月に吹っ飛ばすまでである。この内容がまんま映画のMS1とMS2の内容にもなっている。

 

 という訳でMS3も例に漏れず原作に忠実な創りを目指しているのだが、ここで一つ問題なのが3巻以降のMSは基本的に一か所にとどまらず世界中を回ってその地のヒーローと協力したりしなかったりグルメを味わったりする感じなのでどちらかというとMS主体の話が少ないのだ。映画にする以上起承転結は最低限必要だろうし、この内容の3巻を映画化して果たして面白いのだろうか。

 

 

 まぁ映画が成功するかどうかなんて俺の責任の及ぶ範囲ではないし、なんならエンドゲームまでで俺の契約自体は終わってる筈なんだがなんか誰も彼もが次回作は撮って当然みたいなテンションで少し困惑してる。というかヤマギシ側も「え、撮りますよね?」とか普通に考えてる節があるのが非常に気になる。

 

 あれ? これって俺がおかしいのだろうか。いや、人気作になったのはありがたいと思うし素直にうれしいんだけどそれはそれとして俺がダンジョンに潜る時間がだね。最近はなんかエルフになったりサメと戦ったりしてるけど俺は本職がダンジョンアタックを生業とする冒険者であって俳優じゃないんだよね。というか前のニュースで何故か俳優・配信者って紹介されててあれー? って思ったりしたんだけどもしかして世間だと俺が冒険者だと認知されてなかったりするのかと悩んだりしてるんだよ。そこんところどうかなハナーーじゃなくて松井さん。

 

「あ、花って呼び捨てで良いですよお兄ちゃん……って呼んだら一花先輩怒るんですよね。私もプライベートでお兄ちゃんって呼びたいのに。ね、イッチさん。お兄ちゃんって呼んで良いですか?」

「ダメです」

「んー、イケズですねぇ」

 

 そういわれてもその呼び名は妹専用みたいなもんがあって妹分には適用されないからなぁ。二葉? 二葉はほら、いきなり出来た姉枠だから……というか質問に答えて貰ってないんだけどそこんところは。あ、応えるまでもないと。あ、はい。あきらめろ? そりゃねぇっすよ鉄男さん。

 

 

 

 なんて笑い交じりにお疲れ様会をした数日後。

 

『次回作からハジメ役は役者を交代することになりました』

『はい……はい?』

『はぁ……エンドゲームで契約は終了していますので、わが社はその更新を行わない。そういう事です』

 

 映画製作を担当している某ネズミーさんから契約更新に関して話し合いたいと呼ばれて顔を出した所、担当者であるという女性からそう告げられ、一枚の書類を手渡される。あ、契約終了って書いてある。

 

 急展開についていけず目をぱちくりしていると、担当者さんは次の予定があるので、と席を立ち部屋から出ていく。俺が入室してからわずか5分の出来事であった。

 

「という事があったんだけど」

『訴訟ですね』

「カチコミでしょ!」

「一花先輩、その前にSNSで世間に訴えるのが先ですよ」

 

 すごすごと戻ってきた俺の説明にケイティ・一花・松井さんの三名が順番に怖い事を口にする。いきなり戦闘モード突入は反応が早すぎるでしょ。

 

「いいえ、イチローの反応が鈍すぎるんです。ハジメというキャラクターはイチロー・スズキという存在が居なければ生まれてこなかったし、世間はハジメ=イチローと見ています。つまりハジメの活躍はイチローの物であり、その逆も然り。冒険者協会にとっても大事な広告塔であるハジメをイチローから取り上げるというのは、明確な敵対行動です」

「お兄ちゃんにも分かりやすく説明するとね! これめっちゃ舐められてるって事なんだよ?」

「少なくともイチロー先輩の貢献に対する対応とは言えません。米国は契約社会ですが、だからこそ信頼や信用を大切にします。ネズミーさんの対応には、それがありません」

「お、おかのした」

「……あれ、花ちゃんいつの間にお兄ちゃんを先輩呼びするように……?」

 

 女性3名に一斉に駄目だしされ、椅子の上に正座して頭を下げる。女子会中に乱入したのは申し訳ないが、どう対応して良いか分からないから相談に来たのでテンションマックスで詰め寄られてもその、困る。

 

 というかケイティや一花はともかく、松井さんまでそっちの会話に混ざれるのはどうしてなのか。え、買収? ス、スタンさんに迷惑がかからなきゃ良いんじゃないかな?(震え声)

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