奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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日曜日更新できなさそうなので早めに上げます。

誤字修正、げんまいちゃーはん様ありがとうございます!


第四百八話 冒険者は、冒険するもんだ。

「聞いてそこの貴方♪ ちょっと言いにくいんだけど♪ 聞いてそこの貴方♪ 正直帰りたい」

『唐突にどうした???』

「いや懐かしいCM集って動画で見た奴なんだけど」

『本当に唐突だな!?』

 

 隣の席に座っている黒人のにーちゃんが軽快な口調で突っ込みを入れてくる。良いね、実にいい反応だ。最近、ヤマギシのメンバーだと大体スルーしてくるし二葉は翻訳がミスってるのかなんなのか普通に受け答えしてくるから、こういう反応は新鮮でうれしい。おっと、最後のフレーズまで歌わずに終わってしまったな。ままええか。

 

 まぁ、隣に座っている黒人のにーちゃんには悪いがこういう戯れをしたくなるのもしょうがないだろう。なにせ目の前ではネズミー社の代表者であるという初老の男性とスタンさんが隣り合って座っているのにバチバチと言い争い、対面に座るヤマギシ側の代表(として参加したうちの父ちゃんと母ちゃん)が何故かそれを仲裁しているのだ。

 

 なんでうちの父母がヤマギシの代表なのかというと、うちのオトンはヤマギシの海外渉外担当取締役だとかなんとかいう肩書を持っており、かつヤマギシとブラス家で共同出資した魔法エネルギー開発企業、ヤマギシブラスコの副社長でもあるのだ。更にうちのオカンはヤマギシ・ヤマギシブラスコ両社の法務部門で辣腕を振るう弁護士たちのドンであり、この二人が揃ってこの会議場に居るという事が今回のネズミーさん騒動でヤマギシがどんだけバチギレしてるかの意思表示になっている――らしい。

 

 この二人が揃っている理由は、今回の会談においてネズミーさん側がハジメの配役を継続する条件として、今後ネズミーさん側が映画出演を依頼する際は最優先で出演する、という条件を付けてきたからだ。この条件を提示された瞬間、欧州各地に魔力電池工場を建設するために飛び回っていた父さんと二郎の世話のために半分育児休業みたいな状態だった母さんが米国に飛んできたのだから、どれだけヤマギシ側がこの件を重要視しているのかが伺えるだろう。

 

 親子そろって偉い人の対面に座るって学校で悪い事して親を呼び出されたみたいで凄く気まずいとしか感じないのだが、この二人が居るという事、それ自体が意思表示になるからしょうがないのだ。と、一花が言っていた。そんな一花は母さんが連れてきた我が最愛の弟、二郎を預かるためという体でブラスさん家にお邪魔している。俺もそっちに行きたかった(恨み節)

 

 部屋の中の空気もどんどん悪くなっていくし、こんな場所に何時までも居られるか! こんな空気吸ってたら肺が壊死してしまいそうだ。

 

『エアコントロールは効いてるさ』

「違う、そうじゃない」

『「チガウチガウソウジャソウジャナーイ」って何言わせるんだ』

「言わせてねぇよ!? というかよくそんな古い日本の歌知ってるね」

『いや、この役のオファーが来た時に色々日本について調べたんだが日本の古い歌、めちゃめちゃ良くない? シティーポップとかよく動画サイトで再生してるよ! 四人囃子とか』

 

 酔拳のアレしか知らねぇよよく知ってるなそんな昔のバンド。あ、わかったこいつ愉快な黒人枠だな。エデ〇・マーフィーとかその系統のアレだ。見た感じ同年代か行っても20代くらいに思ってたんだが、もしかして結構年上の人かもしれん。

 

『いや、まだ30には行ってないぞ?』

「あ、それは失礼。ところでお名前お伺いしても?」

『そこからかい! 俺、レオナルド・ワンね。よろしく、はしない方が良いか! 俺らの場合だと』

「まぁ、役の奪い合いしてる間柄だからねぇ」

 

