奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第四百十話 承太郎じゃあるまいし気軽に魂なんてかけないでほしい

『ネズミイイイイイィイィィィィ!!! ウワアアアアアァァァァアァァ!!!!』

 

 前略。米国で今もネズミー社相手に大立ち回りをしているお父さん。その隣で久しぶりの夫婦水入らずでツヤツヤの笑顔を浮かべながら対面した相手の顔を氷点下にしているお母さん。姉妹仲良くテキサスダンジョンの40層を開拓している一花、二葉。そしてマイスウィィトブラザー二郎。お兄ちゃんはもう限界です。

 

 広報部長室の部屋をバタンと閉じ、振り返る。そこに居並ぶげっそりとした顔の広報部員達が縋るような眼でこちらを見てくるが、いくら何でも俺にだって出来ないことくらいある。例えば己の推しが見るも無残に落ちていく様を異国から眺めるしかなかったシャーロット・オガワさんを鎮めるとかな。

 

「いや、マジでなんとかお願いします」

「部長、ネズミー社の発表を聞いてから発作が止まらなくて」

「いやー、キツいっす」

 

 あれ止めるくらいならタタリ神になった乙事主様を真正面から止める方がマシだって。

 

「というかいい機会だしシャーリーさんには溜まった有休を処理してもらうとかどうです? 自分の部屋にすらいつ戻ってるか分からないレベルのワーカーホリックだし」

「あー……その案に関しては私らも前向きに検討したいんですがね?」

「部長が機能不全してて引継ぎすらまともに出来ないんですわ。それさえできればなんとか、この場に居る全員と他の面々の魂にかけて部長に休暇押し付けるんで」

「ん、もしかして俺ダービー役やらされてる感じかな???」

 

 そんな承太郎じゃあるまいし気軽に魂なんてかけないでほしい。

 

 まぁ、しかしだ。シャーリーさんには本当に、ほんっっっとうにお世話になっている。なんなら今俺と恭二が生きて良い空気吸ってるのは、日本政府すら敵に回ったあの時にシャーリーさんが助けてくれたからと言っても過言ではない。

 

 そんなシャーリーさんが傷つき、嘆いている。その苦しみを少しでも和らげることが出来るなら、やれることは全部やってあげたい。その気持ちは、嘘じゃない。

 

「という訳で頼んだ。ピーター!」

『いや君が行けよ???』

「それは流石にないよイッチ」

「本当に男?」

「さすがにドン引きっすわ」

 

 この場面に最も相応しいだろう人物にすべてを託したら大ブーイングを喰らったでござる。解せぬ。

 

 

 

 

「それで正気を取り戻した私が言うのもなんですが、一郎さんはもう少し乙女心というものを理解してください。あんな状態でピーターに慰められるなんて……」

「あ、はい。すいやせん」

 

 半眼でこちらを見るシャーリーさんにただただ頭を下げる。いや、多分ピーター突入以外ではちょっと他に方法が見当たらないレベルだったんだが、という言葉はごくんと呑み込んでおく。こういう時、下手に言い訳じみた言葉を言うとより手痛い一撃が降りかかってくるのだ。長年妹とのやり取りで学んだ俺に死角はない。

 

 この場面で打つべき一手はただ一つ。

 

「とはいえ広報部の人たちも大分心配してましたからね。どうすか、これを機に。一度有休を消化してヤマギシチームで旅行にでも行きませんか?」

 

 全力で話を逸らす、である。

 

「……いえ、しかし仕事が」

「それはちゃんと広報部の人たちに割り振りましょう。たった一人が休んだら回らないなんて不健全ですって」

 

 と、たしかベンさんがヤマギシ警備保障の会議で言っていたのを思い出し、そのまま借用させてもらう。ベンさんはこの言葉通りヤマギシ警備保障の仕事を見事に整理し、毎週末は秋葉原で面白外人として過ごす日々を送っている。シャーリーさんだってベンさんに負けず劣らず有能な人だ。やろうと思えば広報部の体制を効率的に組み替え、余暇を作るくらいは出来るはず。

 

 それをやっていなかったのは確かにヤマギシという会社が忙しかったのもあるが、単純にシャーリーさん自身が仕事が好きなんだろう。そしてそんなシャーリーさんに俺たちも甘えていた所がある。だが、いまは違う!(ギュッ)

 

 シャーリーさんの有能さにおんぶにだっこだった状態から、ヤマギシは大きく成長した。広報部だって今では数十人を抱える魔く……部署になっている。シャーリーさんが一人抱えていたものを、今ならば複数人で支えることが出来るのだ。そう、今こそ働き方改革を推し進めるべきなのだ!

 

「あと、人事の人からいい加減シャーリーさんに休暇を取らせろとめちゃめちゃせっつかれてるんです。何故か俺が」

「あ、はい。ごめんなさい」

 

 人事の人曰く。シャーリーさんに休暇を取るよう伝えに行くと大体6割が広報部に入る前にUターンして残り4割がシャーリーさんに言い負かされてしまうらしい。広報部の部屋に入りたくない気持ちは大変良く分かるが、だからって俺に押し付けないでほしい。

 

 

 

 

 さて、米国から急いで帰ってきた理由の内、初代様の頼み事とシャーリーさんの気付けは無事終えることが出来た。2度目のテロを警戒して軍用機に便乗して帰ってきたのだが、例の連中の姿は影も形も無かったらしい。一度で良いって事なのか流石に米軍と構える気はないって事かね。またあの戦闘機上仁王立ちスタイル見たかったんだけど。まぁ特に困ってたシャーリーさんの錯乱は無事解決できたし良かったと思おう。マーブルやネズミー社とのやり取りは、基本的には広報の仕事だからな。

 

「助かりました。鈴木さんにはきちんとお礼を言わないと」

「あぁ、大丈夫ですよ。おとっつぁんもおかっつぁんも久しぶりに一緒に過ごせて喜んでましたし」

 

 二郎の顔を見れて父さんめちゃめちゃ嬉しそうだったから、むしろ仕事を振ってもらってよかったと思ってるかもしれない。シャーリーさんもそうだけど、うちのおとんももっと小まめに日本に帰ってこれるようにしてほしいところだ。

 

 ただ、父さんの場合欧州方面でも通用するビジネスマナーを持ってるのと俺の父親って肩書がけっこう便利なせいで中々代役を用意するのが難しいらしい。ケイティ、というか米国有数のエネルギー事業を抱えるブラスコの方でも父さんの代わりはいないそうだから、しばらくは今の状態が続きそうだ。

 

 たまには爺ちゃん含めて、一家そろって実家でのんびりしたいんだがなぁ。などと考えていると、plplとシャーリーさんの携帯電話が鳴り始める。そして、間を置かずに俺の携帯も音を立て始めたので画面を見ると、一花からの着信である。シャーリーさんの方は、どうやらケイティらしい。

 

 あ、アカンなこれ。めちゃめちゃ悪い予感がするけど取らなかったらもっとアカン気がする。た、助けてスパイダーマン!?

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