第十三話
防具がついに届いた。
今回届けてもらったのは特殊部隊用のボディプロテクター、ニーシンパッド、エルボーパッドと要所をカバーするもに、真一さん待望のライオットシールドだ。
使用してみてどうだったかの感想も欲しいらしい。
早速装着すると、刀を持ってる時は盾はちょっと取り回しが難しいかもしれない。
「これ、握るんじゃなくて腕に装着する感じにできないかな?」
沙織ちゃんがそう言って右手で日本刀を振るが、中々しっくりこないらしい。
片手だとどうしても握りが浅くなるからな。
身体能力が向上しているとはいえ、本来両手で振る物を片手で扱うのは難しいからな。
俺?最初からライオットシールドしか持ってないよ。
武器に関しては右手を変形させれば良い俺はこの点気楽である。
日本刀はかっこいいと思うけどな!
さて、先日から実際にダンジョンで日本刀を使用して分かった事が一つある。
正直、消耗品過ぎて補充が追いつかない。
「つばぜり合いとかしたら一瞬で刃が欠けるわ・・・」
ドカッとゴブリンを蹴り飛ばして真一さんがそう呟いた。
3層を突破する際、剣ゴブリンを二人纏めて相手取った時に傷をつけてしまったらしい。
純粋に俺達の技量が足りないだけなのかも知れないがな。
先日潜った時安藤先生に渡した剣は刃こぼれ一つなかったし。
「えいっ!」
沙織ちゃんとシャーロットさんも順調に刀に習熟しているらしい。
剣ゴブが相手なら近接だけでももう大丈夫だろう。
しかし、鞘に入れようとして中々入らない辺りを見るにもう曲がってしまったのだろうな。
「で。本当に1人でやるんですか?」
「ああ。すまんが譲ってくれ」
闘志を滾らせて刀を構える真一さんに了承の意を返し、戦闘を開始する。
けん制にマシンガンアームを使って弾をばら撒き、怯んだ隙に恭二がファイアボールでメイジを片付ける。
周囲に散ったオーガは女性陣が魔法を使って片付け、お膳立ては整った。
真一さんは前に進み出ると、盾を構えてじりじりと間合いをつめるように動く。
オークもそれに答えるように間合いを計りながら接近を始める。
「・・・・・・」
「グルルゥグワア!」
「・・・ストレングス!」
互いの距離があと2、3歩という段階で痺れを切らしたのか、オークが棍棒を振り被って真一さんに殴りかかった。
右上から打ち下ろされた棍棒の一撃を、真一さんは盾を使って横合いから殴り飛ばす。
大きく左によろけて体勢が崩れたオークに、真一さんは雄たけびを上げて刀を振り被り、縦一文字に切り裂いた。
「どうだぁ!」
ガッツポーズをして真一さんはそう叫んだ。
前回死にかけた相手にきっちり完勝。リベンジマッチも素晴らしい結果になったな!
「恭二!一郎!まだまだお前らだけには任せられないからな!こっからも俺が付いて行ってやるよ!」
そう笑って、真一さんは「よし、次の階層覗いてくるか!」と足を進めた。
恭二に顔を向けると、ちょっと涙ぐんでる。
・・・・・・どういうことだ?
