奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第四百十一話 ルイージではない

 一花からの連絡は、悪い情報と正直対応に困る情報ととても悪い情報を届けてくれた。

 

 まず悪い情報だ。イタリアの冒険者の一人マリオさんという人が逮捕された。彼はテロリストに魔法の技術が漏洩した経路であると怪しまれていた人なのだが、その後の捜査の結果漏洩元が彼である事が確定。彼には一回りほど年下の弟が居て、その弟に魔法の技術を教え込んでいたそうなのだが、その教えられた内容を弟から聞き出したイタリアマフィアが中東のテロリストに情報を流していたらしい。

 

 ちなみに弟さんの名前はカルメーロくんだそうな。ルイージではない。逮捕された理由はこの件についてではなく、この件を受けた彼の行動にある。

 

 弟が利用されたと聞いたマリオさんは責任を取ると言って帰国後、すぐに件のマフィアをたった一人で襲撃したという。彼は一人でMBT並の戦力に例えられる上位冒険者の中でも、更に上澄みである世界トップ200位以内の冒険者だ。それこそ相手も冒険者であるか特殊部隊並の戦力でもなければまともに相手にならないだろう。

 

 次に正直対応に困る情報。彼は普段から使っている冒険者用の装備で動画を撮影しながらマフィアへの襲撃を行い、抵抗するマフィアの構成員をほぼ全員半殺しにした後、マフィアのアジト内部を調べ上げてテロリストに関与した証拠を入手。それを持ったまま最寄りの警察署へ自首をする直前までの映像をネット経由で全世界に公開したのだ。

 

 公開された動画には恐怖の表情で銃を乱射するマフィア構成員を素手でズタボロにするマリオさんの姿が映されており、そのショッキングな内容から一種の恐怖動画として瞬く間に世界中へと拡散されてしまったらしい。

 

 一花曰く、ケイティはこの件を耳にした際、手に持っていたティーカップを落としてしまったらしい。冒険者に対するイメージ戦略とかがマフィア構成員みたいにズタボロになりかねないからそれはそうって感じだが、ようやくネズミーとの話し合いが一応の解決を見て落ち着いた瞬間にこれというのは流石に気の毒すぎる(小並感)。

 

 そして最後にとびきり悪い情報は――自首をして拘束されたマリオさんが、警察官によって暗殺されかけた事とそれに付随するイタリア国内の混乱だ。

 

 

 

 

「自首をした後、魔鉄で造られた魔法使い用の拘束具によって拘束されたマリオさんは、魔法使いを抑留するために作られた特別室のベッドの上に寝かされていました。身動き一つ出来ない状況の彼を、見回りと称して特別室に入り込んだ警官が彼に近づき頭に二発、心臓付近に3発の銃弾を撃ち込みました。そのうちの一発が目から脳へと突き抜け、マリオさんは致命的なダメージを受けたそうです」

「警察署内で警官が、ですよね?」

「ええ。マリオさんを抑えるために二名の上位冒険者が居ましたが、彼らも白昼堂々、しかも警官の制服を着た男が暗殺を試みるとは思わなかったのでしょう。怪しまれることなく近づいた警官は無造作に拳銃を取り出し、その場にいた冒険者が止める間もなく銃撃したそうです。一般人であればまず助からなかったでしょうね」

 

 俺にも分かりやすいようにシャーリーさんは、掻い摘んで事の経緯を説明してくれた。それを聞いて思ったことは、上位の冒険者ってマジで頑丈だなという事と、イタリアの腐敗が予想以上だという事だった。

 

 マリオさんに打ち込まれた銃弾の内、頭に当たった一つは頭蓋骨にはじかれ、胴体に当たった銃弾は3発とも筋肉で止められていたという。警官が使用した銃はバイオハザードなんかでよく目にするベレッタという銃で、銃の口径は9mm。至近距離から打ち込まれた銃弾の一つがたまたま目に当たっていなければほぼノーダメージだった可能性が高いらしい。そのたまたまの一発によってマリオさんは死にかけた訳だが。

 

 仮に上位の冒険者を一般の人間が殺害しようとする場合、ほぼ唯一と言っていい手段は相手の認識外から脳を破壊する事だろう。それもあってケイティやウィル等の暗殺を受ける可能性がある冒険者やヤマギシチームは常にバリアを使用しており、マリオさんも普段はそうしていた筈だ。

 

 だが、そのたまたまが外れた例外のタイミング。逮捕され、魔法を封じられたタイミングでの襲撃は、マリオさんを殺害するという意味では正に最高のタイミングだったわけだ。もし仮にその場に二人の冒険者が、しかもリザレクションを使用できる冒険者が居なければ、マリオさんは恐らく亡くなっていただろう。

 

 そしてこの件はこれだけでは終わらなかった。というよりは、ここからが更に悪くなると言うべきか。米国で俺が受けたように、冒険者という存在に対して声を上げる人間が最近増えてきており、イタリアにもそういった人達は存在した。冒険者利権に一噛み出来なかった財界人や、ダンジョン自体に懐疑的な目を向ける左派の知識人などだ。

 

 彼らはマリオさんの起こしたマフィアに対する暴行事件を声高に非難し、ダンジョンに関する法案の改正と世界冒険者協会及びヤマギシへの制裁を主張し始めた。マリオさんが暗殺されかけた件に関しては全く言及せず、彼がマフィアを襲撃した際に行った器物損壊や傷害、不法侵入に関してを幾度も訴えたのだ。

 

 間の悪い事にイタリアの政権は政治的に混乱状態であり、こういった動きに対処する事が出来ていなかった。まぁ右派と左派が連立してるなんてどう考えても水と油な状況だから仕方ないのだろうが。なんなら政権の一部もマリオさんを非難してるって言うんだからもうお察しである。

 

 そして、そこまで来たらまぁそうなるだろうというか、当然のように最初に声を上げたのはイタリアの冒険者たちだった。

 

 イタリアの冒険者たちにとってマリオさんは自分たちの誇り。世界と渡り合える自国のトップチームの一員だ。その一員が、やらかしたとはいえ誰の命も奪わずに終わらせ自ら警察に出頭したというのに暗殺されかけ、なおかつその事実をまるで無かったことのようにして責め立てられているのを見てどう考えるかは想像に難くない。

 

 また、上位の冒険者はその存在自体が国家や財界にとって大きな意味を成す存在だ。30層以降に潜れる冒険者というのはたった一日で億を稼ぐ力を持った存在であり、その恩恵に預かる人々はダンジョン関係者非関係者問わず多く存在する。それこそ国民の何割かってレベルで。それは冒険者たちを支援する者達や魔力を得るためにダンジョンに潜った、潜ろうとしている一般市民たち。千差万別であるが、決して小さくはない勢力だ。

 

 そして、イスラム過激派に魔法という戦略物資に匹敵する物を横流ししたという事を、非常に重要視する勢力がこの件に対して介入を決めたことが更に混乱を深めることになる。

 

 ローマ・カトリック。

 

 西欧社会に未だに強い影響力を持つ世界最大の宗教が、この件に言及し始めたのだ。

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