奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、ハクオロ様、244様、kuzuchi様いつもありがとうございます!


第八十五話 臨時冒険者(女性のみ)

「はい、では皆さんバットはお持ちになりましたか?」

「「「はい!」」」

「ではバリアとアンチマジックをかけますので一列に並んでお待ちください」

「「「はい!」」」

 

御神苗さんの言葉に10名並んだお姉さま方が気合の入った声で返事を返した。

彼女達10名は冒険者協会主催のダンジョン探索ツアーに参加した『臨時』冒険者達だ。

ダンジョンにはいる免許は勿論所持していない為教官か2種免許持ちの人物と一緒でないとダンジョンに入る事はできない、一種免許すら持っていない。普段はまったく別の仕事をしていたり家庭を持っている人物達ばかりが10名。

これから2時間の間に2種以上の冒険者1名に1種免許もちの冒険者4名で彼女達をガードしながら彼らは2時間ほどかけて5層まで潜り、その間に全員が魔力200まで数値を上げる。

これが冒険者協会が増えた魔石需要に答える為に行った施策だ。

 

これを1日に4回、全国でも2種以上の冒険者が居るダンジョン5箇所で開催している。

つまり、1日に200名が魔力200以上になる計算だ。土日しか来れないって人も居るだろうし毎日だ。

うん、わかってる。全然足りないって事は。平行して2種免許もちの教育もしているがまるで足りてない現状だ。

何せ協会から政府に働きかけて、自衛官の2種持ちまで借り出している状況だからな。

 

ただこの200名を選ぶ際に、冒険者協会は一工夫入れてある。これが原因で、当初思っていたよりも反発は少なくなっている。

その一工夫は、「特別感」だ。

 

 

 

「入りたいって言うんなら皆冒険者にしちまえばいいんだよ」

 

そう言う俺にケイティは目をぱちくりと動かして、次に首を横に振った。

 

「ソレ、駄目デス。ダンジョン危ナイ、リスク高スギ、デス。教育、時間足リナイ」

「まあ、勿論1から教育なんてする気はないよ。でも5層までなら2種免許もちなら足手まとい付きでも潜れるだろ?」

「ソノ人数、足リマセン!」

「まあ、聞いてくれ。まず、魔力200になるの自体は5層まで潜れば普通達成する。ダンジョンの中を歩くだけでもそこそこ増えるしな」

 

そもそもダンジョンに潜れる人数が居ない為に頭を悩ませているケイティは若干言葉を荒らげるも、俺も何も考えなしで提案しているわけじゃない。

教える人数、潜れる人数が足りてないからこんな問題になっている。この人材不足は需要に対して供給が間に合ってないから起こっているのだ。

なら、供給が間に合うまで待ってもらうしかない。その為にどう納得させるかが大事な所になる。

真面目にやったって絶対に人手不足なのは変わらないんだからな。

 

「最初に最低限の供給の数字を出すんだ。現在、国内で2種以上の冒険者を抱えるダンジョンは奥多摩、黒尾、西伊豆、大宰府の4箇所。これは流石に少なすぎるから京都も追加して5箇所で、毎日朝2回、夜2回の計4回。10名の人員に2種以上の冒険者1人に1種冒険者を4名のパーティーで護衛する」

『・・・切り替えます。続けてください』

 

翻訳の魔法を発動させてケイティが真剣な表情でこちらを見る。

聞いてくれる態勢になったらしい。ここ最近、日本語の勉強の為に翻訳を切ってる状況でずっと接してたから違和感がすげぇな。

 

『なら俺も翻訳で。1種を持ってる人は結構な数居るしバリアやアンチマジックがあれば5層までで危険になる事はまずありえない。2種免持ちは必ず1層ごとにバリアとアンチマジックを張り替える係、他の4名は主にピンチになったら助けに入る係で、1人で2、3人面倒を見てもらう』

『・・・・・・一つのダンジョンで日に4回・・・・・・2種持ちが3名居れば休みの日を挟みながら・・・・・・自衛隊に協力を要請すれば確かに出来ない事はないでしょう。しかし200名は少なすぎる。それに冒険者の数が足りない他国では』

『まず、俺は日本の解決策から伝えてある。事情を知らない他国の事までは流石に助言できないよ』

 

そう言ってケイティにまず前提が違う事を伝える。

世界冒険者協会の幹部であるケイティと俺とでは視点も持ってる情報も違うからな。

ただ、恐らくこの方法は規模や人数こそ変われど何処の国でも出来ると思う。

 

『で、ここからが肝心なんだが。例えばくじ引きをしたときにそのくじが外れたとして、何で外したんだって怒鳴り込む相手をケイティはどう思う?』

『軽蔑します』

『お、おう』

 

即答で返されて思わず言葉が止まってしまった。

翻訳で会話するときのケイティは、その。可愛らしさ成分が全部男らしさとか、潔さみたいなパラメーターに変換されてて非常にカッコいいんだが・・・

うん、この果断さ、嫌いじゃないんだけど戸惑うわ。

 

『まあ、兎も角。自身の運が悪い事を声高に宣伝するような真似になるわけだな。で、そのくじを使って順番を決めたりするのが世の中にはあるんだよね』

『・・・・・・ああ!抽選と言う事ですか!』

『そそ。毎日200名。必ず選ばれる中に入れなかったのは運が悪かったから。でも一度選ばれた人物は再度抽選されないからいつか必ず入れる。そして時間を稼いだ間に2種免許もちを増やす事が出来れば入る時間や入れるダンジョンも増えるよな?』

『この200名のうちにそのまま冒険者になると考える人がいるかもしれない。そうなれば冒険者の総数の底上げにもなるし、何より民意が!ほぼ全ての女性が冒険者を経験した、言わば冒険者予備軍になる!凄いチャンスになります!』

『まぁ、抽選の方法やすっごい身勝手な人は何の根拠も無く特別扱いを求めてきたりするからトラブルはあると思うけどね』

 

そこら辺は普通のクレーマーとかと同じ扱いでいいだろう。一々相手にするだけ無駄だしな。

俺の言葉にケイティは頷いて、早速携帯電話を取り出した。

程なく全世界の冒険者協会のHPに『臨時冒険者登録フォーム』が設けられ、またサーバーが落ちたのは・・・まぁ、しょうがないだろう。


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