「真一さんも色々悩んでるって事じゃないかな?」
今日の探索は6層で軽く戦って終了となった。6層の雑魚はやはりオークにオーガ数体、メイジというチームになるようだ。
家に戻ってから、学校が終わって帰っていた一花に今日あった事を話すと、少し考えた後に妹はそう答えた。
「まず、恭二兄ちゃん。別格だよね、多分恭二兄ちゃんだけで5層まで楽勝でしょ?」
「間違いないな。あいつ、色々試しながら潜ってるから」
「次にお兄ちゃん。その右手もそうだけど、いつでも身体能力アップはヤバイでしょ。チートだよチート」
「恭二見てると霞む気がするがな。最近どっちも出来てるし」
そう。あの魔法博士遂に擬似的に俺の右手を真似してきたのだ。
なんでもトランスフォームを改造して中身もあつらえてみたそうだ。
ただ、俺のように完全にその物という訳ではなく、質量も無い為ハリボテ感が凄いそうだが。
「恭二兄ちゃんは呪文って一手間が入るでしょ?念じるだけでいけるとは言ってたけどイメージがって言ってたしイメージなしでもパパッとできるお兄ちゃんとは大分違うと思うけどね。ま、話を戻すけど!」
要は役割の話だ。俺達二人に探索者として見劣りしている。シャーロットさんはCCN関連で山岸家を支えてくれていて、沙織ちゃんはチーム内のムードメーカー、一花は動画作成等ダンジョン関連の広報として動いているらしいし、翻って真一さん個人は何なのか。
俺達は真一さんを頼れるチームリーダーだと思っているが、真一さんにとってはそうではない、という事らしい。
「全然分からなかった」
「お兄ちゃん、人からの自分に対する感情はほんとニブチンだからね。女の人限定の恭二兄ちゃんよりひどいよ!」
「10年も幼馴染に片思いさせてるレジェンドと一緒にしないで欲しいです」
「50歩100歩かな?」
「あんたたち!もうご飯できてるわよ」
妹とバカ話をしている間に母親から飯のお呼びがかかった。
さて、今日のご飯は何かな、とソファから立ち上がった俺に一花がそういえば、と声をかける。
「お兄ちゃん、明日から6層の撮影をやるんだよね?」
「ああ。真一さんとシャーロットさんはそのつもりらしい」
「ならさ、恭二兄ちゃんがこの前使ってた魔法で、体を軽くするのがあったじゃん。あれちょっと覚えてきてくれない?」
「あー。別に構わんが出来るかわからんぞ?」
「うん、兄ちゃんの得意分野的に大丈夫だと思うけどね!」
そう言って「じゃあ、お先!」と一花は居間を出て行った。
後に残された俺はあの魔法どうやるんだろ、と思い浮かべながら一花を追って部屋を出る。
答えは1週間後にわかった。
『嘘・・・スパイディ!?』
『なんてこった。僕は夢を見てるのか、こんな。信じられない』
CCNスタッフが唖然と見守る中、俺は右腕から発射した魔法の糸をダンジョンの壁に張り付け、壁を走り、狭いダンジョンの中を飛び回るように動きながらゴブリンたちを倒して回る。
赤と青を基軸にした全身タイツの男。そう、その名も!
「俺は地獄からの使者、スパイダーマッ!」
「残念、それは東映だなぁ」
仮面ライダーつながりで最近そっちをチェックしてるんだ。
いや、面白いよ東映版。駄目?
第十四話
『危ない物は没収!』
右腕から発射した魔法の糸をオーガの武器に巻き付けて奪い取り、左手から発射した蜘蛛の巣状の魔法の糸で天井に貼り付ける。
『よそ見してていいのかい?』
オーガ達が呆気に取られている隙に一番手前のゴブリンメイジにウェブを巻きつけて引っ張り、足元に転がってきたメイジを蹴り飛ばして煙にする。
我に返ったオーガ達が飛び掛ってきた瞬間に天井に飛び移り、目標を失って倒れこんだオーガにウェブシューターを当てて地面に縛り付ける。
『上から失礼!』
そして上空からの飛び蹴りで一体を倒し、残りを倒す前に棍棒を振り上げて襲い掛かってくるオークの突進を横合いに飛ぶ事でかわす。
オークの下敷きになって1体煙になったことは見なかったことにする。
『いきなり飛び掛るなんてどうしたの?カルシウム足りてないんじゃない?』
「ブギァアアア!」
『・・・・・・足りてないっぽいね!』
そう言ってスパイダーマンが肩をすくめるとオークは咆哮と突撃で返した。
『でも残念。デカブツの相手は慣れてるんだ』
「ブギッ!?」
ウェブシューターを顔に当てると、オークは怯み顔から糸を引き剥がそうともがき始める。
