奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第四百九話 初代様が一晩でやってくれました

 演技の際、自分を客観視して視るという技術がある。カメラからはどう見えるか、この映像を見た観客はどう見えるか。対象は様々であるが総じて自分以外の視点から自分を眺めるというものだ。

 

 これは。

 

 今目の前で行われているこれはその上位互換――いいや。それ以上の価値がある、経験だ。

 

「村ちゃん。あれが君の思い描く“俺”なんだな」

 

 目の前で殺陣をこなす“初代ライダー”

 

 それを演じるある意味で弟子ともいえる存在は、己が思い描く通りに初代ライダーを演じながら、更に他の観客が望む通りの動きをしている。観客は昭和ライダーほぼ全てが登場する漫画を描く漫画家で、俺たち本人よりも深くライダーという存在の動きを思い描くことが出来る人物だと自信を持って言える男だ。

 

 彼が頭の中で思い描く“ライダー”の動きを。闘いを、鈴木一郎は全くのロスなく受け取ることが出来る。彼の思い描くイメージを、そのまま、寸分の狂いもなく受け取って、自身の動きへと変換させることが出来る。ちょっとした余波や衝撃などのイメージすら映像化して、そしてそれらをこれまた寸分の狂いもなく演じる技術も、鈴木一郎は有している。

 

 演じる者である俺たちと、観客として眺める人間両方のイメージと願望を受け取り、咀嚼して、アウトプットすることが出来る技能を鈴木一郎は有している。

 

「こんなもんで良いですか?」

 

 相手のいない殺陣であるというのにまるで見えない怪人たちをの激戦を繰り広げたかのような姿で、一郎がそう尋ねてくる。想定した相手は一度共演したことのあるガラガランダだろう。奴の鞭を打ち付けられたかのような痛々しい傷が随所に見えている。イメージで行われた闘いであるというのに、そのダメージすらも再現することが出来るのだ。

 

 まるで実際の戦いがその場で行われたかのような姿に恐ろしさと。そして、それ以上の歓喜が胸を突き上げてくるのを感じた。

 

「ああ、ありがとう一郎」

 

 俺はまだまだライダーを極め切っていない。俺はまだまだ、巧くなれる。

 

「次は俺だ! ライダーパンチの魅せ方を考えていてな」

「いや、待ってくれ。空中戦は想像が難しいんだ。先に時間を」

「魅せ方であれば赤心少林拳を」

 

 一郎の演武を眺めていた仲間たちが口々に無茶を言い出して一郎と漫画家を困らせている。その姿を眺めながら、初代と呼ばれるライダーは笑みを零した。

 

 

 

 

 

 前回までのあらすじ。初代様が一晩でやってくれました。

 

「いや、流石にそれは尾ひれがつきすぎだろう」

「こっちの体感はそんな感じなんですがね」

 

 謙遜するように苦笑を浮かべる初代様にそう返事をすると、初代様は困ったかのようにぽりぽりと頬をかいた。俺の思念の伝達にもまるで驚かずにさも当然とばかりに受け止めている姿は流石数十人以上のヒーロー集団の初代様というべき貫禄だ。すごいなー、かっこいいなー。

 

 と考えているとぽかりと頭をはたかれる。

 

「俺がやったのは、元から進んでた話に口をきいただけだ。大した事はしてないよ。それに、お前からはちゃんと借りは返してもらったからな」

「半日ぶっつづけでライダーやるの疲れたっす」

「助かった。また頼むぞ。いや、本当に」

 

 そういって謙遜する初代様だが、その大したことがない話でヤマギシと世界冒険者協会は結構大きめな問題を軟着陸させることに成功した。まだまだ問題は多いが、一息つける状況になったのだ。ケイティ辺りは初代様に結構大きな借りを作ったと思ってるだろうな。

 

 初代様が何をやったかというと、簡単に言うなら東京の方の映画会社で現在進められている過去の特撮作品のリバイバルプロジェクトに口を利いてくれたのだ。数年前に撮影された新機軸による怪獣王に昨年俺も参加した初代様主演のライダー一号と東京の方の映画会社ではかつてのヒット作の現代版新解釈が当たりに当たっている。

