奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、244様、kuzuchi様ありがとうございます!

3が日更新できないかと思ったら何とかなった。
あと副題を付けてみました。どこどこの話ってのが分かりにくかったので。
ちょっと細かい話が続いて申し訳ない!




UA1万達成ありがとうございます!
リポップの方でステマしてごめんなさい()


第六十八話 魔法の右腕

『それではそろそろ本題に移りましょうか』

 

 

中身の無くなったティーカップを置いて、ケイティはそう切り出した。

 

 

『以前提案していた、奥多摩ダンジョンでの育成についてご相談させてください』

 

『ああ、米国の冒険者を次回の育成計画に加える件ですね』

 

『はい。奥多摩周辺で確保できる宿泊施設を上限に、各地から、魔法の修行を志す人員を集めて、数週間から数ヶ月、ブートキャンプを開いて欲しいのです』

 

 

なるほど。割と予想通りの内容だ。100人位は来るだろうなーとは予想していたからな。

 

 

『なるほど。所で何故ウチで行うのかお伺いしても?ウルフクリークのダンジョンは周囲も広く施設を新設すれば非常に便利だと思いますが』

 

『勿論ウルフクリークのダンジョン周囲も開発する予定ですが、それは今使えるわけではありません。その点奥多摩は環境が素晴らしい。施設もそうですが、何より管理者であり教官になるヤマギシチームは世界最先端の冒険者ですから』

 

 

それに大人数の教育の経験もある、と。なるほど、確かに現時点ではトップの環境だな。

他の冒険者が育ってくればまた違うかもしれんが。

 

 

『今はダンジョン上の宿舎は建設業者に貸し出してあるので・・・開くとしたら6月下旬以降でしょうね』

 

『なるほど。なら夏休みもありますし、7月1日以降で調整いたします』

 

『夏休み?学生も居るんですか?』

 

『そういえば今回のパーティーでも、冒険者側の参加者は学生が多かったなぁ』

 

『彼等は日本へ派遣する候補の冒険者達です。皆、優秀な冒険者の卵達ですよ。おバカさんが多いですが』

 

 

残念な事に女の子は少なかったがな。あとその。おバカさんの辺りでこちらを見るのは止めてほしいです。

 

 

『ダンジョンの存在を知って、退職してまで潜ろうという人間は少ないでしょう。ウィルのような学生を主体に失職している者、ニート、そして私のように生活に余裕のある夢追い人が主体です』

 

『ケイティちゃんって夢追い人って仕事なんだ?』

 

『ロマンチストとも言いますね』

 

 

沙織ちゃんの質問にケイティが笑いながら答える。多分冗談だと思ってるんだろうが沙織ちゃんは、本気で質問してると思うぞ?

まぁうちとしては人格に問題のある人で無ければ問題はない。そこら辺はケイティやウィルの目を信頼しよう。

 

 

『こちらとしては人選についてまでとやかく言う気はない。ただし、日本の常識で判断して、ダメだと思ったら容赦なく追放する。以後出入り禁止だ。いいな?』

 

『はい。わかりました』

 

 

ぎらりと目を光らせながら言った真一さんの言葉に、ケイティが強く頷いた。

小さな体が大きく見える。相変わらず気合の入ったケイティは凄い覇気だな。

 

 

 

 

夜になるとブラス家の面々が続々と帰ってきた。

ジョシュさんは大学のほうに用事があるらしく帰ってきてなかったが。

 

 

『今年は目出度い事が多い。孫娘の快癒に日本に新たな友人が出来た』

 

 

上機嫌なダニエル老はそう言って食前酒の入ったグラスを傾ける。

以前も夕食の招待を受けたが、相変わらず豪華過ぎて落ち着かない。

 

 

『所でミスター・シンイチ。ヤマギシとブラスコで新しい会社を作りたい』

 

『私にその権限はないので父との相談になりますね。内容をお伺いしても?』

 

 

美味しそうにグラスを傾けていたダニエル老が突然ぶっ込んで来たが真一さんは小首を傾げるだけで冷静に先を促した。

その様子にダニエル老やジュニア氏が楽しそうに笑みを浮かべる。

 

 

『なるほど。ミスター・キョージやミスター・イチローがリーダーと認めるだけはある。父がいきなりすまないね』

 