『足元がお留守じゃない?』
視界を奪った瞬間に滑り込んで両足を蹴り飛ばし、体勢を崩したところに天井にジャンプ。
上空からウェブで全身を覆い身動きが出来ないオークの頭に全体重と勢いを載せたスタンプを加える。
『一丁あがり!いい汗かいたよ!』
カメラに目線を向けて画面内のスパイダーマンはそう締めくくった。
「この声どうしたん?」
「声優さんに頼んだよ!日米両方の!」
「へぇ。お金とか大丈夫か?」
「CCNが喜んでお金出してくれるって!」
「そっか。そっか・・・」
どうも、今回スタント担当になったらしい鈴木一郎です。
先日、CCNスタッフを仰天させたスパイダーマンコスでの動画撮影も無事終了しさて次はアップロードだ、という段階で再び一花監督からの待ったがかかり、数日後。やっと完成したと言われて見せられたのが先ほどの動画です。
うん、やばいね声優って。台本なしの筈なんだけどすげぇ。
スパイダーマンめっちゃ喋るな。俺「とぅ!」とか「へあ!」とかしか言ってなかったんだが。
「だから声優さんにお願いしたんだけどね!」
「すんません……」
「お兄ちゃんに演技は期待してないから大丈夫!他は期待以上だったしね!」
「やる事多過ぎて死にそうだったぞ」
そう。このスパイダーマンの動画を撮影する為に俺が覚えた新魔法、その数なんと4。
一週間でこれらを覚えて無意識に使えるように習熟し、さらにスパイダーマンっぽい動きを織り混ぜられるようにビデオ等で動きの修正をして、更にその動きをしながら敵と戦えるよう訓練をして、と。
正直学校に行ってたらまだまだ終わってなかったと思う。
あ、この度というか数日前から正式に休学という形になりました。
恭二達は高校は出ると言ってたが、俺の場合学校に行くだけで学校にも生徒にも迷惑かけちまったしな。
最近も恭二の家に行くだけでもトランスフォームを使ってるし、道端で俺を探してるのかカメラ持った人がうろうろしてるのも見かける。
特にこないだのライダーマンをネットに流した辺りから明らかに本格的な装備をした年輩の方々が結構な頻度で陣取ってる。
通りすがりを装って話しかけてみると、結構遠い地域から撮影にきてるらしい。
「コスプレだとはわかってる。でも、実際に戦っているライダーをこのカメラに収められるかと思うと、居ても立ってもいられなくてな」
「成る程、こだわりなんですね」
大学生を装って少し話してみると結構いい人達が多かった。
今話してるおじさんは近畿から車を飛ばして来たらしい。
自動車の後部を改装して
「仕事は大丈夫なんすか?」
「嫁に任せてある。2、3日なら問題ないさ」
「俺は有給取った!」
「俺も」
近場で話を聞いていたおじさん方も話に加わってくる。
そこからはどこから来たやら今までのカメラ歴やらと話が弾み、缶コーヒーまで奢って貰ってしまった。
いつまで経っても山岸さん家に来ない俺を心配した一花の連絡がなければまだ話してたかもしれない。
「何とかならん?」
「ライダーマンなら何とかかな?」
シャーロットさんから、スパイダーマンは絶対絶対絶対にCCNで扱わせて欲しいと言われているのでそっちは無理としても既に露出しているライダーマンならそれほど厳しくはないはずだ。
「という訳でどっかで撮影会とかしても良いですかね?」
「……出来れば独占したいけど、スパイディでなければ……」
シャーロットさん、スパイダーマンの大ファンらしく、初めてトランスフォームを使って変身した姿を見た時は狂喜乱舞だった。
それ以降もやれ「スパイディの飛び方はもっとこう」と動きの修正を入れてきたり、「壁を走れなきゃスパイディじゃない」と言ってウォールラン(壁に足を吸い付ける魔法)の開発を恭二と行ったり、「私もMJと同じ赤毛なんだけど」とどうすれば良いかわからない事を言い始めた時には即座にジャンさんに連れていかれたが、あれ結局どうなったのだろうか。
聞くのが怖くて聞けない。
話を戻して撮影会の事だ。
結局、今奥多摩に集まっている人に関しては住民の迷惑になるから、という事で帰ってもらった。
尚、その際にせめて一枚でも写真を取らせて欲しいとの声に答えて、公民館の一室を借りて臨時の撮影会を行った。
トランスフォームを使い、ヘルメットを被った瞬間に変身を済ませるとどよめきの声が上がり、カセットアームを切り替えると歓声とシャッター音が室内を埋め尽くす。
