奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします


第四百六話 世論って怖いなと思いました。

『何故だイチロー! ハジメを辞めるなんて、そんな……! 私はあの連絡を聞いて、胸が張り裂けそうで居ても立っても居られず! 私と一緒にマーブルを盛り立ててくれると約束したじゃないか!!?』

「約束した覚えはありませんが誤解です」

 

 試写会後にニュ-ヨークに戻った筈のスタンさんが、汗だくになって詰め寄ってくる。まさか空港から走ってきたのだろうか。

 

 ボロボロと泣き崩れながら俺に翻意を促そうとするスタンさんに懇切丁寧に状況を説明すること2時間。ようやっと落ち着いて話を聞いてくれる状況になったが、今度は今度で大きな問題が出てくる。

 

 スタンさんマジ切れ問題である。

 

『僕はね? 一番苦しいタイミングを乗り切れたのはネズミーさんのお陰だと思ってるしシネマティックユニバースを成功に導いたのも彼らの力が大きいのは認めてるんだ。でも、これはもうそういう次元の話じゃないでしょ? 戦争だよ。子会社だからってやっていい事と悪い事があるんだとはっきり教えてやらないといけないんだ』

「落ち着きましょう、スタンさん。スタンさん、落ち着いて」

 

 大事なことなので何度も繰り返す。感情のままに暴れ回るのは文明人のやる事じゃない。クールに行こうクールに。

 

「そうは言ってもね、お兄ちゃん。世間様はスタンさんと同じ意見らしいよ?」

「おお、スタンさんを宥めるのに一切手を貸さなかった妹よ! どういう事だい?」

「ごめんて。いやー、ちょっと華ちゃんと一緒にSNSの対応してたんだよね。ほら、華ちゃんが先手を打ってSNSで状況報告したからさ」

「松井さん何してん???」

「ちょっと待ってくださいイチロー先輩。いまこの工作員っぽいのをレスバでやっつけますんで!」

 

 レスバなんて不毛な行為は止めなさい。勝っても負けてもただ虚しいだけだぞ?

 

「いやぁ、でも必要なことだよ。ほら、さっきからお兄ちゃんの携帯、ピロンピロンって通知が連呼してんじゃん」

「あ、うん。ちょっと応対間に合わなくて」

 

 スタンさんを宥めるのに全神経を集中していたから覗いてなかったが、連絡用のアプリの通知が何百と溜まってるのが見て取れる。ありがたいことに各地の友人や知り合いから心配するメッセージが届いているのだが、流石に一人では処理しきるには事な通知数だ。

 

 華ちゃんの発信は正直助かった。スタンさんとのやり取りもそうだが、俺も結構混乱している所があるからな。俺の話を聞いたうえで客観視して発信をしてくれる華ちゃんのお陰で、現状を周知出来たし俺も今の状況を把握しなおせた。

 

「ん。じゃあ次はお兄ちゃんの公式アカウントで現状の説明だね!」

「俺、公式アカウントって持ってないんだけど」

「普段使いの奴がもう公式アカウント扱いだしそれで良いんじゃないかな!」

 

 そんな適当で良いんだろうか、公式アカウント。まぁ一花が言うなら問題ないんだろう。多分。ええと、呼び出し受けて赴いたら契約終了と告げられました。そういう事もあるのかと書類を持って帰ったら妹と妹分とケイティにバチクソ怒られました……と。

 

 端的に俺の状況を表しているな。ヨシッ!

 

「ヨシじゃないが?」

「あ、でもすごい勢いで拡散されてるし凄い勢いでコメントが草まみれになってますよ!」

「それは褒められることじゃないからね華ちゃん!」

 

 俺のつぶやきを見て一花と華ちゃんが漫才のようなやり取りを始める。休日が合えば遊びに行く仲だと聞いていたがやっぱり仲が良いんだな、この二人。松井さんが先輩呼びをし始めた辺りで一花の反応が若干おかしかった気がしたけど気のせいだったな、うん。

 

 

 

 世論って怖いなと思いました。まる。

 

「まる、じゃないでしょ。当事者なんだから」

「いやぁ、これもう俺の存在必要か?」

 

