奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、日向@様、kuzuchi様ありがとうございました!


第七十七話 ダンジョン訓練前夜

さて、考察にかまけてばかりいるように見えるが教習もきちんと進んでいる。

最低限、10層突破までに必要な魔法を覚え、体術を磨く時間も作った。

教官陣は次のステップに移る準備が出来たと判断し、各国のリーダーを招集する。

 

 

「明日から実際にダンジョン突破に挑戦する事になる。それに際して、注意事項を説明する。ああ、楽にして聞いてくれ。大した事じゃない」

 

 

真一さんの通達に各国のリーダーが姿勢を正す。が、その様子に苦笑を浮かべて真一さんはそう言った。

 

 

「まず、どういった形で行うかを説明する。メンバーは5名に誘導員1名の6人編成。誘導員は基本的に自衛以外の行動は行わないが、先に進む道筋はこの誘導員が教えてくれる。リーダーはその時の誘導員と良く話し合ってどこまで進むか、どこで引き返すかを判断してくれ」

 

『という事は、基本的には5名の仲間でダンジョンアタックをするという事ですか』

 

「その通り。少なくとも現在の実力ならば10層まで到達できる下地はもう出来ている。後はそれを使いこなす段階だ」

 

 

ロシア代表のセルゲイさんの質問に真一さんは頷いてそう答えた。

少なくとも彼らは初めて俺達が10層まで到達したときよりも恵まれた環境に居る。

後は身につけた技能を適所で使いこなせれば問題なく10層まで到達できるはずだ。

 

 

「ああ、人数は5名だが、基本的に班員はランダムに決まる。これは固定のメンバー以外と組む可能性も考慮に入れての事だ」

 

『成る程。つまり、翻訳魔法は常に意識して使わなければいけないのですね』

 

「そうだ。特にリーダー格である君達は常に指示を飛ばせる状態でなければならない。これも評価に含まれると思ってくれ」

 

 

評価、という言葉に各国代表の目が真剣みを増した。

他の代表メンバーと違い、彼らはその国の冒険者のリーダー、つまり顔になる事を見込まれてここに来ている。

他の代表候補より少しでも高い評価を得なければいけない立場なのだ。

そして、今回はそれだけではない。

イギリス代表のオリバーさんが手を上げて質問をする。

 

 

『失礼。是非確認させていただきたい事があります』

 

「どうぞ」

 

『では・・・この、今回のブートキャンプの参加者は評価によってはヤマギシチームに編入される、という話は本当でしょうか』

 

「非常に優秀な成績を残した方はヤマギシチームに参加してもらうかもしれません。永続的に、という話ではなく数ヶ月の範囲ですが」

 

 

真一さんのその言葉に室内がどよめいた。

因みに、これは2名ほどの予定で、参加者が望んだ場合のみ、と協会内では話がついている。

ヤマギシが望んだ事ではないので真一さんの対応は淡白極まるが、俺としては浩二さん達のように仲間が増えるようで少し楽しみだ。

今回の参加者は皆年齢が近いせいもあるのか、前回の自衛隊・米軍合同キャンプの時よりも仲良くなった人が多いしね。

 

ざわつく室内を尻目に、話が終わった真一さんが「では、班分けはまた明日」とさっさと部屋から出て行った。

真一さん的には数ヶ月だけ、ってのが気に入らないみたいなんだよな。

育ったらはいさよならってか、と憤慨してたし。

まぁ、うちに所属したって経歴をつけて自国の冒険者に箔を付けたいんだろうとは思うけど。そんな思惑とかは抜きに仲良くしたいしね。

 

 

『皆と一緒に潜れる日を楽しみにしてるよ!でも今はそれよりご飯の時間だ。早く行かないとご飯なくなっちゃうよ?』

 

 

部屋を出る前に親指を立ててそう言うと、ざわついていた室内が穏やかな空気に戻った。

くいくいと親指を動かすとセルゲイさんがのそり、と立ち上がった。

 

 

『腹が減っては戦はできぬ、だったか?』

 

『そうそう。よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。これ俺の座右の銘ね』

 

『ドラゴンボールじゃねぇか!』

 

 

アメリカ代表の愛すべき馬鹿1号、デビッドがちょっとテンション上げてる。もしかしてドラゴンボール好きかい?俺もだよ。

俺の言いたい事が伝わったのか、眉間に皺を寄せていたオリバーさんやフランス代表のファビアンさんも苦笑して席を立った。

まぁ、競い合うなんて昼間になんぼでも出来るんだから今は仲良く行こうぜ?