『いえ・・・それで、急なお話ですが我々に何を求めていて、ブラスコは何を我々に齎してくれるのか教えていただきたい』

 

 

ジュニア氏の言葉に真一さんは少しだけ笑顔を見せて質問を返した。

 

 

『メリット・デメリットの話の前に我々の内心を打ち明けよう。単刀直入に言えば我々は今後もエネルギー産業の雄で有り続けたいという思いと共に、ヤマギシという企業と組んでこの後の歴史を変える舞台に立ちたいと思っている。ああ、もちろんこれはミスター・キョージへの恩とは別に、企業としてのブラスコの判断だ。我々は、これからヤマギシが世界を変えるような存在になると確信している。エジソンのように、フォードのように、ゲイツのようにだ』

 

『成る程。我々の技術力と発展性をそこまで買って頂けているという事ですね』

 

『それと同時に脆弱性も知っているつもりだ。企業としての体力、人材の育成状況、そしてリスクヘッジの能力の欠如』

 

『ふむ。リスクヘッジですか?』

 

『これは極端な例だが、たとえば国籍不明のテロリストが奥多摩の工場を襲ったとして、君達はどういった対処が出来るかね?ヤマギシの現在の価値を考えればありえない話ではない。特に産油国は諸手を挙げて喜ぶだろうな』

 

『テロ・・・・・・』

 

 

ダニエル老のたとえ話に真一さんが言葉を失った。

一花とシャーロットさんは一瞬だけ瞬きをして互いに視線を見合わせる。計算でもしてるんだろうか。

まあ、考えなくても分かる。施設がぼろぼろにされて民間人の協力者が全滅。ヤマギシチームにも被害が出るだろう。

 

考慮の外にあった出来事を指摘されて真一さんも少し動揺しているようだ。

少し時間を稼ぐ必要があるかな?

余り口外したくない事なんだが・・・

 

 

『直接狙われるならどうとでも出来ますが施設を狙われると何も出来ないでしょうね。仰るとおりです』

 

『ふむ。我々の想定では恐らく人員も含めて全滅すると睨んでいるのだが、ミスター・イチローには別の予測があるのかな?』

 

 

ジュニア氏が訝しむ様にこちらを見るので、以前共闘した米軍部隊や訓練生を念頭において脳内で考えてみる。

 

 

『・・・まぁ、何とかなると思います。1km範囲なら殺意を持った相手は寝ていてもわかりますので』

 

『・・・・・・・・・それは、変身の魔法を使った後の話かい?』

 

『いえ?』

 

 

最近、右腕をスパイダーマンにしてなくても悪意や殺意を感知できるようになってきたんだよな。

スパイダーマンに変形できるようになってから何と言うか、直感のようなものが鋭くなった気はしていたのだが、使えば使うほどにそれが成長しているのだ。

流石にウェブの発射やらはできないが、使いこなしていくうちに・・・そう、何と言うか体が【馴染んで】きている感覚がある。

 

一花は熟練度と言っていた。恐らく右腕の変身はただ扱えるだけではなく使いこなせばこなすほどに化ける、と。

まぁ、その辺りの成長性については発表していない。下手に伝えればますます人外扱いされちまうしな。

 

・・・・・・ARMSやミギーを覚えたのを少しだけ後悔したのは内緒だ。あれらの熟練度を上げるとヤバイ気がする。

 

 

『・・・・・・ますます君に興味がわいてきたよ。ジェイ、お前の男を見る目は正しかったぞ!』

 

『ちょっ、パパ!』

 

 

なんでそこでジェイに話が飛ぶのか。まぁ、真一さんが持ち直したみたいだし向こうに握られっぱなしだった主導権は取り返せただろう。

余計なでしゃばりはここまでにして、後は頼もしいリーダーに任せるとするか。

 




魔法の右腕:恐らくまだ未完の魔法。完成形があるかもわからない。鈴木一郎の右腕を模しており魔力によって形を保っている。現在分かっている特性は【変形】と【変質】。変形は文字通り右腕の形と機能を変えること。変質は右腕に魔力を集めることにより魔法の発動を変質させる能力。また、使用者の体をその右腕の機能に合わせて上書きしていく。

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