 

 また、初代様をはじめライダーを演じていた俳優たちが中心となって特撮畑の俳優たちは多くが冒険者を兼業とする魔法使いになっており、特撮番組の質はここ数年、劇的なほどに向上している。このため過去の特撮番組を魔法技術を用いて今風にリバイバルしてはどうかという声が上がり始め、シン・特撮プロジェクトという形で東京の方の映画会社内で発足し準備が始まっていたらしい。

 

 ここまではMSとは全く関係がない。俺たちが関わってくるのはここからの話だ。

 

 まず、MSというコンテンツはマーブルとヤマギシとが権利を持つ存在だった。ここはちょっと複雑なんだがキャラクターの権利をヤマギシが、それらを商品化する権利をマーブルが持ってると思ってくれていい。

 

 で、今回。このMSの権利を持つヤマギシとマーブルの、というよりはマーブルの親会社であるネズミーさんとの間でキャラクター利用に関して問題が発生した。このため、ヤマギシはネズミーさん側のMSの利用を拒否したというのがネズミーさんとヤマギシとの会談の結果だ。

 

 で、それに待ったをかけたのがマーブルだ。MSはなんでも昨年マーブルのコミックで最も売れたコミックであり、完全に使用が出来なくなるのは業績不振につながる。その点を親会社であるネズミーさんにも全力で噛みついて、なんとかMSを利用する方法はないかとネズミーさんとヤマギシ両方に打診してきた。

 

 これに対してネズミーさんはヤマギシ側に責任があると口にしながら、マーブルの業績不振は看過できなかったらしい。他社による米国内での映像化・商品化は断固として反対するがそれ以外は制限しないと回答した。この回答までにスタンさんが連日ネズミーさんの本社に詰めかけたらしいがまぁその辺は割愛するとして、ネズミーさん側はマーブルにMSというコンテンツについてのほぼフリーハンドを与えた訳だ。

 

 じゃあその一つ前の話し合いの時にそのスタンスで居ろよって話だけど、ネズミーさん側の方がちょっと空気がおかしいみたいなんだよね。俺の専属雇用が無理になった段階でこの件はもう終わらせたいって、そんな感じになってるらしい。

 

 まぁネズミーさん側の事情はともかくとして、ここら辺で東京の方の映画会社が話に絡んでくる。実は、かつて東京の方の映画会社とマーブルはタッグを組んで特撮番組を撮影した事があったのだ!(ここ重要)

 

 東映版スパイダーマンと呼ばれるその作品は一部界隈でカルト的な人気を誇っており、当然リバイバルの声も上がっており今回のシン・特撮プロジェクトでも対象候補として挙げられていた。

 

 スパイダーマンは様々な権利が絡んでいる複雑なコンテンツであるが、過去作のリバイバルであるため新録するよりは話が通りやすい。そのため東京の方の映画会社は前々からマーブル側や権利を保有する他社と協議を重ねていて、それらはかなり前向きな結果を出していたらしいのだが。

 

 そんな状況下で初代様が東京の方の映画会社の偉い人に一言、こういったらしい。

 

 「今ならMSも撮れるよ」と。

 

 そして東京の方の映画会社は日本版スパイダーマンのリバイバルと合わせてMSというコンテンツの利用権をマーブルから貸与され、新作を作る権利を得たわけだ。この流れ全部、1週間もかからないうちに起こった出来事である。一晩どころか一言でやってくれましたと言っても過言じゃないのではなかろうか。いや、ない(断言)

 

「過言だろ。発案はスタン老だし」

「あ、そうなんですね。まぁスタンさんバチギレしてましたしね」

「俺だって結構ムカついたよ。なんせ今回の騒動でせっかくの役が消えちまった。久々のハリウッドだったんだがなぁ」

 

 だから自分の役を取り戻した、と。軽く言ってますけどそれ一介の役者が出来る事じゃ――いやよそう俺の勝手な予想で(ry

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