「大変そうだな」
『大変どころじゃなかとよ!』
太宰府ダンジョンの昭夫くんからの久しぶりの連絡は、愚痴と悲鳴が混じった物だった。
最早バブルと言っても過言じゃない熱狂的な魔石需要の中、九州最強の冒険者である彼に暇な日なんて存在しない。高校に通いながら後進の育成を行って居たところにいきなり来たこの魔石需要の嵐。ここ最近は学校側が公休扱いで、プリント等で家で勉強をしながらダンジョンで臨時冒険者達を指導しているらしい。
そこまでは良い。元々彼は大家族の長男で、苦しい家計を支える為にダンジョンに潜っていた。今回の需要増は確かにキツいが、最悪学校を辞めてでもお金を得る為に頑張る。と。
ただ、幼さの残る整った顔立ちの彼が、九州のお姉様方の心を鷲掴みにしてしまったのが問題らしい。
「爆発しちまえ」
『何ばいいよっと!?』
ファン倶楽部ってなんだ。冒険者の仲間から愚痴を聞いてたと思ったら急にアイドルになりました、とか意味わからんのだが。
今日も昼にコンビニで弁当を買おうとしたら臨時冒険者のお姉様方にお弁当を分けてもらったらしい。
しかも手作りだとか。何それ羨まし過ぎるだろう。
ネットの方を見ると、なんと非公式のファンサイトまで存在した。
基本潜っている時以外は昭夫くんもダンジョン前の事務所に詰めているらしいから遭遇する可能性も高いし、下手な地下アイドルよりもアイドルらしい顔立ちと相まって口コミで人気上昇中なんだとか。
「いや、それならヤマギシチームみんなファン倶楽部あるじゃん」
「嘘だろおい」
「一番会員多いのお兄ちゃんだよ?次がさお姉で、その次が真一さん!」
何それ初耳なんだけど。
と言っても勿論公式の物ではなく、非公式なファン倶楽部らしい。らしい、というのは一応ヤマギシにファン倶楽部を作って良いか問い合わせがあった際に許可をしたので、公式にヤマギシが関与している訳ではないが、事実上黙認している、というややこしい存在なのだそうだ。
「だってお兄ちゃんも恭二兄も絶対嫌がるでしょ?」
妹に思考回路を完全に見透かされてるんだが。
「まぁ、でも今回の昭夫くんの件は渡りに船かもね!」
「ハイ。昭夫、カワイイ。人気出ル分カッテタ」
「ここらで冒険者個々人の人気アップを図るのも手かも?今は、冒険者=ヤマギシチームだから、良くも悪くもヤマギシの皆にしかスポットが当たってないけど・・・」
「人気出ル。認メラレル。名誉アル仕事、ナリマス!」
名誉ある仕事か。
例えば子供の頃になりたい職業を聞かれたとき。パイロットや医者といった名前の中に冒険者という言葉が入るようになれば、って事だろうな。
一度そうやって認められてしまえば、そう簡単にその評価を貶められる事もなくなるだろう。
「どんな分野にも第一人者や著名な人物は居ます。今まではヤマギシが。そしてケイティやウィルが続いて、更に昭夫君。成る程、確かに攻め時かもしれません」
「なんか支援した方がいいかな?」
「ファン倶楽部、接触シテミル、ヤリマス!」
元々報道関係者で、広報の担当もしているシャーロットさんが頷いた為に一気に話が進んだな。
この過程に昭夫くんの意思が反映されてないのは可哀想だが。女性ばっかりにちやほやされてる以上同情はしない。
ただ、家族にまで迷惑が行かないように気遣いはしとくよう伝えておこう。
「なんて言ってたら福岡に来ちまったぜ」
「連れてきちまったぜ!」
イラッと来たので一花の頭の上にカバンを乗せる。
というか、このカバンもこいつの私物だ。やたら重かったけど何が入っとるんだ?
『ハハハ!本当に仲が良いな君たちは!ボス、そろそろ合流時間ですよ』
「おっけー。ありがとうジャン」
『いえいえ。太宰府ですか、楽しみです』
重い荷物といえばこの人もだ。
今回、引率役代わりに俺達についてきた撮影班のジャンさんもやたらと重そうなカバンやバッグをストレングスまで使って持ち運んでる。
この人も例の魔力測定器でエラーを出す位ダンジョンに潜ってる歴戦の冒険者だから、これ位は楽勝なんだろうが・・・
「お、見っけた」
一花が指差す方を見ると、成る程間違いないと分かる車両が空港の前に止められていた。
冒険者協会仕様のSUVだ・・・・・・街中でこれを乗り回してるのか福岡支部。
いや、乗り心地も良いしちゃんと街中を走れる車なんだけどさ。派手すぎじゃね?
「イチローさん!と、い、一花ちゃんお久しぶりです!」
「お、標準語頑張ってるね!でも翻訳でも良いよ?」
「か、か、からかわんでくれん」
相変わらず女の前だと急におどおどしだす純情ボーイ。うん。久しぶりに見る昭夫くんだ。
とりあえず写メってコミュニティに流しとこ。
「そ、それで。急に呼ばれて来たけんよう分からんけど、手伝いに来てくれたとね?」
「うん、2種免許持ちを増やしたいんでしょ?今3名だっけ」
「そ、そうや。俺含めて4人で回しちょるけん、皆大変で・・・」
一日4回と考えても誰かが休みを取ったりしないといけないわけで・・・昭夫君、マジでフル出勤してるのか?
ずっと居るって聞いてたけど・・・・・・体力は回復魔法で回復するが心は休みがないといかん。
「おっけーおっけー。じゃあ、私達が居る間にあと10人は増やさないとね!」
「学校がある一花は兎も角、俺は暫く居るから。安定するまでは手伝うよ」
「ほんとか!助かるばい!」
「ううん、こっちも別件で昭夫君に用事があったからね!」
そう言って一花は重たいバッグから黒い髑髏が描かれたヘルメットを取り出した。
それを見た瞬間に昭夫くんは俺を見て、再度一花を見て顔を青ざめる。
じゃ、11層行こうぜ昭夫君。
ジャンさん:ヤマギシ撮影班の1人。普段は一花の問い掛けに『OK!ボス!』とだけ言う係。
昭夫くん:初回の教官訓練参加者。現在九州最強の冒険者であり、高校生だが学校側の配慮()でダンジョンに掛かりっきりの状態。