 

 

 

幸いにして飯を食いっぱぐれる事も無く俺達は無事食堂で夕飯にありつく事が出来た。

ここの料理、雇ってるシェフの腕が良い上に色んな国の食事が楽しめるからよく使ってるんだよね。

うん、流石はフレンチ。めちゃ美味いわ。

 

俺が1人ばくばくと食べ続ける中、各国の代表はそれぞれがテーブルを占有して明日についてのミーティングを行っている。

あちらこちらからどよめきの声と俺をちらちら見る視線があるから、ヤマギシへの参加がやっぱりトレンドなのかねぇ。

 

 

『なぁ、イッチ。これって俺達でもありえるのか?』

 

『優秀な成績って話だから特に制限は無いな。本当に結果で選ぶみたいよ』

 

『どっちにしろ俺とジェイは無理だな。本国を更に数ヶ月も離れるなんて出来ないし』

 

『そういう人は辞退して他に回しても良いってさ』

 

 

アメリカチームだとジェイが最有力になるんだが、ブラス家の人間は多忙だからなぁ・・・

ケイティは何か怪しいけど、流石に学校に通っているジェイとジョシュさんは無理だろう。

 

 

「俺たちも無理や。地元のダンジョンを少しでも潜らないかんけん」

 

『昭夫くん、翻訳翻訳』

 

『あ、ごめんなさい。僕達も地元からあんまり離れられないんですよね。やっぱり、期待というかなんというか』

 

 

ここの食堂では基本的に翻訳魔法を使う事になっている。暗黙のルール的な物だが、やっぱり言葉が通じる・通じないってのは結構大きな心理的障害になるからね。

特に今回は8カ国の人間が一同に集まっているから、トラブルの種は少しでも減らそう、という彼らの自助努力の一つだ。

後、翻訳魔法使うと訛りが酷くても標準語に聞こえるらしい。ネットスラングは普通に使えるのに面白い効果だ。

 

地元、という単語に結構な数の人間の視線が落ちる。やっぱり地元を離れて、となると色々大変だろうしね。

特に今回のように地元の期待を背負ってきている人が更に延長しました、というのは難しそうだ。

 

 

『あー、その。その人数はもう決まってるのか?ウィルとキャサリン嬢が含まれるんなら正直3人以上じゃないとキツいんだが』

 

『その二人を含まないで最低2名。って言ったらやる気出る?』

 

『出るねぇ』

 

 

彼らにとってウィルとケイティは完全にヤマギシと同じ教官枠なんだろうな。魔法の訓練とか代役になったりしてたし。

地元という単語で視線を落としていた面々も再び顔を上げてやる気に満ちているみたいだし良い感じの燃料になっただろう。

願わくば「皆優秀だから多めに取る!」くらい真一さんに言わせる結果にしたいね。

 




デビッド:アメリカ代表。愛すべき馬鹿1号。魔法も格闘技もそつなくこなせるためアメリカ代表のリーダー格を担っている。実力的な問題で悪目立ちしかねないジェイやジョシュさんを上手くチームに取り込んだ調整能力は中々のもの。

ファビアンさん:フランス代表。外見は10台の優男だが、初対面で全員を前にメルシー!と大きな声で言い放つなど結構な強心臓の持ち主。

昭夫くん:日本代表の1人。博多に住んでいるらしく、初日にヤマギシビル1階のラーメン屋で「ラーメン!」と注文をして何のラーメンか聞かれ、「ラーメンと頼んだらとんこつがでてくるのが当たり前だと思っていた」と顔を真っ赤にして語っていた。割と自爆芸が多い人気者。

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