最後に握手をすると、皆カセットアームを触りたがり、そして涙した。
「結城さん、貴方に会えて嬉しい」
「あの、鈴木なんですが」
全然話を聞いてもらえず数十人のおじさん達にライダーマンへの思いの丈をぶつけられる苦行が始まった。
第十五話
握手会という苦い思い出はさておき。
今日は以前からアポイントメントを取っていた刀匠に会いに行く日だ。
見るからにワクワクしている真一さんに学校を休まされたらしい恭二とそれについてきた沙織ちゃん、 ヤル気満々で打ち合わせをしているシャーロットさん達CCNクルー、そしてそれを羨ましそうに眺める山岸さんという、真一さんと恭二のテンションが可笑しい事を除けばいつも通りの光景だな。
「俺も行きてぇ」
「誰か居ないといかんだろ。工事も始まってるし」
以前、CCNが山岸家の窮状を自社の番組で訴え、義援金を募ってくれていたのだがこのお金が先日漸く入ってきた。
ちなみに想像していたものより文字通り桁が違って山岸さんは卒倒しそうになったらしい。
そして、ある程度以上に纏まったお金が入ったので山岸さんはこれを機に法人化を行い、探索者チームの装備の支払いやダンジョンを覆う建屋の建築、コンビニの代替地の確保などを行っている。
……俺の動画を何回も見てイメージはバッチリらしい。
普通の探索には欠片も役に立たないと思うので今度恭二に注意して貰おう。
「初めまして、お話は伺ってます」
工房を訪ねると作務衣を着た四十過ぎの男性、刀匠の藤島さんが俺達を出迎えてくれた。
顔立ちから頑固一徹といった厳しそうな印象を受けたが、言葉遣いは丁寧柔らかく初見のイメージを良い意味で裏切ってくれた。
俺達はまず、実際に戦闘で使用して折れ曲がったバットや、刃こぼれした刀等を工房に広げさせてもらい藤島さんに見てもらった。
藤島さんはその時の状況等を詳しく聞いてきたがその辺りは真一さんが逐一答える。
俺の場合ほとんど武器を扱わないからなぁ。
「ふむ。その状況では数打ちをたくさん使ってコストを押さえるのが良いでしょう。非常に正しい運用法だと思います」
そう言って藤島さんは苦笑いを浮かべる。
「刀鍛冶としては歯がゆいんですが、本来刀は護身用なんです。それが、江戸時代には武士の魂みたいな扱いになった」
武器としては槍の方が優れている。
藤島さんも無限にモンスターが現れるダンジョンのような場所では、槍の方をお勧めしたいそうだ。
「我々もその点は認識していました。そこでお願いなんですが、藤島さんに是非槍の作成をお願いしたいのです」
「私が、ですか」
槍を作ること自体は鍜冶師なら出来る。行わないのは需要が全くないからだ。
現在ある槍は骨董品等の名品のみで、刀に比べて手頃な値段の物はない。
俺達が求める条件の槍を手に入れるには新しく作るしかない。
「なるほど、お話はわかりました。問題ありませんが一つだけ条件があります」
「条件ですか?」
「私も一度連れていってもらいたい」
そう言って藤島さんは表情を緩める。
使用した刀を藤島さんに預けて、学生組は帰路につくことになった。
CCNスタッフはこの機会に作刀風景を撮影するらしい。
日本の文化が好きだと言っていたシャーロットさんはずっと藤島さんに付いて回りスタッフ一同に苦笑いを浮かばせた。
タクシーを呼んでもらって帰る間際にようやく「気を付けて下さいね!」と声をかけてもらったがその瞬間以外ずっと鍜冶道具を見てたからな。
下手すると刀が一本出来るまで見続けるんじゃないか?
一応夜には取材が終わったらしい。
「あんな美人さんにマジマジ見られると緊張しますね」
とは次の日、早速ダンジョンを体験しにきた藤島さんから聞いた話だ。
シャーロットさんはそれを聞いているのか居ないのか、真一さんと今日のダンジョンアタックについて意見を巡らせている。
「今日は藤島さんに刀が実際に使用されている所を見てもらう。刀のストックがないから3層の剣持ちのゴブリンをメインに行こう」
「オーケー」
「藤島さんのサポートには一郎がついてくれ」
「了解でっす」
さて、今日は撮影ではないので変身なしで右手はカセットアームに変形。
隙を見てハンマー打ち込もうと画策していると藤島さんから「ライダーマン……?」との呟きが。
珍しい反応だったので聞いてみると基本的にテレビもネットも余り使わないらしい。
なるほど。ヘルメットを被って変身!
