奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第八十七話 お前と俺でダブルライダー

全身を黒く染め上げたボディスーツ。骸骨のマスクを着けた男は、一人荒野をバイクで走っていた。

黒いマフラーを靡かせながら走る彼は何かに気づいたように前方を見やると、砂埃をたてながらバイクを止めた。

前方には巨大な作り物の巨人が土の中から盛り上がり、彼を待ち受けるように佇んでいる。

ゆっくりと自身に向かってくる巨人を、バイクを降りた彼は髑髏の奥の瞳で捉えた。

 

 

 

「はい、カット!お兄ちゃん、やっちゃえ!」

「あいよ」

 

用済みのゴーレムはチャージしたグレネードバスターで吹き飛ばす。この瞬間が堪らない。

勿論今回のドロップ品の取り分は見事な演技を見せてくれた主演の物だ。

 

「嬉しいばってん・・・納得いかん」

 

髑髏マスクを着けた昭夫君が唸りながら腕を組んだ。

そう。今回、撮影されていたのは昭夫君だ。最近、変身した物に引っ張られそうで新しい変身をしてないから、ちょっと動画が滞っていた。

それで何故昭夫君がこんな格好なのかというと、彼のあがりやすさを多少でもマシにするためだ。

 

ファン倶楽部の話が出た時、昭夫君の上がりやすさと純さが話題になった。恐らく経験不足によるものだろうが、彼の純さは長所でもあるが短所でもあると。

つまり、普通には経験出来ないような目に遭わせて慣れちまえば良い、ついでに動画撮影の新しいアクセントになれば良いなぁ、位のノリでこの撮影は行われている。 

 

勿論報酬は奮発してあるし、昭夫くんは顔を出すことは無い。というか報酬の額を聞いた瞬間に一花に縋り付いてたし・・・一番お金になるゴーレム狩りはしてないはずだが、ここ最近の魔石需要で大分稼いでるんじゃないのか、と聞いてみたら苦労をかけた両親の為に、家を建て替えてあげたいとの事だった。

一花に頼んで撮影の報酬を少し上乗せしてもらった。こういうのに弱いんだよ俺・・・

 

そして、昭夫君に渡したこの黒いボディアーマー、こいつはヤマギシ開発部渾身の力作だ。

キマイラの皮革を惜しげもなく使ってアーマーを作り、内部と関節部には協力してくれたメーカーから入手した難燃性の布地を使用。全身に魔鉄を主体にした合金で出来た極細金属糸でコーティング。この金属糸にアンチマジック・バリア・エアコントロール・ウエイトレスをエンチャントしているから、魔力を持った人が着れば非常に快適に動く事が出来る。

右腕のナックルガードとブーツの金具にはサンダーボルトを付与してあり、電磁パンチと電磁キックも再現した。

 

更にこの髑髏柄のメット。こいつはヤマギシチームが使用しているメットと根本的には同じ物なのだが、変身の魔法をエンチャントしてあり、魔力持ちが魔力を流すと髑髏のマークが浮かび上がるようになっている。

通常の変身と同じように使用者の視界を妨げない優れ物だ。

 

「これ。このツーショットが欲しかった・・・!あ、昭夫ライダーはもうちょいポーズこうね」

「あ、はい。昭夫ライダー?」

「オリジナルは滝ライダーだしね」

「あ、はぁ・・・昭夫ライダー・・・」

「うむ、いい構えだ昭夫ライダー。先輩として鼻が高いぞ!」

「全然嬉しくなかとよ」

 

そこは冷静に突っ込まないでくれよ。

一先ず撮影を終わりダンジョンから出る。ジャンさんに後で見せてもらった昭夫ライダーとライダーマンのツーショットは非常に良い出来だった。

こう、今にも「今日は俺とお前でダブルライダーだ」的なノリというかね。

取り敢えずこれも冒険者のコミュニティに流しといて・・・あ、初代様にも送っとこ。

 

 

 

太宰府ダンジョンの内部は奥多摩とそれほど違いは無いようだった。念の為に10層までを昭夫くんと潜って様子を見てみたが、おおまかな内部の構造は変化がないらしい。精々道順が違うくらいか。

今回の俺達の役割は昭夫君の負担軽減と人材育成、及び手が出せる範囲での支援だ。

 

「すげぇ、このボディアーマー、全然重く感じない」

「暑くもない。これ本当に着てるのか?違和感が無さ過ぎる」

「ふふふ。そうだろうそうだろう」

 

調子に乗ったように含み笑いを浮かべる一花。凄いのはお前じゃなくて開発チームだからな。因みにこの装備品もこの支援に含まれている。

まぁ、全部昭夫君に渡したボディアーマーとほぼ同じ物なんだが。流石に昭夫君に追随してダンジョンに潜ってるだけはあり、着ているだけで魔力を消費するこのボディアーマーを着ても特に違和感は感じないようだ。

 

これらの装備品に関してはモニターを兼任して貰う為、無償提供となる。ヤマギシチームの方でも使っているが、俺達完全な熟練の冒険者だけじゃなく、色々な段階の冒険者に使用してもらってデータを集めないといけない。何しろこれからは『マジックアイテムの開発はヤマギシ』と言われるようにブランド化を進めたいのだから、こういったデータは非常に貴重な物になる。

 

これから彼らは二種免許を取得するまで俺と一花の指導を受けて貰う。魔法や基本的に注意すべき事柄は一花が、ダンジョン内部での行動・・・二種免許持ちに求められる素人や新人へのカバーのやり方にダンジョン内部

での気配の探り方といった、熟練の冒険者になる為に必要な技能は俺が教えることになる。

 

教官免許の取得を目指すにしてもこれらの能力は必須技能だからな。

場合によっては今の昭夫くんみたいにチヤホヤされるかも・・・と一花が呟いたら目に見えてやる気になった数名を醒めた目で眺めながら、俺と一花の太宰府ブートキャンプはスタートした。




昭夫くん:実は割とノリ気。ただ、生来の恥ずかしがりな性格が表にでやすい。

お前と俺でダブルライダー:仮面ライダーSPIRITSマジSPIRITS。一郎と一花で牙狼と滝ライダーのどちらが良いか悩んだ結果採用。

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