 前回のつぶやき以降、特になにもしてないんだからもう部外者ってレベルじゃないか? そんな気がするくらいに現状、ネズミーさんとマーブル周りは荒れに荒れている。

 

 まず、俺がつぶやいた内容に対してネズミーさんは俺の側から契約の続行を望まなかったと主張。確かに当初の予定ではエンドゲームで復讐者たちに関する全契約は終了していたのでこれは間違った主張じゃない。ただ、これに対してネズミーさんにとっては身内であるはずのスタンさん含むマーブル側が反論を行ったため話はややこしくなった。

 

 まず、マーブル側としてはハジメというキャラクターは鈴木一郎という人物が居てこそ成り立つ存在であり簡単に演者を交代するなどという事は出来ないと述べた上で、確かにエンドゲームで基本契約をいったん終了する予定ではあるが、ヤマギシ側にはハジメというキャラクターが必要な場面で都度契約を結ぶ交渉をしていたと主張。マーブルはまかり間違っても鈴木一郎以外がハジメを演じるなんて考えて居なかった為、これから続いていくシネマティックユニバースの数多のプランに多大な影響が出るとネズミーさんに対して弾劾に近い論調でぶちかました。

 

 これに対してネズミーさんはシネマティックユニバースに関してはネズミー側が主体となっているためマーブル側の主張は前提が間違っていると一刀両断。その上で今回の配役変更に関して、つい先日起きた俺の搭乗していた飛行機がテロに狙われた件について言及し、俺を起用するという事はテロの標的にされる危険があるため、ネズミー側も苦渋の決断であると述べた。

 

 なるほど、確かにテロに狙われてる役者なんて使いたくないよな。なら仕方ねーや。とここで俺個人はネズミーさんの主張に納得したのだが。このネズミーの発言を受けてネズミーはテロに屈して英雄を裏切ったと、米国の国会で議員さんが発言したのだ。

 

 これがもう炎上した。炎上も炎上、大炎上である。なにせ米国を代表するレベルの大企業がテロリズムに迎合したと名指しで罵倒されたのだ。この発言は各報道機関でも取り上げられたので、俺の配役変更をこの発言で知ったという人もかなり居るだろう。

 

 この国会議員の発言で騒動を知った米国の国民は、まず疑いの目でこの発言を行った議員を見た。なぜならこの発言をした議員さんの名前はリック・バートン。彼の息子、ベンジャミン・バートンはヤマギシチームの一員でありヤマギシの役員を務めている。当然、彼は親ヤマギシ議員の代表格であるから、身内を擁護していると思われたのだ。

 

 だが、出てくる情報を見ていくと、どうにも様子がおかしい。連日報道される内容を見ていくと、どうにも本当にテロを理由にイチロー・スズキはMS役を降ろされたのが分かってくる。この段階でまず、ニューヨーク市民がキレた。スパイディのニューヨーク・ウォーキング・イン・ザ・エアを見ていた彼らは、ニューヨークで起きた自爆魔法テロに単身抗う彼を見ていた彼らは、熱狂的なイチロー・スズキのファンでもあったからだ。

 

 流行の発信地であるニューヨークには当然、流行の発信者である多くのインフルエンサーが居る。様々な主張や主義を持つ多種多様な彼らは、この時に限っては一つの方向へと自身の考えを向ける。こんなことは望んでいない。ニューヨークが求めるMSは彼だけなのだと。彼らの声に押されるようにダンジョン関係者や冒険者界隈も声を上げ始め、燃え広がるようにネズミーの対応に関して言及する人たちが増えていく。

 

「でも、一番の問題はネズミーさんの対応でしょ?」

「まぁねぇ」

 

 テレビ画面を見ながら、そう口にする一花に頷きを返す。

 

 画面の中ではネズミーさんのお偉いさんが、新しいハジメ役の演者を発表している。多種多様な価値観を取り入れて膠着したシネマティックユニバースの世界に新たな風を吹き入れる事を目的に中華人と黒人のハーフであるという新進気鋭の男優を起用したらしい。

 

 いや、そこはせめて日系人じゃないか? え、突っ込むのはそこじゃない? はい。

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