 互いに顔を見合わせて苦笑を浮かべる。ネズミー社側が用意したハジメ役の俳優である彼と俺は言ってみれば同じ役を巡るライバルだ。立場的に仲良くやろうね、とはちょっと言いにくい。

 

『えー、別にいいじゃん! 俺としてはね。正直、火中の栗みたいな役だし色々思うところはあるけどなんだかんだデカいチャンスだし。名前だけでも売れればって感じなんだよね』

「おー、現実的。なんか全然関係ない方向で大事になってるからねぇ」

『そうだねぇ』

 

 俺の言葉にワンさんが苦笑を浮かべながら頷いた。ハジメ役の交代に端を発した問題は、まるで予想もしてなかった方向にも飛び火している。多様性・包括性。LGBTQといった近年まれに世間を騒がせている概念の信奉者たちが、この騒動に嚙みつき始めたのだ。

 

 彼らはMSという作品は未完成であると主張し、配役変更により白人から黒人へと主人公を変える事によって完成を見ると声高に現状を批判した。それこそが正解で、これまでが間違っていると。

 

 ――もしかして俺いつの間にか白人にされてる?

 

『いや、単にあんだけ人気がある俳優がアジア人なわけないって考えてるだけでしょ。そういう人、結構いると思うよ』

「それはなんかもう色々と前提からおかしくありません???」

『米国だとそんなにおかしい事じゃないよ。それに君は、なんというかもう人種とか超えてる存在になってるじゃん』

「まぁエルフですからねぇ」

 

 現状だと人どころかでっかい妖精みたいなもんだからな。現状だと表を闊歩してるエルフなんて俺と二葉しかいないんだから、彼らの主張するマイノリティの極みみたいなもんだと思うんだけどね。

 

 実はその辺を結構いろいろなSNSで突っ込まれているみたいで、最近はハジメの配役変更じゃなくて魔法についての寡占状態をなんとかしろ、という主張に切り替わり始めているそうだが。ハジメの配役と冒険者協会への批判が=で繋げられるのは見ていて疑問に思ってしまう。

 

『そこは結構簡単な話だね。MSは世界冒険者協会の象徴というか、広告塔みたいなものだから。ハジメという存在は世界冒険者協会と密接に関わっていると見られてるんだ』

「え、そうなってるの!?」

『なんで当事者の君がそこまで力いっぱい疑問符を浮かべるのかな???』

 

 いや、だってその。正直言うと、スタンさんからお願いされてるから映画に出てる所あるから。そりゃ演じてるうちにハジメってキャラクターには愛着湧いてるけど我が分身、とかいう感覚はないんだよね。あれ、なんでネズミーの担当の人まで驚いてるの? 割とこれ公言してると思うんだけど。

 

 まぁ、とどのつまり俺自体は結構、今回の配役交代にはそこまで拒否感ないんだよね。スタンさんに悪いと思うから任されれば一生懸命演じるし、普段の生活でもハジメに恥じない人間で居ようって思ってるけど。

 

「だからネズミーさん側が今後も映画シリーズでハジメを演じたい場合はって色々条件を言ってくれてるけど、そこまでして演じ続けたいかって言うと違うんだよねぇ。ていうかこの条件、ネズミーさんが打診してきた映画全部に出ないといけないんでしょ? 無理無理。ダンジョンに潜れなくなるじゃん」

『普通、ダンジョンと映画出演でダンジョンを選ぶ人の方が少ないよ?』

「それは普通の話だろ」

 

 呆れたようなワンさんの言葉に、もしかしたら世間一般ではそうなんだろうな、という具合に頷きを返しておく。百歩譲って俳優や配信者としての姿の方が評価されているとしても、俺は、冒険者なんだよ。

 

 冒険者は、冒険するもんだ。そうだろ?

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