「ライダーマン!」
「おおおおおお!」
大喜びで握手を求められた。
前のカメラのおじさん方と世代が近そうだなとは思ってたので試してみたがビンゴだったらしい。
あ、撮影ですか?どうぞ。
記念に作業場に飾る?あ、はい。作刀の邪魔にならなければどうぞ。
さて、ダンジョンである。
といっても今さらこの階層で何か起こることはない。
ゲストの藤島さん以外は感知が使える上に戦闘毎に全員にバリアーをかけてあるため、万に一つの事故もないだろう。
といってもここはダンジョン内。油断は禁物だ。
センサーに常に気を配り、藤島さんが観察に専念できるよう注意して行動する。
探索が終わった頃には、全ての刀が鞘に入れられないほど損傷していた。
「この使用した刀はお預かりしても?」
「勿論大丈夫です」
「知り合いの刀匠にも見て貰おうと思います。何人か声をかけた友人は直ぐにでも見たいと言っていました」
実際に刀が使用される事は現代では殆どない。
実戦で使用された刀に刀匠達がどんなインスピレーションを受けるのか。今から楽しみだな!
後日、刀についても勿論盛り上がったがそれよりライダーマンと握手をしている写真が大反響だったと藤島さんに言われ、何とも言えない気分になる事をこの時の俺はまだ知る由もなかった。
第十六話
さて、藤島さんに武器についての相談を済ませた俺達は6層の攻略に取り掛かる事になった。
といっても武器の問題があったので、先日お世話になった刀剣商の店主さんに連絡を入れ、日数がかかっても良いのでと頼み刀を数振り購入。
メインはバット、もしもの時は腰に差した刀を用いるスタンスだ。
「オークにはファイアボールが効く……かな?」
「ヘッドショットならファイアバスターでも一撃だしな。サンダーならどこに当たっても同じだが」
「サンダーボルトは消費がな。お前は関係ないだろうが」
羨ましそうに恭二が俺の右腕を見る。
今回のメンバーは真一さん、恭二、沙織ちゃん、シャーロットさんに一花を加えたフルメンバーのパーティーだ。
特にトランスフォームを使う必要もないため、俺は右腕をロックバスター式に変形。
前衛は真一さんと恭二に任せて後方から弾をばら蒔いている。
ロックバスターにしている時はバスターの銃口から魔法が発射される。
このバスターは本来のファイアボールやサンダーボルトに比べれば半分位の威力になるが、魔力効率が段違いらしい。
威力の面も魔力をチャージをするとどんどん威力を上げられる。
ただ、チャージはその分時間もかかるし消費もある。その上、銃口からの発射に縛られるから凄く便利って訳でもない。
恭二のようにファイアボールを複数出して任意の相手にポンポン投げわけるような事も出来ないしな。
「ボスは……胸当てつけてやがる」
「魔法主体で大正解だね!」
バットを肩に置いて真一さんがそう呟くと、一花がヨイショするように拍手を贈る。
前々から真一さんにべったり押せ押せの一花だが、最近はリーダーとしての真一さんを補佐したり後押ししたりするような所が多く見られる。
探索の時間がどうしても取れないし少しでも役に立ちたい、と言っていたが……流石にナンパ好きな真一さんも一花は完全に対象外らしく端から見ると兄の手伝いを頑張る妹にしか見えない。
真一さんに迷惑をかけなきゃ邪魔するつもりはないので、地道に頑張って欲しい所である。
流石に真一さんの世間体もあるから応援はしないがな。
「サンダーボルト!」
「サンダーボルト!」
ちなみに戦闘自体は恭二と沙織ちゃんの全力サンダーボルト二発で終了した。
雑魚のオーガやオークは恭二の一発目で、辛うじて生き残っていたオークジェネラルも沙織ちゃんの二発目で煙と化した。
身構えていた真一さんとシャーロットさんは苦笑を浮かべている。
「このまま7層も行けそうだね!」
「油断するなよ一花ちゃん。まぁ、俺も次までは問題ないと思うけどな」
「撮影スタッフを入れる前に習熟も必要です。進める内は進みましょう」
