奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、244様ありがとうございます!


第七十四話 マスターイチカ

さて、今回の教習で特に念入りに教える予定の魔法がいくつかあるが、その中でもダントツで優先的に覚えるよう義務付けられた魔法がある。

それはバリアとアンチマジックだ。

 

 

「この二つを完璧に覚えるまで他の魔法はさせないからね!」

 

「「はい!」」

 

 

マスターイチカの言葉に班員が大きな声で返事を返す。

一花の教え方はまず、実際に使ってみせ、どのような効果があるか、という所から説明する。

 

協力的なアメリカ代表の一人にバリアを張り、体格のあるドイツ代表の男性に彼に殴りかかってもらい結果がどうなるか。

自身にアンチマジックを張り、攻撃魔法が使えるというイタリア代表の女性に魔法を撃って貰ってどうなるかを実際に見せて、この二つは必ず覚えなければいけない。

と、念押しのようにもう一度繰り返す。

 

この一連のやり取りで真剣度が上がったDチームの面々に、一花はまず全員にバリアをかけ、互いに殴り合ってみるよう伝えた。

 

 

「まずは恩恵を受けて、どんな魔法かから認識しないとね!」

 

 

ある程度時間が立った後に、各自にキャンセルの魔法をかけてバリアを完全に解除した後、それぞれにバリアがどういった魔法だったのかヒアリングを行い各自の魔法に対する認識を把握。

この辺りで早い人はすでにバリアを使えるようになる。

 

まだ使えない人には再度バリアを張り、こんどはバリア展開中にどんな感覚なのか意識してもらい、数回殴り合った後にもう一度キャンセルを行う。

 

これらを3、4回繰り返す内に、全員がバリアを覚えてしまった。

そしてバリアを覚えてしまえばアンチマジックは簡単で、今度はそれほど時間を使わずにアンチマジックも全員がB判定となり必須項目の二つをたったの二時間で全員が覚えてしまった。

 

 

「皆ウィルよりも覚えが良かったよ!」

 

『耳が痛いなぁ』

 

 

殆ど半分が最初からバリアを使えたAチームもまだ終わってない時間に本日分の教習を終わらせた一花に、ウィルも苦笑で返すしかない。

そしてその事実に気付かされたDチームの面々の一花に対する眼差しが凄い。

 

 

『流石はマスターイチカ!やっぱり凄い!可愛い!』

 

『ふぉっふぉっふぉっ。それほどでもある』

 

『あ、あの。私もマスターとお呼びしても?』

 

『私は一向に構わんっ!』

 

 

調子に乗っている一花はあれよあれよとDチームのメンバーにマスターと呼ばれ始めた。

まぁ、お前さんらがそれで良いなら良いんだけどな。

戻ってきた他のチームの奴からどう見えてるかは考えた方が良いと思うぞ?

 

 

 

その後も大きな問題はなく、次の日も午前・午後に分けて魔法の訓練を行い、三日も掛からずに全員が基礎的な魔法を習得する事ができた。

 

因みにキュアはこの基礎的な魔法には含まれていないのだが、三日目の午前には全員が予定の魔法を覚えてしまった為、午後に一花がまだキュアが出来ない人物を全員集め、封印された荒行【一花式ブートキャンプ】を使えば数時間で覚えられるかも、と中二心を擽る声音で唆す。

 

態々血判状でどんな苦行にも文句は言わないと念押しさせて、一花は恭二を連れてきた。

 

 

「いや、マジでやるのか?」

 

「うん。恭兄もオーケーって言ったでしょ?」

 

「人に向けてやる事は予想外だったけどな!」

 

 

ヤケ糞気味に応える恭二の姿に嫌な予感が背筋を走る。

俺、実演やらされるんだけど何をされるんだ?

 

 

「生贄の羊がお前か。なら遠慮はいらねーけどよ」

 

「いや遠慮しろよ。一花、一花さん?」

 

「はい、じゃーキュアの練習に必要不可欠な状態異常をまずは学ぼうね!恭兄、お願い!」

 

「あいよ。ポイズン!」

 

 

恭二が呪文を唱えると、毒々しい色をした緑色の水球が恭二の前に現れる。

どよめく周囲を尻目に、一花がジェスチャーで左手を入れろと指示を出してくる。

ヤバい、今すぐ逃げたい。

 

 

「・・・ええいままよ!キュア!」

 

 

右手にキュアを発動させて、勢い良くポイズンの魔法に左手を突っ込む。

まず襲ってきたのは猛烈な気怠さと頭痛だった。

すぐさま左手を抜き取り、キュアを宿した右手で頭と左手に触れる。

 

 

「うぉえええ!」

 

 

必死に吐き気を堪えながらキュアを体に当て続け、何とかまともに呼吸が出来るようになった俺は、恭二を睨みつけた。

 

 

「おい!テメーこれ、マジヤバいぞ!なんだこれ!?」

 

「命に別状はない位の強さにしてある。ナイスファイト!」

 

「やかましいわ!」

 

 

凄くイイ笑顔で親指を立てる恭二に悪態をつく。

こいつ、この魔法覚えたら絶対にチャージバスターでぶつけてやる。

 

 

「今見た通り、擬似的に病気の状態にする魔法だから安心して!じゃあ早速行ってみよー!」

 

 

笑顔で死刑宣告を告げる一花に青い顔を浮かべる20名強の冒険者達。

簡単に血判状なんかにサインをした自らの若さを恨むと良い。

 

若干の八つ当たりを含めてその後の進行に協力(力尽く)して、結果本当に二時間もしない内に全ての人員がキュアを覚える事が出来た。

 

そして、全ての冒険者に【マスターイチカ】の名前を刻みつけ、今回の魔法講義は終了。

 

これからは実技と体術訓練になる為一花と接する機会は少なくなったが、この訓練に参加した冒険者は彼女の前に来たら必ず最敬礼をするようになり、各支部の随伴員達にまで畏怖されるようになった。

 

 

「あれ?間違ったかな?」

 

「(加減を)間違ったんですね、わかります」

 

 

思っていた反応と違ったのか首を傾げる一花の頭を、俺は優しく撫でた。

 




ポイズン:相手を病気にする魔法。強弱が調整でき、軽ければ風邪程度、強ければ腐食させることも可能。

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