『私たちは“確定的に正しい作品”を目指しています。MAGIC SPIDERというコンテンツはこれまで社会的な弱者やマイノリティを尊重するという視点を持ちませんでした。今回、MAGIC SPIDERシリーズにおいての配役を変更する判断を下したのはこれらの問題を抜本的に解決するための手段として配役の変更が必要であると考えたためです』
『イチロー・スズキ氏にはそれらが無かったと?』
『彼は非常に恵まれた立場の人間です。社会的な弱者やマイノリティという存在とは最も遠いものだと我々は考えています』
『彼は4年前までごく一般的な男子学生であり、ダンジョン出現時に肉体的な右腕を半ばから失っています。現在の彼の右腕は魔法によって形造られた義手でありこれは世間一般で言うと身体障害者という扱いになるのではないかと思うのですが、ネズミー社の判断基準では身体的な障害の持ち主は社会的な弱者ではないという事でしょうか?』
『もちろんネズミー社では身体的な障害の持ち主は社会的な弱者として支える必要があると考えています。イチロー・スズキ氏は非常に優れた俳優ですが、彼の続投は我々の目指すヴィジョンとは重ならないと判断しました。また、彼にはテロリストとの関係というネガティブな部分が存在します』
『イチロー・スズキ氏はテロリストと関係が!? それは一体どのようなものでしょうか!』
『彼が搭乗していた飛行機がテロリズムによって墜落した事件は記憶に新しいものでしょう。飛行機墜落における死亡率は90%以上であるのに彼が搭乗していた飛行機では死傷者が一人も居ませんでした。我々はこれをスズキ氏とテロリスト側にはなんらかの繋がりがあったため死者が出ないようなんらかの取り決めがあったのではないかと考えています』
『テロリストによる襲撃と墜落に関しては当日の動画によってほぼ全容が発表されています。テロリスト側の襲撃によりスズキ氏が搭乗していた飛行機は右翼が折れ、同乗者が魔法によって飛行機を浮遊させなければ間違いなく多数の死者が出たと予測されていますが、ネズミー社にはこれらが所謂自作自演であるという根拠があるという事でしょうか』
『状況からそう判断したというだけです。イチロー・スズキ氏がテロリストと関係を持っているという訳ではありません』
『……あの、先ほどから発言に矛盾が』
『以上で記者会見を終えます。詳細な情報に関してはネズミー社のHPに記載されていますためそちらをご確認ください』
「いや草」
「えぇ……」
炎上に対してガソリンをぶちかますかの如きネズミー社の対応。多分いま、自分がしているのが絶句というものなんだろう。貴重な体験をした気がする。
『イチロー。お前から学んだ英語に抜けがあったのか、この女の言葉の意味が分からん。この国では一度自分が言った言葉を自分で否定するのが一般的な話し方なのか?』
「いやぁ、多分そんなことはないと思うんだけどね?」
テレビ画面を見ながらポテチを食べていた二葉の言葉にそう応えるが、正直言って俺も自分の言語能力が正確か自信が無くなってきてるんだよね。疑問形でしか返答できないぞこれ。
「多分お兄ちゃんたちの問題じゃないから安心していいよ? 私も意味分からなかったしおかしいのはこの担当者だから」
カタカタとキーボードを叩きながら一花がそう断言する。そ、そうだよな。いくらなんでも自分から自爆スイッチ押しすぎだろって俺の耳が悪いんかって考えちゃったけど、ネズミー社の報道官が言ってる事あきらかにおかしかったよな。
「そうだね。おかしいよ。主義者とかってさ、ある事柄に対しては明らかにおかしい事でも『これが正しい』ってすっごい真面目な顔で言いだす連中だもん。身内に居るからすぐにピンと来たけど、流石にこれはちょっとやりすぎというか、あからさますぎるんだよねぇ」
「身内に主義者って、そんな奴いたか?」
「ダンジョン至上主義者が二人もいるじゃん! いや、それでもやっぱりおかしいよ。こんな事、まともな判断が出来る上層部が居れば絶対に今のタイミングで言い出さないもん。こんなの、ネズミー全体のイメージを悪化させるだけじゃん」
『ならばそれが目的なのではないか?』
「…………え、待って。そんな事やる? 普通」
俺と一花のやり取りをソファに座って眺めていた二葉のつぶやきに一花が虚を突かれたようにそう口にする。一花に応えるように二葉は視線を向け、顎に手を当てて少し考えるそぶりを見せながら口を開いた。
あの、所でいま話に出てきたダンジョン至上主義者って恭二の事だよな? 二人はちょっとばかり人数がおかしいんじゃないか?
『――私はこの世界に関してまだまだ疎いから断言は出来んが。だが自分の所属する組織の足を明らかに引っ張っている奴が大体裏切者だというのは知っているつもりだ。裏切られたのだろう経験が私にもある……と思う』
「思うってなんだよ」
『虫食いだらけの記憶だからな。そしてもし、裏切者でないならば事はもっと面倒だ。自分が裏切りを働いていると知らずに動いているという事だからな』
思わず突っ込んでしまった自分が悪いとは思うが、闇深発言で返されると、その。非常に困る。
「……待って。いや、待たない。これ、もし最悪ならめちゃめちゃヤバいじゃん! スタンさんに連絡しないと!?」
そんな俺と二葉の心温まる(嘘)やり取りを尻目に、一花はスマホを取り出して電話をかけ始めた。随分と慌てて――え、買収される標的が違った……え、こないだ言ってた買収って本気だったのか? あ、それじゃない……狙いはハジメの利用権?
なんでそんな――分からないならちょっと黙ってて。あ、はい。