奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

405 / 406
誤字修正、244様ありがとうございます!


第四百十四話 草原の王(純愛派)

『我は草原の王。せんしよ、わがまちでくつろいでいくがよい』

 

 一花達と共にテキサスダンジョンの40層へ。転移室から出てすぐにある玉座の間に入ると、玉座に座る青年がそう声をかけてきた。

 

 すごいな。最初の自己紹介以外全部棒読みじゃん。

 

「凄いでしょ。一応なんどか話しかけてるんだけど、全部こんな感じで棒だし」

『我は草原の王。せんしょ……せんしよ。なにかといたいことがあるのか?』

「稀に良く噛むんだよね」

「いや草」

 

 草原だけにな。ひくひくと頬を引きつらせながらも、草原の王を名乗る青年が頑張って言葉を紡いでいるのを眺めながら二葉を見ると、ん? と怪訝そうに二葉がこちらに視線を向けてくる。多分アレが素だったんだろうが、目の前の青年の大根役者っぷりとかつての二葉を比べると雲泥の差すぎるだろう。実力で選んでるってのはわかるがもうちょっと配役考えろよダンジョンの奥に居る奴。

 

「普通に話しても良いと思うぞ?」

『我は草原の王。わがまちのことならなんでもきくがいい』

「……普通に話しても良いと思うぞ?」

『我は! 草原の王!! わがまちのことならなんでもきくがいい!!!』

 

 余りにも居た堪れなかったので普通に話してみたらと提案してみたのだが、返ってきたのはハンコで押されたような定型文だ。あ、これはアレか。マジで定型の会話しか許可されてない感じかな。めちゃめちゃ何か言いたそうな表情だし。でも戦ってた時は結構色々と会話できたって聞いたんだが……もしかして40層解放後は振られた役割通りの反応しか返せないとか?

 

 仕事が雑いぞ、ダンジョンの奥に居る奴。

 

『弟、流石に可哀そうになってきた。なんとかならんか?』

「いやぁ、なんとかって言われてもですねぇ」

 

 憐れむような表情の二葉にそう促されるも、二葉の時とは大分状況が違うしなぁ。とりあえずキーブレードぶっ刺してみるか?

 

 

 

 

『とりあえずで剣を刺すのがお前らの流儀なのか?』

「いやすまんかった」

 

 先ほどまでの大根役者ぶりが嘘のように流ちょうに話す草原の王に真顔で詰められた。正直申し訳ないと思ってる。

 

 いや、キーブレードすげぇわ。二葉の時とは状況が全然違うからなんとかなるとは思ってなかった。

 

『とはいえ我々の時とは違い、行動の自由を取り戻せたくらいのようだがな。こちらの国でも40層を自由に差配できれば弟の権威も万全となっただろうに』

「二葉の時とは状況が違うしなぁ。キーブレードを軸にして草原の王周りを書き換える感じだから、元からそういう風に作られてる所までは弄れないんよ」

『我らとしては十分すぎるほどの恩だ。鍵剣の偉大なる戦士、そして我が妃達よ。この恩は必ず返すぞ』

「は??????? だれがだれの妃だっつったお前???????」

「お兄ちゃん、ステイ。ステイ」

 

 腕を組み、うんうんと世迷言を宣う草原の王(自称)に詰め寄ろうとすると、一花が腕の袖をつかんで静止してくる。分かってる、俺は冷静だ妹よ。だが手を放せ! こいつ殺せないだろ!

 

「殺すなて。なんか私らが勝った時もそんな事言ってたけど、そっちの部族は殺しあった相手を妻にするとかそんな蛮族チックな感じなのかな?」

『草原では弱ければ死あるのみ。故に強いものは男女の別なく尊敬を向けられる。王は部族で最も強いものの称号。その王たる俺に打ち勝ったお前たちは我らの王となるか王の妻となる権利を得られるのだ』

「どっちもパスで。というかそういうのはチームのリーダーやってたケイティに言ってもらっていいかな?」

『あの金髪は相手が居るのだろう。匂いで分かる。相手が居るものを奪う悪趣味を、我はもたん。純愛じゃよ、純愛』

「私も好きな相手が居るんだけど???ええ????」

「一花、ステイ。ステイ」

 

 草原の王(純愛派)に詰め寄ろうとする一花の腕の袖をつかんで静止する。匂いってなんだよと突っ込みしたいが、なんかそこは聞かない方が良いってピーター・パーカーが内部で叫んでるからいったん飲み込んでおくとして。

 

 いややっぱり飲み込めないわ。え、つまりあれか。もしかしてまさかまさかのあの野郎ケイティに手を? 沙織ちゃんという正統派幼馴染美少女が居ながら???

 

「お兄ちゃんが女性関連でそこまで発狂するの、さお姉だけだよね」

「そそそそそそんなことはななななないからららら?」

 

 一花の言葉におれはしょうきにもどった。ま、まぁ恭二も沙織ちゃんももう大人だし、ケイティに至っては俺らより年上だしな。初対面の時はちょっと大人っぽい中学生にしか見えなかったけど、恭二のリザレクションを受けてからは疾患も治って急成長。今だと高校生くらいに見えるくらい大人になったし恭二と歩いてても犯罪臭はそれほど感じないし。

 

 ダメだな。一方的に切れる理由が思い当たらない。この件は恭二と会ったとき顔面にグーパンしてからきっちりと話し合おう。

 

 あと草原の王(自称)くん。お前もグーパンな。うちの妹に手を出したいならとりあえず俺を超えてもらおうか(憤怒)

 

 

 

 

 さて、40層にキーブレードぶっ刺したとはいえ現状できることは変わらない。玉座に縛られなくなった草原の王(自称)がやたらと広い40層のあちらこちらに出没するようになったくらいか。これで装備品の一括換金が出来るようになれば日本のダンジョンの『そうあれかし』状況が改善できると思ったのだが。横島なんて数か月あのカカシのままだぞ。

 

 他にテキサスダンジョンの違いはというと、奥多摩よりもひたすら広い、だろうか。それこそ奥多摩ダンジョンの十倍近い広大なフィールドは、日本と米国の土地の広さを表しているみたいで少し面白い。

 

 ここの40層も持ち込んだ物が消えないセーフゾーンのようだから、ケイティ及びブラス家はこのテキサスダンジョン40層を開拓して大規模な採掘拠点を作り、ゆくゆくは町にまで発展させたいそうだ。

 

 40層が攻略されれば魔樹の伐採は格段に楽になる。現在は時価でしか取り扱われない魔樹も、これからは一気に値段が落ち着いてくるだろう。

 

 それはいい。それは良いのだが。

 

「まさかここまで明確に違うとはなぁ」

 

 不測の事態を考え、俺が合流できるまでは偵察も行わなかったテキサスダンジョンの41層。そこに足を踏み入れた俺たちは、視界を埋め尽くす荒野とその中に敷かれた一本のレンガ道を前に立ちすくんでいた。

 

 海じゃないんかい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。