最近ボーナスが出たとホクホク顔のシャーロットさんは相変わらず更なる特ダネに餓えている。
ここ一週間ほどダンジョンの情報には目新しいものもない。そろそろ次の段階に進みたいとの事だ。
CCNには山岸さんの家の窮状を救ってもらった恩義もあるし、手応え的にも問題ない。
そのまま俺達は7層の攻略に入った。
7層ではオーガが消えてオークジェネラルが雑魚に加わった。
オークにオークジェネラルと完全に肉弾戦特化の布陣である。
近接戦闘なら苦労したろうなぁ、とサンダーボルトで一掃されるオーク達を見ながらオークジェネラルに止めのファイアバスターをお見舞いする。
近寄られると不味いならそもそも近寄らせなければ良いのだ。
特に危なげなく7層のボス部屋までたどり着くと、オーク達よりも頭一つは大きなオーガのようなモンスターがいる。
「……鬼?」
「日本の鬼に近いな」
槍をもった鬼は雄叫びを上げて俺達に襲いかかってきた。
近寄られると不味そうだと感じたので牽制のファイアバスターを顔面にぶち当て、怯んだ所をサンダーボルトの一斉攻撃。
後にはドロップ品しか残らなかった。
「やり過ぎたかな」
「俺達の安全性には変えられないさ」
「それもそうですね。ところで」
真一さんの言葉に頷いて、俺は鬼のドロップ品を拾い上げる。
ドロップ品は各自の獲物。つまり、槍だ。
真一さんも微妙な表情を浮かべている。
ここ数日のやり取りが一発で解消しかねないからその表情になるのも分かりますがね……
「とりあえず、使ってみたらどうです?」
「……そうだな」
「これめっちゃ良いわ!」
8層に突入し、とりあえず試してみると言って真一さんは数匹のオークを槍で相手取る。
そして、まさに開眼というべきか。
数戦でオークやオークジェネラルをバッタバッタとなぎ倒しながら楽しそうに笑うようになった。
流石に同じ間合いの鬼に近接で突っ掛かるのはやらないようだが、刀の時とはまるで違う殲滅速度には目を見張る物がある。
真一さん、もしかして長物の方が刀より相性良いんじゃないか?
恭二も真似してるがあそこまで使いこなせてないしな。
「一郎、すまんが鬼は頼んだ!」
「あいよ」
恭二の頭越しにサンダーバスターを鬼に撃ち込む。
あれだけタッパがあると的もでかくてありがたい。そんなに魔法抵抗力もないみたいだしサンダーバスターなら一撃だ。
8層も問題なく行けそうだ。これは今回で10層まで行けるか?
まぁ、行ける所まで行きたいが。判断は真一さんに任せよう。
余計な考え事を止めて、俺は戦闘に意識を切り替えた。
山岸 真一:弟がヤバイってのは何となく分かってたけど最近弟分の方もヤバイことに気づき置いていかれてる間隔に襲われる。でも身体能力はどう考えても随一なので本人の心配しすぎ。
鈴木 一花:正直一番置いてかれてるのは自分なんだけどなぁと思ってる。戦闘能力で一歩及ばない分、良い女は男を支えるもの、と真一のフォローを中心に行動を始める。
スパイダーマッ!:東映版スパイダーマンは本家原作者も絶賛する位出来がいい。レオパルドン以外
スパイダーマン:言わずと知れたスーパーヒーロー。悲惨な境遇の話が多いため、一花としては彼かウルヴァリンを兄に演じて貰うのが当面の目標だった。
山岸恭二:一花に頼まれて粘着力のある魔法の網を打ち出すネットと天井に張り付く為のエドゥヒーション、更にシャーロットからの要請で壁を自在に走れるようエドゥヒーションを改良したウォールランを作成。他人の発想にインスピレーションを受けたのかどんどん魔法を改良中
シャーロット・オガワ:ついMJと呼ばせそうになった所を同僚にインターセプトされ事なきを得る。後に正気に返った。日本刀の作刀風景を余すところなく撮らえようとするも流石に迷惑だと他のスタッフに止められる。
山岸さん:藤島さんをダンジョンに連れていった件でブーたれている。1日に1度「俺も行きてぇ」と呟くようになる。
藤島さん:ツーショットの写真を拡大して引き延ばし作業場に飾る。何か集中したいときこの時の写真を眺める癖ができる。